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『地産地消大学』を読んで,人のつながりを思う

地産地消大学―オルタナティブ地域学の試み・序章―

地産地消大学―オルタナティブ地域学の試み・序章―

著者の湯崎先生とは,特任教授になるより前に,何かとお世話になりました.当時は「産学連携コーディネータ」という肩書きで,明らかに教員ではないけれども,かといって職員かというとそうでもなさそうだなあ,と感じたものでした.
和歌山県産学官の研究交流会に予算を出していた時期があり,ある年度に,湯崎先生が主査,私が副査で1年間,研究交流会を運営しました.情報通信やインターネットの分野ということで,白羽の矢が立ったのだと思います.そのとき,学生にも協力してもらおうとなり,湯崎先生のところからお一人,またこちらからもイキのいい大学院生1名に,参加してもらいました.「お一人」は株式会社BEEを設立し,「イキのいい1名」も現在,和歌山で積極的に活動しています.
といったところで本の内容なのですが,2011年から2013年までに,わかやま新報で連載したコラム55編からなります.どこを開いても読めますし,それぞれが優しく書かれています.漢字やカタカナの割合が高く,固有名詞もずいぶんと目につくのですが,読みやすいのは,先生が読者をきっちりと想定され,噛み砕いて書かれた結果かなと思っています.
人を結びつけること,自らを巻き込むことに加え,単純に人を投入するだけではいけないという,コーディネータの内実も,見ることができました.

先日、大学の近くで借りている田で稲刈りを行いました。和歌山県には豊かな地域資源や伝来の知恵がたくさんあり、和歌山で学ぶ学生にとって、それを活用させていただかなくてはもったいない。でも最近、気をつけようと考えていることがあります。調査や研究よりも学生の存在、そのものを活性化に結びつけて期待されがちだからです。農林業や商業などの現場で学生の人気は抜群です。町や村のあちこちで一生懸命に動く学生の姿は、明るい話題となり、マスコミにもよく取り上げられます。でも、学生の参加は、地域活性化の切り札にはならない、学生が地域を知り、学びの中から判断力を身につける、そのずっと先に、次の社会の担い手としての期待があるのが本来の姿です。
稲刈りでは、鎌で刈る行為が目立ちますが、実は大変なのは、刈った稲を束ねる作業でした。紐で一定量を束ねますが、これを稲架にかけて乾かす際にグサグサにならないように結ぶ頃合いが大事です。しゃがんだまま稲を束ねては運ぶ、根気のいる地味な作業です。
この地味な農作業の中で、学生たちは何を学んでくれたのでしょうか……。農業や農村が抱える多くの問題解決に近道はない、学生を地域に連れ出した責任として、流行のスローライフな川の流れの一時の祭りに参加させてはいけない、幾度も自分に言い聞かせているところです。
(pp.45-46)

話は簡単ではなく,ともあれ学生が関わることの有用性---地域にも,本人にも---は,多くの人が認めるところです.しかし,「行けばいい」「やればいい」あと本文に書かれていませんでしたが,「報告書を出させればいい」「単位認定すればいい」というわけにもいかないのが,コーディネータそして特任教授の問題意識であるように思えました.
ところで,「稲架」には「はざ」のルビがついていました.p.29にも,同様にルビを振って「稲架掛け」と書かれており,これは「稲を竿にぶら下げて天日に干す」とのことです.
稲刈りのワンシーンとして,上の引用を読んだとき,結婚して以来,私が関わっている田んぼの仕事では,稲架掛けをしていません.刈った稲を束ねて,田んぼの上に立てておき,冬になったら回収し,主にミカンの木の周辺に広げます.また束ねるのは「紐」ではなく,束にする藁を数本取って,端を結んで使います.しゃがんで立っての繰り返しで,根気のいる地味な作業なのには同意します.
以下,いつもの自分用メモです.

  • p.42:「学者たち」
  • p.67:「大学はこの川の主役ではない」
  • p.82:水車の復元(那智勝浦町),「体験を通じ自ら価値形成ができる能力をつけさせること,これが体験学習」
  • p.97:「なぜ地下足袋や長靴を履くのでしょう?」,機能的・機能性
  • p.129:「大学の研究者と市民の学力差がなくなっている」
  • p.156:自転車ライトを考案したのは松下幸之助.「世の中になかったものが登場しそれまでの常識が覆る」


本日取り上げた本は,金曜日(14日)に読み終えました.この日の夜は,学科の送別会でした.その途中で,退職される先生への思いを語っていくことになりました.しゃべった人は次を指名するというルールもできました.はじめ3人は教授で,何か役職順になっていきそうやなあと,箸を伸ばしていたら,こちらに指名が飛んできまして,しどろもどろで発言しました.
宴席では,退職される先生との物理的な距離が遠かったのですが,お店を出てから少しだけ,話をすることができました.先生のところで卒論を書き,その後,自分の研究室に移った2名の修士学生には,責任を持って指導しますと言ったところ,先生より,彼らの人となりを聞くことができ,これも人のつながりの一つとして,嬉しく思いました.
帰宅して少し眠り,日が替わったところで,14日締切としていた学会(情報知識学会年次大会)の発表申込みをチェックしました.想定よりも多い件数があり,常連さんもご新規さんも良い感じに入っています.苦労して準備し,アドバイスをもらうたびに軌道修正をした甲斐があったなとしみじみ思いました.関係者にメールを送って,タイムテーブル案を手直しして,とPCに向かってがしゃがしゃやっていたら,6時を過ぎ,ノックせず妻が入ってきました.開口一番,「この部屋,お酒臭い!」と言われました.

(最終更新:2014-03-17 朝)