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かけ算が1つ,わり算が2つ

いきなりですが問題です.

A 定価2400円の品物を2割引きにします。何円安くなりますか。

B 2割引きにしたので480円安くなりました。定価は何円だったのでしょう。

C 480円の2400円に対する割合をもとめなさい。

(田中博史: ビジュアル公式「4マス関係表」, 算数授業研究 90 特集:これだけは知っておきたい!「習熟」のための指導技術, p.51 (2013))

あとは箱囲みのない地の文になるので割愛します.式はそれぞれ2400×0.2=480,480÷0.2=2400,480÷2400=0.2ですが,どうして,かけ算が1つ,わり算が2つなのでしょうか? かけ算をもう1つ増やして2つずつにするか,わり算を1つ減らして1つずつにするのが,公平なのではないでしょうか?


上で引用した文章では,書名こそ挙げていませんが,『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』の宣伝をなさっています.当ブログでは4マス関係表で取り上げています.
「かけ算が1つ,わり算が2つ」になっている事情は,今年作ったQ&Aの中で書いています(後述)が,本日は新たな検討を試みることにします.上記ページには表がありまして,A,B,Cに対応する2行2列の表は,それぞれ次のようになっています.
A:

2400円
1 0.2

B:

480円
1 0.2

C:

2400円 480円
1 ?

そうすると,次の関係になる状況ってのもあるのではないか,と思うようになります.

2400円 480円
0.2

これをDと呼ぶことにします.これがかけ算で求められるなら,かけ算が2つ,わり算が2つで,バランスがとれます(実際には,以下で述べるとおり,そうはいきませんでした).
問題文を作ってみるなら…「480円は定価の2割です.2400円は,定価の何割でしょう」.これは問題文だけ見て解けます.480:0.2=2400:xと式を立てて,480x=0.2×2400=480.左辺と右辺を0.2で割るとx=1.2400円は定価そのもの,割合にすると「10割」です.
とはいえこれは,大人モードです.方程式も,比例式も,内項・外項も,480xなんていう文字式も,小学校の算数の範囲を超えています.
小学生モードでも,解いておきましょう.「2400円・480円・?・0.2」の表は,「480円を何倍かしたら2400円になる.これは,480円に何かをかけると,2400円になるってことだ.0.2に,同じのをかけると,?の答えになる」と読むことができます.「480円を何倍かしたら2400円になる」の中の何倍は,2400÷480=5で,5倍です.0.2に5をかけたら…0.2×5=1です.2400円は定価そのもの,やはり定価の10割です.めでたしめでたし.
いえいえいえいえ.どうやら,4マス関係表で,「1」になる箇所を「?」にして計算しようとすると,1個のかけ算でも,1個のわり算でもなく,わり算とかけ算を組み合わせた,複雑な式となってしまいます.
なぜそうなるかについては,Dの中で値を1つだけ変えた,次の問題(Eと呼びます)を解けば見えてきます…「480円は定価の2割です.960円は,定価の何割でしょう」.比例式にすると,480:0.2=960:x.これを解いてx=0.4.答えは4割です.
表は次のとおりつくって:

960円 480円
0.2

ここから関係を見ると,960円は480円の2倍(960÷480=2),0.2の2倍は0.2×2=0.4となります.
DもEも,まったく同じ流れです.「?」に入ることになる値が,1であっても1以外であっても,同じ手順,そして同じ手間で,解くことになります.
DとEを,「帰一法」を使って解くことにします.帰一法は式計算の手法であり,図も表も用いないのですが,ここではプロセスが分かるよう,2行3列の表にします.値の大小関係ではなく,既知から未知の順に各列を並べます.そして,1とみたときの値をいったん求めてから,答えを得ることにします.まずはE:

480円 ?円 960円
0.2 1

480円 2400円 960円
0.2 1

480円 2400円 960円
0.2 1 0.4

先に左2列分,「480円・?円・0.2・1」の表から,?を求めます.これが「1と見たときの金額」すなわち定価です.これはBの表のことでして,なので?は2400です.
そして右2列分,「2400円・960円・1・?」の表から,?を計算します.今度はCの表と同様となりまして,960÷2400=0.4となります.
同様に,Dを2行3列の表にすると:

480円 ?円 2400円
0.2 1

480円 2400円 2400円
0.2 1

480円 2400円 2400円
0.2 1 1

2400円が2つ,横並びになります.1も2つ,横並びです.
帰一法で考えると,Dのほうがわり算を1回分しなくて済みます.なので,Eよりも手間が少ない,と言うことができます(でもかけ算・わり算の結果が「1」になる問題は,算数でなかなか見かけないですね…).比例式と,小学生モードの解法では,わり算1回とかけ算1回を使用していますが,帰一法となるEでは,わり算を2回使用して答えを求めることになるのが,興味深いです.


「かけ算が1つ,わり算が2つ」になっている事情として,以前に書いたものを引用します.

乗法・除法の相互関係は,割合(「倍」の考え方の一つ)だと,A=B×p,p=A÷B,B=A÷pで表すことができます.低学年で学習する,分離量どうしの乗除算にも,同様の関係があり,かけ算・わり算の8マス関係表を作ってきました.

「×」から学んだこと 13.04―トランプ配り

米国のCommon Core State Standards for Mathematicsに収録されている,かけ算・わり算のも,「かけ算が1つ(Unknown Product),わり算が2つ(Group Size UnknownとNumber of Groups Unknown)」です.
補足すると,かけられる数とかける数とを区別する場合には,B×p=A(Bはbase,pはproportion,Aはamount)と表すことができ,それぞれの文字について解くとA=B×p,p=A÷B,B=A÷pの3つの式が得られます.かけられる数とかける数とを区別しない場合には,A×B=p(AとBは2つの数,pはproduct)と表され,同様にA=p÷B,B=p÷A,p=A×Bとなりますが前二者は実質的に同じ*1なので,かけ算が1つ,わり算が1つとなります.


『算数授業研究 Vol.90』の自分用メモ:p.25の「5×5−1」に対応する●の並びは間違っています.ジャマイカがp.38とp.50で別々の1ページ記事になっています.p.52には5×3と3×5(団子に串刺し),6×2と3×4(キャンディを分ける)で総数は同じだけれど式が違うという絵があります.p.53では,「15分を1kmで歩く人の速さは,時速何kmですか」の計算式に1×4を挙げています.

(最終更新:2013-11-20 朝)

*1:Common Coreの表にある"Area example. A rectangle has area 18 square centimeters. If one side is 3 cm long, how long is a side next to it?"と"Area example. A rectangle has area 18 square centimeters. If one side is 6 cm long, how long is a side next to it?"が該当します.