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はじめのひもの長さは〜指導書・解説より

『小学校学習指導要領解説 算数編』『小学校指導書 算数編』の第3学年の説明で,かなり前から気になっている,かけ算の文章題があります.
問題文を含む段落を,書き出してみました.

1978年(昭和53年):小学校指導書 算数編

  • 文部省: 小学校指導書 算数編, 大阪書籍, 昭和53年5月, MEJ 1-7807. *1

第2学年では,乗数が人数や個数などのいわゆる分離量を表す1位数の場合について指導してきている。この学年では,例えば,「1mのねだんが85円のきれを25m買うと代金はいくらか。」などのように,用いられる数が大きくなっても,全体の大きさを求めるのに乗法が用いられるということの理解を深めるのがねらいである。更に,ここでは,除法の逆としての乗法,例えば,「ひもを4等分した一つ分を測ったら15cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」のように,除法が用いられる操作や関係において,除数と商から被除数を求める場合にも当たるときにも,乗法が用いられることに着目させていく必要がある。
(p.73)

1989年(平成元年):小学校指導書 算数編

小学校指導書 (算数編)

小学校指導書 (算数編)

第2学年では,乗数が人数や個数などの簡単な場合について学習してきている。この学年では,例えば「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」などのように,用いる数が大きくなっても,全体の大きさを求めるのに乗法が用いられると言うことについての理解を深めることをねらいとしている。さらに,ここでは,除法の逆としての乗法,例えば,「ひもを4等分した一つ分を測ったら15cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」のように,除法が用いられる操作や関係において,除数と商から被除数を求める場合にも,乗法が用いられることに着目させていく必要がある。
(p.92)

1999年(平成11年):小学校学習指導要領解説 算数編

小学校学習指導要領解説 算数編

小学校学習指導要領解説 算数編

第2学年では,乗数が人数や個数などの簡単な場合について学習してきている。この学年では,例えば,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」などのような場合についても,全体の大きさを求めるのに乗法が用いられることを理解できるようにする。さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」のような場合にも,乗法が用いられることに着目できるようにする。
(p.91)

2008年(平成20年):小学校学習指導要領解説 算数編

乗法の計算には,乗数や被乗数が人数や個数などの簡単な場合がある。また,例えば,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」などのような場合にも用いることができる。さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような場合にも,乗法が用いられることを理解できるようにする。乗法が用いられる場面を判断し,適切に用いることができるよう指導することが大切である。
(p.107)

いろいろ比較

紐の問題
  • 1978年:「ひもを4等分した一つ分を測ったら15cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」
  • 1989年:「ひもを4等分した一つ分を測ったら15cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」
  • 1999年:「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さはいくらか。」
  • 2008年:「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」
代金を求める問題
  • 1978年:「1mのねだんが85円のきれを25m買うと代金はいくらか。」
  • 1989年:「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」
  • 1999年:「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」
  • 2008年:「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」
段落の字数
  • 1978年:286文字
  • 1989年:274文字
  • 1999年:217文字
  • 2008年:222文字

記号類もそれぞれ1文字,「cm」は1文字,数字は桁ごと(「9」は1文字,「15」は2文字)にカウントしました.

特徴的な語句
  • 1978年:分離量 / 1位数 / きれ / 除数と商から被除数を求める
  • 1989年:簡単な場合 / リボン / 除数と商から被除数を求める
  • 1999年:除法の逆としての乗法の問題 / 9cm
  • 2008年:乗数や被乗数が / 何cmか / 乗法が用いられる場面を判断

考察

4つの情報源の「紐の問題」について,共通するところを押さえておきます.いずれもにも,問題文の前には「除法の逆としての乗法」と書かれています.「除法逆の乗法」「逆問題」とも呼ばれるものです.問題文では「ひもを4等分した一つ分を測ったら」「はじめのひもの長さは」が共通しています.
もう少し突っこんで,検討をすると,「4等分」と共通しているのは,授業や家庭(日常生活)で,紐などを等分する操作が容易である点が思いつきます.折って折って*2すればいいので,3等分や5等分,9等分や15等分よりは,容易です.
したがってこの問題例からも,一つ分の大きさ(被乗数)と,それが幾つあるか(乗数)の違いを確認することが可能となっています.
何等分にするかが先,等分したら1本がどれだけの長さが後,というのは,全長を知らない者にとっては,その順での情報獲得が自然となります.全長を知らないというのは,紐のほうが長すぎて,1本の定規では測れない状況とも言えます.そこで*3,「4等分」は必須ではない*4とはいえ,同じ長さに分ければ,等分後の1本の長さと,同じ長さのが何本あるかから(残りの紐の長さは測定することなく),かけ算によって,「はじめのひもの長さ」が求められる,というわけです.
ここまでを整理すると,答えを求めるためのプロセスは,次のようになります.提示される(あるいは自分でやってみて獲得する)情報は「a等分」「1本の長さはbセンチメートル」の順であっても,かけ算(乗法)についてのそれまでの学習・経験をもとにして,b×aという式を立てることになります.
というわけで,文部省・文部科学省の発行してきた指導書や解説にも,「かけ算の順序」への配慮が,その用語の所在は別にして,なされていた,と結論づけることができます.
4つの情報源の違いも,見ていきましょう.まず,等分した後の,一つ分の長さですが,昭和の2つは「15cm」で,平成になってからは「9cm」と短くなっています*5.1桁に減らしたことで,かけ算だと判断できれば,九九の範囲で答えが求められます.
それと4つのうち,2008年すなわち最新のものだけ,求めるべきものが何かについて,「何cmか」と単位を明記しています.
この変更理由は不明ですが,仮説を立ててみるなら,従来は単位まで含めて答えを書く(数が合っていても単位が間違っていたら不正解)というのが主流だったけれど,改訂に当たっては,単位まで考えさせ,答えさせることを重視しない傾向になったのではないかと思われます.
その傍証として,全国学力テストを挙げることができます.平成19年度実施の算数の解説を見てみたところ,算数Aの解答欄には「cm」「度」が入っていました*6

過去に書いたこと

「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という出題と,「しき」と「こたえ」を書く欄からなる.児童は「しき」に「5×3=15」,「こたえ」に「15こ」と書いた.すると「こたえ」はマル印がついて正解だが,「しき」がバツ印で不正解となっている.そしてこの問題の正解となる式「3×5=15」が,赤ペンで書き加えられている.問題文では5が先,3が後に出現しているが,学習した「かけ算の意味」をもとに,2つの数をひっくり返して「3×5」と書かないといけない,というのが「かけ算の順序」の基本的な考え方である.

かけ算の順序論争について(日本語版)

*1:isbn:4754800028の可能性がありますが,確証はありません.

*2:紐なので「曲げて曲げて」と書くべきでしょうか.ところでこの操作の中に「2×2=4」という式も含まれています.「×2×2=×4」と書きたいけれども,これは何とも形式的で,算数向けではありませんね.

*3:全長60cmの紐に対して,50cmの定規を1回当てて,足りない部分の長さは再度当てると10cm,なので50+10=60という求め方もできますが,これは加法的です.ここでは乗法的に求める(ことができる)のが意図されます.

*4:全長60cmの紐と,50cmまで測れる定規があれば,2等分で求められます.持っている定規は,25cmまでしか測れない,と制約を設けておきますかね.

*5:「全長60cmの紐」「25cmまでの定規」は,それぞれ「全長36cmの紐」「10cmまでの定規」に置き換えます.

*6:算数Bの解答用紙にも,「( )曜日の代金のほうが( )円安くなる。」という解答欄がありました.