わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「×」から学んだこと 14.02

かけ算・わり算

Q: 以前に書いたのを表にしただけ?

A: 訳のいくつかを変更したほか,わり算の結果は小数第3位までとしました.

Q: かけ算・わり算の式も,原文に入っているの? かけ算の順序は?

A: オリジナルの表には,式は入っていません.日本だとそれぞれどんな式になるかを,書いてみました.
原文では,「かけられる数×かける数」か「かける数×かけられる数」かではなく,かけ算の2つの数の役割を重視しています.表の「わり算(等分除)」「わり算(包含除)」に対応する,オリジナルの記述は"Division (by multiplier)","Division (by multiplicand)"です.

Q: 最後の3行,わり算は1種類だけなの?

A: これは原文のとおりです.
「かけ算1つにわり算2つ」という種類のかけ算・わり算の関係のほかに,「かけ算1つにわり算1つ」という種類の関係もあることを意味しています.
小原(2007)では〈乗数と被乗数が区別される文脈〉〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉という表現をとっています.

Q: 「ある暖房機を4.2時間使ったら13.9キロワット時の電力量を消費した.1時間につき何キロワットを消費するか?」は考えないの?

A: 考えても,いいと思います.
想像ですが,著者のGreerは,質問の文と,表にある文とを作った上で,一方だけを採用したのではないでしょうか.
暖房機の事例で重要なのは,量の積は2つの量を因数として(「かけられる数」「かける数」によってではなく)新たな量を得るという演算だということです.

Q: 「速さ×時間=道のり」は,割合に入っているけど,量の積じゃないの?

A: その分類も,ありだとは思いますが…
良いアイデアをお持ちなら,実例を集めて分類し,「ぼくがかんがえたさいきょうのかけざんとわりざん」を提案するのはいかがでしょうか.

Q: 「1あたり」は,ないの?

A: 表には見当たりませんが,本文で(他の文献を引きながら)「per」を含むかけ算の式を例示しています.

Q: 「ゴールの回数÷シュートの回数=シュートのうまさ」は,割合?

A: 割合のほか,部分と全体に入れてもよさそうです.
「異種の2つの量の割合」は割合となるのに対し,「同種の2つの量の割合」は,割合なのか部分と全体なのか,この表からは分かりません.

Q: あまりのあるわり算は?

A: 対象外です.
整数・小数・分数を対象とし,a×bまたはa÷bの式で表されるような関係を,検討の対象としています.

Q: この表,何がすごいの?

A: 「小学校の算数を通じて,児童が解けるようになってほしい,かけ算・わり算の問題は何か」について,知る限りもっとも明快な答えを記した分類表です.

Q: この表が最新の分類?

A: いえ.より新しい分類は,米国Common Core State Standards for Mathematicsにあります(http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdf#page=89).
そのほか,黎(2007)の博士論文では,「乗法課程的概念結構」という節の中で,Greer (1992, 1994)を最後の項目で取り上げています.比較表を見ると,他文献と比べて最も分類が細かくなっており,Greerの分類は古びれていないと思われます.

Q: メタメタさんの「11種類のかけ算のイメージ」についてどう思いますか?

(2014年3月8日 追加)
A: 11種類のかけ算のイメージ、とりあえず。(第1回) | メタメタの日を発端とした一連の記事ですね.興味深く読みました.
「11種類のかけ算のイメージ」と,Greerによる分類,そしてCommon Core State Standardsでの分類表を見比べると,次の記述を満たす事例がまた一つ現れたという印象も持ちました.

個人的な印象ですが,数教協の著書を中心として和書は,解き方や式の表現,言ってみれば「手段」にウエイトを置き,海外の解説では,かけ算など解くことのできる「対象」を先に挙げてその意味を述べているように見えます.

1970年代の乗法構造(1)―遠山啓,総量=内包量×容量

文献をもとにするなら,森毅が1973年の本『数学の世界―それは現代人に何を意味するか (中公新書 317)』で正比例型・複比例型・倍拡大型を挙げて解説していること,1960〜1970年代にはNew Mathや数学教育の現代化運動の影響があったことを,押さえておく必要があります.
分類どうしの比較も,していきたいところです.私自身は以前に積・倍・積〜新たなかけ算のサンドイッチにおいて,枠組や分類について書きました.デンドログラム(樹状図)を作れば,種類が多い少ないの視覚化もしやすくなるのではと思っています.

たし算・ひき算

Q: かけ算・わり算の表は訳さないの?

A: 『算数授業研究 VOL.80』p.55と『算数授業研究 VOL.89』p.57に,日本語訳された表があります.翻訳者はいずれも高橋昭彦です.

Q: 合併の式に「(???)」とあるけど,日本の算数にはないの?

A: 0プラスやプラス0を含めて,多数の式が出てくるような事例(加減算の授業やテスト問題)が思い浮かばないのです.
それでも,関連しそうなものを挙げておきます.都算研の学力調査で,「□−□=9」の穴埋めで等式を2つ作らせる問題(http://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=4)が出されています.

Q: 「3+2=5 (2+3=5は?)」ってどういうことですか?

A: 指導例としては一方(カッコなしのほう)だけれど,テストではカッコ書きのほうも正解としている事例があるので,カッコをつけて区別しました.足算の順序に概略を載せています.

Q: で,「増加」「求残」「合併」「求差」は,必要なの?

A: 教える側は,認識しておく必要があるように思っています.特定の意味だけで演算を指導する(例えば増加の場面ばかり教える)のでは,子どもたちがその後の学習や,日常生活の中で,「これはたし算だ」と認識できる場面がより少なくなるのが予想できます.
意味を細かく分けることで,意味どうしの比較が可能となります.たし算については増加よりも合併(あるいは「部分-部分-全体の関係」.コンセンサスは)が,かけ算については積よりも倍が,それぞれ重要であること,またわり算については等分除の方が包含除よりも子どもたちの理解が困難であること(包含除先行)は,算数教育や教育心理学の知見と言っていいように思っています.

二重数直線

Q: 二重数直線って,何ですか?

A: 下のように,2本の数直線を対応づけて数量の関係を表すための図式です.



Q: 二重数直線を使えば,何ができるの?

A: 小数や分数のかけ算・わり算の問題を,筋道を立てて解けるようになります.

Q: 4マス関係表じゃ,ダメなの?

A: 関係表では,大小関係を把握することができず,例えば「●」と「●÷0.8」の大小関係を判断するのが困難です.
数直線に表すと,例えば,1より小さい数でわったときの商が,わられる数(0よりも大きいことを仮定します.http://www.nier.go.jp/08tyousa/08kaisetu_02.pdf#page=26もご覧ください)よりも大きくなることを,視覚的に確かめられます.

Q: 二重数直線は,学校で使われているの?

A: 国内外とも,近年,注目されています.
日本では2008年の学習指導要領解説に,この図が収録されたこともあり,教科書にも掲載されています.
またCommon Core State Standards for Mathematicsでは,関係表・テープ図・等式と並んで"double number line diagrams"を活用して,割合や比に関する問題を解けるようになることが記載されています.

Q: 二重数直線をGIFアニメーションにしただけ?

A: 自分なりの検討・試みを3つ,入れています.
一つは,割合の3用法の文章題について,割合に当たる数が,“文章題でも割合(百分率などを含む)として書かれている”か,“文章題では割合でない量として書かれている”かという分類項目を設けたことです.
2番目として,小数のかけ算・わり算の計算(筆算)も,図に乗せました.暗算にせよ筆算にせよ,小数点の扱いで間違いが起こりやすいところです.0を増やすなり斜線で打ち消すなりして,答えとなる数を求め,図や場面と照合してから,「答え ○○」と書くようにしてほしい,という意図で記載しました.
そして最後は,矢印に添える「×数」や「÷数」について,Vergnaud (1983)を援用してその意味を明らかにしたことです.

Q: 上の回答の「その意味」って,具体的に言える?

A: はい.「1mの長さが80円の布を2.5m買いました。代金はいくらですか。」という文章題で,80×2.5と式を立てたときの2.5には,「2.5m」という量(長さ)の意味が失われ,これは「(80円を)2.5倍する」という,scalar operatorとして作用するということです.

Q: 80円/m×2.5mじゃないの?

A: それは80×2.5という式のまた別の解釈ですね.Vergnaud (1983)でも検討されていますので,文献を取り寄せて,どうぞご確認ください.

Q: かけ算の問題って,「2.5×80」にならないの?

A: 1から80に矢印を伸ばして「×80」を添える,ということしょうか.
これについてもVergnaud (1983)のほか,『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』に言及があります.いずれも,関係表においての検討です.
その後,『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』や,海外の解き方を見る限り,二重数直線として活用する場合には,そのような矢印の書き方は採用されていないようです.

Q: 小学校3年で逆上がりできるのは40%って,根拠はありますか?

A: 百分率の文章題の件ですね.根拠は特にありません.出題そのものは,フィクションです.
なお,『小学校学習指導要領解説 体育編』によると,「逆上がり」は第5学年及び第6学年の目標及び内容の中にあります.それより低い学年(第3学年及び第4学年)には,「補助逆上がり(発展技:逆上がり)」と書かれています.

Q: なぜどの図にも「1」があるの?

A: 小学校の5年で学習する,小数のかけ算・わり算の文章題では,単一の演算で求めることを重視しているからです.
例えば「2mの長さが80円の布を5m買いました。代金はいくらですか。」は,対象外となります.田の字の解法や比例式(内項と外項の積など.布川(1013)も興味深い内容でした)を知っていれば,簡単に計算できるのに,それらを採用していないのは,なぜかというと,小数のかけ算・わり算の文章題を通じて適切に演算の決定ができることが,比例の考え方を用いて式を立て,答えを求めることと合わせて,期待されているからです.

Q: かけ算が1つにわり算が1つ,じゃないの? あるいは,わり算が2つだったら,かけ算も2つになるのでは?

A: かけ算・わり算の相互関係を分類していくと,「かけ算が1つにわり算が2つ」は,歴史的にも国際的にも,確立していると思います.
「かけ算が1つにわり算が1つ」という相互関係も,知られています.「かけ算が1つにわり算が2つ」は「倍」あるいは〈乗数と被乗数が区別される文脈〉であり,「かけ算が1つにわり算が1つ」は「積」あるいは〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉となります.
国内では,算数ではなく算術と呼ばれていたころから,除法の意味について包含除と等分除の区別がありました(わり算,包含除・等分除,トランプ配り).

Q: 式が3種類なのは,「3用法」だから?

A: 「3用法だから」というよりは「だから3用法」です.
a×bまたはa÷bで表される,小学校のかけ算・わり算の問題を分類していくと,3用法あるいは「かけ算が1つにわり算が2つ」にたどり着く,と考えれば,国内外の多くの文献と適合します.

Q: 二重数直線について読んでおくべき論文はありますか?

(2014年3月8日 追加)
A: 二重数直線に関心を持ちましたら,ぜひ,白井ら(1997)を取り寄せて読んでみてください.前半は多彩な図をもとにした検討,後半は学級の実践事例で,読みやすく構成されています.
フリーのものだと,http://www.edu.yamanashi.ac.jp/~ntakashi/cho9901.htmで整理が試みられています.この著者(中村享史)は『数学教育学研究ハンドブック』の1セクションを執筆し,白井ら(1997)を引用しています.

Q: 学習指導要領を読むと,「異種の2つの量の割合」ってあるんだけど,これが割合?

A: いえ.学習指導要領・同解説では,AからDまでの領域で分けて書かれていますが,単位量当たりの大きさや人口密度などに関係する,「異種の2つの量の割合」は,このうちB(量と測定)に入っています.
“文章題では割合でない量として書かれている”タイプはA(数と計算)で,また百分率や歩合で割合を表すことはD(数量関係)で,それぞれ扱われています.
「割合」の概念は算数の中で広範囲にわたります.昭和33年の学習指導要領では,数量関係の中に割合が位置づけられていましたが,昭和43年の改訂で各領域に分散されています.

Q: 高学年になっても,かけ算には順序があるの?

(2014年3月8日 修正)
A: あると言ってかまいません.小数×整数は4年で,(整数または小数)×小数は5年で学習するからです.なお,小数×整数は,Greerの分類表にある「等しい量(Equal measures)」が該当します.その場面では,かける数の方を小数にすることができません.
正誤判定になると,不正解にするケースが減ってきます.まずは高学年のかけ算の指導と正誤判定でとりまとめました.2013年には,wikipedia:かけ算の順序問題の編集(初めてのWikipedia編集)にあたり,以下のとおり書きました.

学習指導要領は「教育課程の標準」「各教科で教える内容」を定めたものであり、例示として片方の順序を示しているところはあっても、その片方の順序でのみ式を書くことを要請する文は存在せず、他方の順序を不正解とすることもない。学習指導要領・学習指導要領解説に基づき教材や授業、テストとして具体化されていく中で、特定の順序が選択される。そのとき、逆の順序に書かれた式を正解とするか不正解とするかは様々である[14]。

不正解にしているケースも,あります.6年生児童を対象とし2012(平成24)年度実施の学力調査で,逆に書いたら不正解にしている事例を,6年は鉄のぼう,2年はみかんで取り上げました.高学年では,基準量が後に示された問題は見られず,値の出現する順に並べて「×」で挟めば正解だけれど,値を逆に書いた式は,かけ算の意味が分かっていないとする出題例を見てきています(文字式の順序).

Common Core State Standards for Mathematics

Q: Common Coreなんとかって,アメリカの? 世界基準?

A: Common Core State Standardsは,アメリカの基準です.
作成・公表しているのはThe Common Core State Standards Initiativeという団体で,数学(Mathematics)のほかに英語(English)の基準もリリースしています.
州独自の基準となると,"State"が取り除かれます.例えばユタ州ではUtah Core Standardsを公開しており,対象科目は多岐にわたります.

Q: その基準って,日本の学習指導要領みたいなもの?

A: 学習指導要領より記述が多く,学習指導要領解説よりは少なくなっています.
学年の範囲も,異なります.Common Core State Standards for Mathematicsでは,幼稚園と小中高を対象として,学習事項が書かれています.

Q: じゃあアメリカでは,その内容で教科書が作られているの?

A: いえ,教科書検定の制度はありませんからね.
この基準は,学力評価をする(テスト問題を作るなどの)際の根拠となるようです.

Q: 日本とアメリカとで,やっぱり違うの?

A: 似ているところも違うところもあります.
たし算・ひき算からだと,増加で変化量が未知の場面は,日本では「加法と減法の相互関係」に対応づけて2年で学習するのが一般的です(問題文の中に「ぜんぶで」があっても,たし算じゃないよ,というのが一つのキーポイントです).アメリカではたし算として,1年で学習することが想定されています.詳しくは「ぜんぶで」メモ2をご覧ください.

Q: アメリカの基準にも,かけ算の順序はあるの?

A: 「かけ算1つにわり算2つ」に基づく説明がGrade 3にあります.は「かけ算1つにわり算2つ」ばかりです(面積も).
かけ算の導入時の学習事項は,http://www.corestandards.org/Math/Content/3/OAで読むことができます.

Q: 「交換法則を学習したら,かけ算の順序はどちらでもいい」は,アメリカにも当てはまるの?

A: Common Core State Standards for Mathematicsを読んだ限り,そのように解釈できる表現は見当たりませんでした.
「どちらでもいい」は,無理な解釈だと思います.一つ根拠を挙げると,http://www.corestandards.org/Math/Content/3/OAでは,式の表現は3.OA.A,交換法則を含む乗法の性質は3.OA.Bと,分けられているのです.
「交換法則は純粋な数に対する性質であり,日常生活では交換すると意味が変わる」と書かれた文献(Anghileri & Johnson, 1988)があることにも,注意を払いたいところです.

Q: アメリカの教育方法を日本が輸入する,ということはないの?

A: 輸出・輸入というよりは,影響を受け合うのではないでしょうか.
一つ,興味深い記述を取り上げることにします.Common Core State Standards for Mathematicsでは,Grade 2に"Work with equal groups of objects to gain foundations for multiplication."という文が入っています.その具体例は「2ずつ」「5とび」などで,日本の算数でいう「まとめて数える活動」です.これは戦後すぐの学習指導要領試案から,現在まで,低学年の学習事項として書かれています.またfoundationsとは「素地」のことです.初等教育に携わる人々なら,素地は特定の意味を持った用語であることに気づくはずです.
この事例をもって,日本の算数教育がアメリカに影響した,と解釈するのは早合点というものですが,しかし,かけ算の導入の際,何が学習済か(あるいは,何を学習しておけば,かけ算の理解がスムーズになるか)について,日本はどうか,アメリカはどうか,世界はどうかと,考えていくきっかけになる事例だと思っています.

雑多なこと

Q: 最近出た本で面白いもの,ありますか?

A: 次の2冊を楽しく読みました.

親と子で学ぶ算数入門

親と子で学ぶ算数入門

算数科 授業づくりの基礎・基本

算数科 授業づくりの基礎・基本

それぞれ,トランプ配りの使いどころについても書かれています.

Q: 本は大事ですか?

A: 自分の頭で,きちんと考えるための道具として,必要不可欠だと思っています.学問や実践の蓄積に対する敬意も,忘れないようにしたいところです.

Q: あなたの記事に書かれている本を全部読まないと,掛順について語ってはいけないの?

A: 全部読んだら,「掛順」という言葉は出て来なくなると思います.
そこまで行かないにしても,関心があれば,どうぞ入手を試みてください.
他の情報源をもとにすれば,同じ題材に対してまったく別の主張ができると思います.

Q: 刃を研いでいますか?

A: ここんとこはあんまり研いでいません.
ただ以前に書いた「一つの問題に対して,複数の解決法があるとき,どれを選んで,形にするか?」は,本業(大学での教育研究)にも,算数の話にも,子育てにも,役立っています.
ところで刃を研ぐというと,第七の習慣(wikipedia:7つの習慣)ですね.『まんがでわかる 7つの習慣』は軽く読めてなかなかの内容だったので,研究室の本棚に置きました.

Q: 「オープンマインドの姿勢」って何ですか?

A: 「心を開く」でいいかと思います.事例は,Googleその他でお探しください.
「オープンマインドでない姿勢」は,ブログ記事などにコメントをつけるときにも現れます.「〜の意味が分かりません」と書きたいところを「〜についてご教示ください」に,「不要になります」は「不要と聞いたことがあります」にすれば,オープンマインドな姿勢となります.

Q: ツイートやブログ記事へのツッコミを見ていて思うのですが,弱い者いじめをしているという自覚はありますか?

A: 自分のやっていることは,辻説法かなと思っています.
主な読者は,一つは未来の自分,もう一つは検索エンジン経由でお越しの方々です.
当ブログの記事に対して,言及されているのを見てきている限り,ツッコミ対象の方に届くのはキーワード程度と思っています.

Q: Q&Aやツイートのツッコミ記事を作っていて,楽しいですか?

A: それなりに読める文章となるよう,取りまとめるのは,あまり楽しくないのですが,キーワードをもとに本を読み直したり,Webで新たな情報を見つけたりするのは,そこそこ面白いです.

Q: かけ算の順序論争について,あなたが目指しているものはありますか?

(2014年3月8日 追加)
A: 「かけ算の順序について調べたい」だとか,「かけ算の順序というのがあって,そこでコレコレという言葉を見かけたけど,何を探したらいいか,教えてくれない?」とかいった問い合わせがあったときに,そのとっかかりとなるものを提案できないか,とつねづね思っています.要は図書館のレファレンスサービスです.
とはいえ私自身は司書資格などを持っていません.学会参加を通じて,図書館業務に携わる方々の状況を聞いています.自分でできることはというと,機械可読・人間可読な文献の整理と,Twitterなどで答えられそうな質問を見かけたときの回答になります.直近の回答例には,https://twitter.com/chquita_/status/434194748622921728*1に対するhttps://twitter.com/takehikom/status/434285793369014273があります.

Q: 教科書や教師用指導書は,参照しないのですか?

A: 関心はあるけれど,コストパフォーマンスが悪いので,避けている次第です.
コストパフォーマンスがいいのは,PDFで読める学力調査や学習指導案,それと学習指導要領解説です.
教科書や教師用指導書の1ページを画像にして,文句をつけているツイートについては,小学校の教科書が,平成25年度に検定・26年度に採択・27年度に使用開始の流れになっている(教科書Q&A:文部科学省)ことと見比べながら,周回遅れだなあと感じています.

Q: 「パフォーマンス」って,何ですか?

A: 第三者検証のしやすさです.「第三者」には,未来の自分が含まれます.

Q: 周回遅れとは?

(2014年3月8日 追加)
A: 事例について,それは何を踏まえたものか,その後どうなったかなどを検証することなく,自分の主張を補強するために取り上げるのは,「周回遅れ」と言っていいと思います.
周回遅れの典型例として,https://twitter.com/genkuroki/status/439209488441024512のツイートがあります.

リンクをたどると,http://aobadb.edu-c.pref.miyagi.jp/practice_research/attach/01B0010.pdfが情報源と分かります.実態調査は平成13年(2001年)に行われたとのことです.
「その後」から1例を挙げると,文章をもとに場面(図)との対応づけやかけ算の式を問い,解答状況を別々に集計するのは,東京都算数教育研究会が実施し約6万人の2年生児童が解答した問題(平成24年度実施 学力実態調査の集計と考察〈数と計算 数量関係〉,第2学年大問3)で見ることができます.図のみ正解,式のみ正解,図と式の両方が正解とで,割合を載せています.
学術文献を見ておくなら,「与えられた文章を読んで理解する過程」と「理解した内容に基づいて問題を解く過程」による,算数文章題の解法過程を,多鹿ら(1994)が指摘しています*2.理解過程と解決過程の違いを考慮した,かけ算の式表現に関する指導法は,『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』pp.64-65で提案されています.
これらを踏まえると,平成13年の実態調査で,結果を受けて「このことは,文章の意味は分かるのだが,乗法の意味が明確に理解できていないということを示している」と書かれているのは,理解過程よりも解決過程に課題があったと判断できます.この調査は診断的評価に関するものであるのと合わせて,詳細は「計算の意味の理解」の調査における一考察をご覧ください.
周回遅れにならないようにするには,これまでの課題や成果を把握しておくことが不可欠です.算数教育については『数学教育学研究ハンドブック』がお勧めです.

Q: 『数学教育学研究ハンドブック』では,かけ算の順序についてどのような見解を示していますか?

(2014年3月8日 追加)
A: 最も関連のあるのは第3章§2(演算の意味・手続き)ですが,この中に「かけ算の順序」という言葉は見当たりません.
これは,「かけ算の順序」が,算数・数学教育の課題となっていないことを示唆しています.

Q: 海外の情報を,どのようにして見つけているのですか?

A: いわゆる「かけ算の順序」については,英語の記事を出したあと,フォーラム(掲示板)でリンクされたので知りました.

海外の情報通になりたかったら,「英語でまとまった文章を書くこと」「アクセスログをよく読むこと」をするのがいいと思います.かけ算の順序に限りません.

参考文献

小原豊 (2007). 小学校児童による有理数の乗法における乗数効果の分析, 鳴門教育大学研究紀要, Vol.22, pp.206-215. http://ci.nii.ac.jp/naid/110006184927

黎懿瑩 (2007). 一個發展小二學童乘法概念的行動研究. http://ir.lib.ntnu.edu.tw/ir/handle/309250000Q/65427

Greer, B. (1992). Multiplication and Division as Models of Situations. In Grouws D.A. (Ed.), Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, National Council of Teachers of Mathematics, pp.276-295. isbn:1593115989

Greer, B. (1994). Extending the Meaning of Multiplication and Division, In Harel, G. and Confey, J. (Eds.). The Development of Multiplicative Reasoning in the Learning of Mathematics, State University of New York Press, pp.61-85. asin:0791417646

Vergnaud, G. (1983). Multiplicative Structures, In Lesh, R. and Landau, M. (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174. isbn:012444220X

布川和彦 (2013). 比の学習における小学生による説明と式の利用, 上越数学教育研究, No.28, pp.1-12. http://ci.nii.ac.jp/naid/120005265721; http://hdl.handle.net/10513/2146

Anghileri, J. and Johnson, D.C. (1988). Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division. In Post, T.R. (Ed.), Teaching Mathematics in Grades K-8, Longman Higher Education, Allyn and Bacon, pp.146-189. asin:0205110762

白井一之, 前野哲夫, 上野文子, 尾嵜裕子, 新井克巳, 原沢伸一, 瀧本有紀子, 幸内悦夫, 小関哲之 (1997). 乗法・除法の演算決定に有効にはたらく数直線の指導. 日本数学教育学会誌, Vol.79, No.6, pp.191-196. http://ci.nii.ac.jp/naid/110003732673

多鹿秀継, 石田淳一, 岡本ゆかり (1994). 子どもの算数文章題解決における文章理解の分析, 日本教科教育学会誌, Vol.17, No.3, pp.125-130. http://ci.nii.ac.jp/naid/110008094215

(最終更新:2014-03-08 晩)

*1:リツイート・お気に入りをしたTwitterアカウントもまた興味深いところです.

*2:2種類の過程を提案しているのではなく,1960〜80年代の海外文献を引用しながら2種類の過程があることを背景とし,そのもとで理解する過程のほうに焦点を当てています.