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わり算,除法,等分除・包含除

当記事は古い内容となっています.わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05)が最新です.

ツイートで書きにくい話を,日記にまとめておきます.

前置き1:表記

論旨に影響しない,自分の表記ポリシーを2つ,先に書いておきます.

  • 句読点について,ブログやメール(そして論文など)では「.,」を用いています.それに対し,ブコメはてなブックマークのコメント)やツイートでは,意図的に「。、」としています.意図の一つは,メッセージを発信する前に記号・語句・内容全体をチェックするためです.書籍の引用は,ある時点から原文に合わせて「.,」「。,」「。、」を選んでいます*1
  • 「足し算」「引(き)算」「掛(け)算」「割(り)算」ではなく「たし算」「ひき算」「かけ算」「わり算」と表記しています.算数教育の実践に関する書籍での流儀です.Togetterまとめのタイトルで「割り算」を用いたのは,そこで出現したツイートを優先したからです.

前置き2:これまで書いてきたこと

小学校低学年で学習するわり算については,以下の記事で取りまとめています.

上記Togetterに載せた,「国内外の調査で等分除のほうが包含除よりも理解が困難と示されている」の直後のURLは,以下の記事です.

この中の「整数の等分除の難しさは,分けるための単位がその場面に示されていないところにある」が,肝心なところです.
あと3つ,本日の記事に関連する内容に,リンクしておきます.

前置き3:等分除・包含除の別称

用語整理を,次の2つで試みています.

その後,『算数授業研究 VOL.89』を読みまして,包含除については「宛分除」という書き方や,「イクラヅツニワケルというのだから,ヅツワリ(宛分)」「イクラニワルというのだから,ニワリ(等分)」といった指導の提案が,p.55に記されていました.
この件,いつの話なのかは,当該記事には記載されていませんでしたが,「水戸部寅松」で検索をかけると,1905〜1925年の著書がヒットし,明治・大正時代の教師であることが分かりました.
ヅツワリ・ニワリに似た呼称は,以前に読んだことがあります.『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.137で,等分(除)に「つ割」,包含(除)に「づつ割」という名称を与えています.これは著者*2によるいわゆる地の文として,記されていますが,1921年の文献を紹介していることから,上記のヅツワリ・ニワリと同時期になされた呼び分けと推測できます.

3つのかけ算

「わり算とは何か」を表現するにあたり,かけ算との関係が避けて通れません.算数教育の本をもとに,ここで自分なりに整理をしてみます.
算数でよく用いられる「かけ算」の意味には,次の3種類があります*3

  • 倍:a=b×p
  • 比例:y=a×x
  • 積:p=a×b

どの式にもaが出現していますが,それぞれの役割は異なっています.他の文字と合わせて,各文字の意味を書いておきます.
まず倍は,学習指導要領解説の用語を当てはめるなら「割合に当たる大きさ=基準にする大きさ×割合」です.しかし,分かりやすいとは思えません.大人向けには,「amount=base×proportion」と書くのを好んでいます.そうすれば,頭文字をとって「a=b×p」とできます.この関係式の視覚的表現には数直線がよく用いられます.また量を伴う演算のもとでは,aとbは同種の量で,pは無次元量となります.
比例のほうは,中学で学習する式,y=axをもとに,小学校の算数のスタイルで乗算記号を書いています.言葉にしておくと,「yはxに比例し,その比例定数はa」です.数学教育協議会(数教協)主導のかけわり図が,関連してきます(「1あたり量」という謎めいた言葉).しばしば,xとyは異種の量となります.
最後に積のaとbは,pすなわちproductを得るための2つの因数です.「Aさん」「Bさん」の数式バージョンとも言えます.2次元の広がりを持ったイメージですので,低学年ならアレイを使用し,高学年になるにつれて長方形に置き換わっていきます.面積・体積や物理量を考えるなら,pは,aともbとも異なる種類の量となります.
ここで,倍概念のbとp,比例関係のaとxは,それぞれ「交換できない」とする考え方を採用します.小学生向けには,の下の絵が分かりやすいと思います.詳しくは,1961年の本や洋書も含めて取りまとめた,□×△と△×□の違い:事例をご覧ください.倍概念のbとp,比例関係のaとxは,それぞれ「区別される」とするのも同義です.積の因数となるaとbについては,区別(に実質的な意味)がなく,交換できるものと考えます.

5つのわり算

上の3つのかけ算に対して,以下のようにわり算を定めることができます.

  • 倍のbを求める演算:b=a÷p
  • 倍のpを求める演算:p=a÷b
  • 比例のaを求める演算:a=y÷x
  • 比例のxを求める演算:x=y÷a
  • 積のaまたはbを求める演算:a=p÷b,b=p÷a

3つのかけ算に対し,3つでも6つでもなく,5つのわり算が得られるのは,上に書いたとおり,何を交換できるかできないかの違いによるものです.
文献と照合しておくと,『数学の世界―それは現代人に何を意味するか (中公新書 317)』p.72では比例(原文では「正比例型」「正比例関数」)をもとに除法の意味を展開しており,上記のa=y÷xに対応するものが「等分除」,x=y÷aは「包含除」,だけれどb=a÷pも包含除としています.「複比例型では,そのままでは除法は意味を持ちにくい。」で段落を終えています.
数の科学―水道方式の基礎 (1975年) (教育文庫〈7〉)』(第4章 乗除法の意味と構造)では,「A. (1あたり量)×(土台量)」「B. 直積型」「C. 倍(倍写像型)」という3種類の乗法の意味と,「A. 1あたり量の第1用法」「B. 1あたり量の第3用法」「C. 直積型の逆算」「D. 包含除」「E. 等分除」という5種類の除法の意味を挙げており,番号や名称は異なりますが,本記事でリストにしたものと合致します.
最後に,Vergnaud(1983)と,その文献をもとに乗法の意味・除法の意味を解説している『算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.189では,倍についてはp=a÷b,比例についてはx=y÷aを,表や式による表現と結びつけて説明しています.

等分除とは何か,包含除とは何か

5つのわり算の式のうち,等分除に当たるのは,「倍のbを求める演算:b=a÷p」です.
ここで一つ,条件がつきます.pは正の整数です.同種の量であるaとbは,分離量でも連続量でもかまいません.
pが小数や分数にしても,同じようにわり算の式を立て,答えを求めることができるようになるのは,除法の意味の拡張と言えます.
包含除は,「倍のpを求める演算:p=a÷b」です.こちらも,意味の確認(小学校の学習)にあたってはまず,pは正の整数という制約をつけておき,その後,意味の拡張がなされます.
意味の拡張においては,比例関係や比を用いることとなります.比の三用法と呼ばれる,等分除・包含除とは別由来のものと組み合わさって,現在,割合の第一用法は「p=a÷b」ですので包含除を拡張したもの,そして割合の第三用法は「b=a÷p」ですので等分除を拡張したものと,みなされています.

比例のわり算と,等分除・包含除

といったわけで,「比例のaを求める演算:a=y÷x」や「比例のxを求める演算:x=y÷a」は,等分除・包含除と直結しません.
では1973年の森の指摘は,どういうことでしょうか…ここで,つながりを探ってみます.
かけ算から出発します.あるかけ算の関係を,倍でも比例でも解釈できることを使用します.「1.5kg×4箱」*4という,洗剤の数量表記を例にとると,これを倍(a=b×p)で解釈するなら,b=1.5kg,p=4,そしてa=1.5kg×4=6kgです.比例(y=a×x)だと,a=1.5kg/箱,b=4箱,ゆえにy=1.5kg/箱×4箱=6kgとなります.倍のpを単位なしにし,比例定数aの次元をパー(per)を使って書けばいいというのは,Vergnaud (1983)でも指摘されています.
ある場面において,「倍:a=b×p」と「比例:y=a×x」と同等視できるとしたら,わり算についても,「倍のbを求める演算:b=a÷p」と「比例のaを求める演算:a=y÷x」,「倍のpを求める演算:p=a÷b」と「比例のxを求める演算:x=y÷a」が同等視できるのではないか,と思うのは自然なことです.
確認しておくと,「6kgの洗剤があって,4箱に同量になるように分けると,1箱は何kgか」という問題について,6÷4=1.5という式は,「6kg÷4=1.5kg」とも「6kg÷4箱=1.5kg/箱」とも解釈できます.「6kgの洗剤があって,1.5kgで1箱にするとき,何箱できるか」という問題だと,6÷1.5=4という式に対して,「6kg÷1.5kg=4」であり,「6kg÷1.5kg/箱=4箱」と書くことができます.
「比例のaを求める演算:a=y÷x」を等分除,「比例のxを求める演算:x=y÷a」を包含除と対応づけるとするならば,このような関連性をもとにして,説明できることが分かりました.
なお,同等であるはずの,「倍のbを求める演算:b=a÷p」と「比例のaを求める演算:a=y÷x」について,前者は(比の,あるいは割合の)第三用法なのに対して,後者は(度の)第一用法となるところには,注意が必要です.これは,比の三用法*5から割合の三用法へという流れとは別に,数教協が提唱する「1あたり」に基づく三用法では,「比例のaを求める演算:a=y÷x」が「比例のxを求める演算:x=y÷a」に優先するためと思われます.

まとめ

  • 等分除:b=a÷p,a=y÷x,ニワリ,つ割,割合(比,率)の第三用法,度の第一用法,partition(分割),sharing(共有)
  • 包含除:p=a÷b,x=y÷a,宛分除,ヅツワリ,づつ割,割合(比,率)の第一用法,度の第三用法,measurement(測定),repeated subtraction(累減)

*1:Emacsで,「.,」の句読点でがしがし書いてから,句読点変換の関数を使って変換しています.

*2:杉山政衛 (1978). 整数のわり算―その意味と方法―.

*3:これらがかけ算の意味のすべてであることや,算数のそれぞれのかけ算の式がいずれかちょうど一つに分類されることまでは,主張しません.

*4:これをタイトルとする記事を以前に書いています:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130809/1375999854

*5:「比の三つの用法」については,昭和33年の小学校学習指導要領 http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htm に記載があります.