わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

授業研究,朝日新聞,かけ算の順序

コメントなしのはてブをしました.記事を読んだ印象は,今さらな内容だなあといったところです.例えば授業研究とリンゴ - モンゴル@ドルノド県教育局便り - Yahoo!ブログでして,そこで「100」を探せば,朝日の記事中のコメントと同趣旨の発言が見つかります.
さて,本記事を書こうと思ったきっかけのは,次のコメントでした.

id:tikani_nemuru_M 実は日本の教育は生徒の主体性を重んじた質の高いものだったというお話。なぜか日本の教育・教師はダメだという政治家に無茶苦茶にされている教育現場。あと、授業研究に熱心なのは日教組だよ。

http://b.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20140108#bookmark-176470318

この方は以前,はてブのコメントで「かけ算の順序」に批判的な記述をなさっていました.次の2件が顕著です.

tikani_nemuru_M この問題、僕は南京事件に関するネット議論と似たものを感じている。掛け算に順序ある派は徹底的に論破されてるのだが、訳知り顔で「順序はある」と参入してくるお歴々が後を絶たない。ちっとは過去議論参照しろ。

http://b.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20131119#bookmark-169801150

tikani_nemuru_M 掛け算に順序があると教える教師は、足し算にも順序があると教えてるらしいよ。「4人で遊んでいたところに3人合流した」場合は4+3でないといけないらしい。アホかと。

http://b.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20131118#bookmark-169603350

授業研究を含む授業の進め方は多くの教科でなされているのが,朝日新聞の記事から読み取れますが,算数に限定することにして,そういった長年の授業研究を経て,「掛け算に順序ある派」となっているのは,どういうことなのだろうかという疑問が起こります.
そこに疑問を持ったのは私だけではなく,すでに,はてブ連動のツイートで読むことができます.https://twitter.com/tikani_nemuru_M/status/420721511326957568と,それ以降の[twitter:@tikani_nemuru_M]さんのツイートには,ざっと目を通しました.


ここで,冒頭の朝日新聞の記事から連想する情報を,(1)ティーチングギャップ,(2)日本の教育の海外展開,(3)ネットにおける「かけ算の順序論争」,(4)朝日新聞の「かけ算の順序」関連記事,に分けて整理しておきます.
まず,「「ティーチングギャップ」という本」は,以下の本のことです.

The Teaching Gap: Best Ideas from the World's Teachers for Improving Education in the Classroom

The Teaching Gap: Best Ideas from the World's Teachers for Improving Education in the Classroom

日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu

日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu

  • 作者: ジェームズ・W.スティグラー,ジェームズヒーバート,James W. Stigler,James Hiebert,湊三郎
  • 出版社/メーカー: 教育出版
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本
  • クリック: 1回
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これらを当ブログで取り上げたのは,2011年になります.ドイツは100,日本は50,米国は81です.その後,かけ算の順序論争と関連づけて,なぜ教材研究日本の算数教育の特徴を書いてきました.
なお,「ティーチングギャップ」の著者らは,いきなり「日独米の3カ国」で調査をしたわけではなく,1980年代に日本・アメリカ・台湾で,学力のほか教育システムなどの調査をしており,Scienceに論文が掲載されています.学力に関しては,「ミネアポリスの最高クラスは日本の最低クラスよりも平均点が低かった.概念的な思考を要求するところでも,アメリカ<日本だった」のが特徴的なところです.概要や,日米間の授業比較に関する時系列は,日本の問題解決型授業は,1980年には定着していたにまとめています.
次は,授業研究に限定することなく,日本の教育は海外に「輸出」されているという観点からの情報整理です.といっても私が読んできたのは,算数教育のみです.たびたびリンクしているのは,以下のJICAの報告書です.

以前に書いたものを転載すると,「タイ語のかけ算の自然な語順は日本語と同じであるが,教科書の式は英語と同じという観察から,学習者の認知的な負担を指摘し,他の事例と合わせて,教育の国際協力におけるカリキュラム開発の注意点を提示している」です.ちなみに,PDFファイルで「かけ算の順序」を検索すると,1箇所出現します.
この報告書の著者は現在,広島大学の教授です.http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/pr/risukeirin/pdf/no001_11.pdfで,啓林館の算数教科書の英訳に携わったこと,その際に「掛け算の掛ける数と掛けられる数の順」は,日本語の語順で統一したことが,記されています.
上記の件を含む,当ブログでの事例整理には,日本の「かけ算」,世界へ・世界と国際比較に追加日本の算数教科書がスペイン語へ翻訳などがあります.
国際比較や国際協力(カリキュラム作成,授業支援)で考慮されてきた「かけ算の順序」は,「かけられる数×かける数」と「かける数×かけられる数」のどちらを採用して,かけ算の式の書き方を指導(子どもたちは学習)するかに関するものとなっています.
3番目は,ネット上で見かける「かけ算の順序論争」についてです.論争を自分なりに表すと,「算数は『かけられる数×かける数』で教えているというが,それでいいのか(数学は,あるいは世の中は,それだけじゃないよ)」となります.賛否・根拠はともかくとして*1,海外でも,その種の出題事例そして論争を見ることができます.
台湾の昨年11月のTV報道(http://www.youtube.com/watch?v=vhaOzXSLSywかけ算の順序を問う問題)は,興味深い内容でした.昨日のアクセス(2)からのリンクで,韓国も「かけられる数×かける数」で教えていること,またベルギーで(「かける数×かけられる数」に基づいて)テストでかけ算の順序が問われたという事例を,知ることができます.英文を書けば,海外で取り上げてくれる人もいまして,http://www.neogaf.com/forum/showthread.php?t=719357をざっと読んだところ,「日本にいたが」「妻が日本人だが」から始まる感想は,すべて,かけ算の式が一つだけという採点方針には否定的でした.
最後に,今回の朝日新聞の記事では,「かけ算の順序」が出てきていませんが,知る限りこれまでに3つ,それを扱った記事を載せています.そのうち以下の1件のみ,asahi.comで全文を読むことができます.タイトルからも想像できるとおり,「順序」に基づく授業事例です.

残り2件は他サイトになります.いずれも,「順序」に否定的と言っていいでしょう.

これらと,「授業研究」の記事から,うかがい知ることのできるのは,次のことです.朝日新聞は「かけ算の正しい順序」に基づく算数教育を,支持も不支持もしていないようです.「ニュース性」を中心とした自社の編集方針によって,記事にし,掲載しているというだけのことです.


かけ算の順序に反対する人々は,それに基づく,1年から6年までの一貫した算数教育の方法を実現(それどころか提案)できていません.個々の授業例や書籍の一節,また電話などによる不確かな情報のやりとりをもとに,あれはダメだ,こんな考え方だってできるじゃないかとケチをつける一方で,自分の理想とする教育を,歴史的また国際的な面で比較しようとする姿---専門家じゃない自分の発想は,すでに検討済みではないか,という問題意識---が見られません.
南京事件に関するネット議論」に関連して言うと,歴史修正主義もしくは南京事件否定派は,個人的には,掛け算順序否定派と重なります.否定意見を振りまく「専門家」の専門分野,そして当該分野の業績を,チェックしてみましょう.かけ算の順序論争における学問分野は,もちろん,数学ではなく数学教育学(あるいは,教科教育学(算数))です.数学教育学においてどんな成果があるのかを知るには,以下の本が最適です.

数学教育学研究ハンドブック

数学教育学研究ハンドブック

非専門家による検討・展開と,算数教育ではどうなっているかの比較について,一例を示します.わり算の意味づけでよく知られたキーワードは,「包含除」と「等分除」です.算数教育に携わる人々にとっては周知の用語であるほか,PDFで読める『小学校学習指導要領解説 算数編』からも見つけることができます.批判する人々は,そのような区別に基づく指導法を,問題視しています(例えば,http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t9/l50).
その2種類は,指導法(how)の以前,すなわち,わり算が適用できる場面(what)によるものです.「等しく分ける」ような日常場面を整理したり,除法指導の事例・文献を読んでいったりすることで,「包含除」に基づくものと,「等分除」に基づくものとに大別されているのです.
かけ算1つにわり算2つという相互関係は,海外でも見ることができます.米国Common Core State StandardsのMathematicsでは,p.89に表があります.日本語訳は,『算数授業研究 VOL.89』p.57で読むことができ,その執筆者は高橋昭彦です.といったところで,朝日新聞の記事とつながりました.

*1:というわけにもいかないのでリンク:正解・不正解の理由学校の外で「×」