わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

東京書籍の平成27年度用算数教科書は

いわゆる「かけ算の順序」に関する記載は,p.2にあります.「C地区学力調査」として,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。」という,かけ算九九の文章題を載せ,誤答例に「3×4=12」を挙げています.「乗法の意味に基づいた「1つ分の数×いくつ分」の立式ができないという実態があります」とした上で,2種類の「乗法の意味理解」のための教科書掲載例を示しています.


前のと比較します.http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou_current/subject/sansu/tsumazuki/top.htmlです*1.これを「平成23年度用」と書き,冒頭に挙げた「平成27年度用」と区別します.
見比べると,教科書掲載例の設問(文章題)とヒント(小問や図)は一致しています*2.教科書掲載ページも,一致しています.問題番号の表示といった,見た目に関するところには,違いがあります.
といったことから,「乗法の意味理解」のための出題や指導について,東京書籍(の「新しい算数」編集者ら)では変更なしという見解である,と思って良さそうです.


東京書籍は,ネットでよく議論され,新聞記事にも岩波の本にもなった「かけ算の順序」について考慮していないのか…と憤る前に,関連書籍を確認しておきます.

平成27年度のほうには,ボートの問題文に添えた角丸長方形に「逆の順で出てくる文章題を繰り返し扱い,乗法の意味理解に基づいた立式が確実にできるようにしました」を書いています.平成23年度の教科書編集((一つ前の年度に(教育委員会などによる)採択,その前の年度に検定があるので,編集はさらに前,平成20(2008)年度となります.))の際,アクセスできなかった情報といえば:

「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」という問題に対して、7×4=28答え28こ、と解答した小学校2年生の子がいました。この解答をどのように解釈して、どのような対応をしたらよいか、乗法の意味と関連させてまとめてみましょう。
(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』p.96.転載元

それから,正答率は,平成27年度のほうに書かれた「C地区学力調査」では「54%」となっています*3.そこで東京都算数教育研究会による平成22年度実施 学力実態調査を見ると…全く同一の文章題があり,表と帯グラフから,正答率が54%なのも確認できました.
東京書籍が何を根拠として,教科書を編集し,また「乗法の意味理解」のための文章題はそのままなのかについて,少しでも情報にアクセスできる者からすると,数年間で起こったことをそれなりに反映させているなと推測できます.ネット上の「かけ算の順序論争」を考慮したかは,読み取れませんが,その“寄与”の度合いは,非常に小さそうだなという感触も持っています.
もう少し,個人的意見を書いておくと,ボートの問題には,先にボートを3そう,描いてから,2人ずつ乗せる(よう小丸を描く)という考え方もできます.ですがそれに対して,一つは,そんな乗せ方が現実にあるのかと批判でき,もう一つは,Vergnaud (1988)で検討済みなんだよねと言えます.それぞれ,過去に書いたものから:

ボートを3そう用意しておき,1人ずつ2回乗せていくという,トランプ配りに基づくと,「3×2=6」とする余地はあります.しかし現実のボートで,そういう乗り方は,考えにくいですね.1人がボートに乗った状態で2人目を待つ,そんなボートが何そうもあるというのは,運営上,ずいぶん危険です.

俺教材研究

(略),田中さんの式は「5 times 4」に,そして鈴木さんの式は「4 times 5」に対応します.そして,preference for ... overにより,8〜9歳の子---かけ算を学習している子どもたちと見ていいでしょう---は「5 times 4」だとか関数的な考え方よりもむしろ,「4 times 5」のほう,要するにいわゆる倍操作で答えを求めているのだ,と理解することができます.

2013年はトランプ配り,1988年はアレイ

「2×5になる問題と,5×2になる問題を対比」の件は,式の表す対象を細かくするか広くするかの違いを思い出します.広くすることすなわち「えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります…」も「えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります…」も,2×5でも5×2でもいいじゃないかという(あるいはそのように推論できる)立場を,東京書籍の教科書は採用していないのが確認できたので,今のところは十分です.


東京書籍の平成27年度用算数教科書について,もう少し,読む範囲を広げておきます.
著作関係者の紹介を見ると,代表は藤井斉亮で,『数学教育学研究ハンドブック』の第3章§3(文字式)の執筆者です.リストの中で,見かけたことがある名前と言えば,市川伸一・加藤明・白井一之・高橋昭彦・田端輝彦・中村享史あたりです.
白井一之で連想するのはhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110003732673,そして数直線です.演算決定に関わる図の取扱いと系統というPDFファイルを知り,「図のかきかた」について,自分の試みと比較しながら読みました*4.矢印に添えるかけ算の関係は,いわゆる活字では「2倍」といった表記ですが,手書きで「×9」というのも,ありました.

(最終更新:2014-05-20 朝)

*1:これまで,東京書籍 平成23年度版 小学校教科書 新しい算数でリンクしていたものから,URLが変わっています(shou→shou_current).しかし来年度にはまた変わりそうで.

*2:ボートの問題の手書きっぽい図にある鉛筆は,異なっているようにも見えますが.

*3:平成23年度は「B県学力調査」「49%」です.それと,「C」は地区名の頭文字ではなく,平成27年度の文書における通し番号のようなものと見るのが良さそうです.

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140116/1389822669http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140228/1393537997.「代金はリボンの長さに比例しているので,リボンの長さが9倍になれば,代金も9倍になります」という言葉による根拠には,自分は検討していなかったなあという思いがあります.