わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

アレイを伝える

いきなりですが問題です.

ある紙に,次のように描かれています.

○○○○
○○○○
○○○○

何が描かれているかを,これを見ていない他の人に,言葉だけで伝えてください.

身振り手振りも禁止とします.「大人向け」と「小学校2年生向け」の2通りを考えたいものです.
さっそくですが元ネタです.

  • 柳瀬泰: 「めあて」と「まとめ」のあり方から今日的な授業の改善点を探る, 算数授業研究 VOL.91, pp.22-23 (2014).

読んでいくと,2人の子どもが出てきます.まずは:

一人目の子どもは「○が12個あります。それがバランスよく並んでいます」と言う。教師は共感的な笑顔で「なるほど! どう,みんな,描けるかな?」と聞くが,子どもたちの首が一斉に横に振られる。

情景が思い浮かびます.
二人目の子どもは「○が横に4つ,縦に3つ,4つが3つあります」と言います.そして教室では,先生の指示で,二人の言葉からイメージできる図を描いていきます.出来上がったのは:

(エ)の図は,うまく伝わったことを表します.それ以外にも図ができているって,伝え方,おかしいんじゃないの…と言いたいところですが,(ア)(イ)(ウ)のそれぞれを,「○が12個あります」「○が横に4つ,縦に3つ,4つが3つあります」と照合すると,どこか満たしていません.本文では,「それぞれの図を認めながらも,アやイの図は,条件と異なることを確認する。」と記しています.
授業としては,「4つのかたまりが3つある」「4つずつ3れつある」などの見方と,それを表現するための言葉を指導しています.これは著者が見た授業で,「めあて」も「まとめ」も先生が言ったり書いたりしなくても,子どもたちは「めあて」をもって取り組んでいるという事例の紹介です.
その趣旨と,結語の

(略)だから「めあてはいらない」「まとめをするな」と論じているのではない。ただ,「めあて」「まとめ」という言葉が,授業を展開するためだけに表面的に使われていることには強く警鐘を鳴らしたい。

には賛同しつつも,「めあて」「まとめ」の明確化が効果的/非効果的な状況の分類もしくは典型例が,書かれてあってもよかったように感じました.今回読んだ記事を,あえて過小に評価するなら,かけ算の単元の初回授業では,「めあて」を使わなくても効果的な授業が進められるという事例紹介で片づけられてしまう可能性があるのです.


さてこの3行4列のアレイの件,大人どうしだったら間違えられずに伝えられるかというと,残念ながらそうもいきません.「3行4列」で通じればいいのですが,小学校の授業にせよ,大人モードにせよ,話し手と聞き手(あるいは,書き手と読み手)で共通して理解できる用語が不明確なのです.
冒頭のように問題を用意して,では自分ならどう言うか…

  • 絵を作ってWeb上に置いてから,「パソコンでブラウザを立ち上げ,これから言うアドレスにアクセスしてください.えいちてぃーてぃーぴー(以下略)」と言う.
  • 将棋を知っている人には,「○の配置を申し上げます.いちいち○,いちにい○,いちさん○,にいいち○,にいにい○,にいさん○,さんいち○,さんにい○,さんさん○,よんいち○,よんにい○,よんさん○」と言う.

なんかが,ぱっと思い浮かびますが,どう見ても,みんなに通じるとは思えません.単語レベルで共通認識がある*1としても,前者はURLの聞き間違いが起こり得るし,後者は将棋盤を描いてからその右上に3行4列で○が乗ることになってしまいます.
アレイはきれいな配置で,簡単そうに見えるけれども,それがどんなものかというのは,授業などを通じて,人工的に,教えていく必要がある,という思いを強くしました.その際に「4つのかたまりが3つある」というのは,積の乗法(を持った構造)を倍の乗法に帰着している活動であること,また,「4つのかたまりが3つある」のほうが「3行4列」よりも分かりやすいことは,Common Core State Standards for Mathematicsにも"the easiest form of array problems","harder form"などとして記載のあることと合わせて,配慮したいところです.
「かけ算の順序」論争に適用すると,次のとおり:「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。」という場面に対して,3行4列の(グルーピングなしの)アレイは,対応が合わず,その図は与えられた場面を適切に表していない,というのが,算数教育を歴史的また国際的に見ていったところの帰結となります.

*1:「○」で通じるかなというのは,いろいろ案を考えていて最初に沸いた疑問でした.言う側は「○」でも,聞く側で「丸」あるいは「マル」という文字と受け取るのではないか,という疑念です.これについては,「図形を描いてもらいます」を最初に添えれば,ある程度は解消できることに気づきました.