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平成27年度算数教科書読み比べ(8)〜円の面積の求め方

円の面積の求め方について,小学校学習指導要領解説 算数編(PDF版)pp.197-198は,次のとおり書かれています.画像は自作のため,原文と同形でないところがあります.

ア 円の面積の求め方
円の面積の求め方を考えるとき,はじめに面積の大きさの見通しをもつことが大切である。そのために,右の図を観察すると,円の面積は,一辺の長さが半径に等しい正方形の面積の2倍と4倍の間にあることが分かる。

面積を求めるためには,例えば,次のような考え方がある。
① 方眼紙に円を作図して,円の内側にある正方形の個数を数えて,面積を求める方法。
右は,1目盛りが1cmの方眼紙に,半径が10cmの円をかいたものである(図はその\frac14)。

① 円を右の図のように等分して,並べ替え,平行四辺形に近い形を作り,円の面積を求める方法。この場合,等分を細かくしていけば,平行四辺形に近い形の底辺は円周の長さの半分に,高さは元の円の半径に近づくことから,円の面積は次のような式で表せる。

(円の面積)=(平行四辺形の面積)=(円周)÷2×(半径)
ここで,(円周)=(直径)×(円周率)を使うと,式は次のようになる。
(円の面積)=(直径)×(円周率)÷2×(半径)=(半径)×(半径)×(円周率)

教科書ですが,教科書展示会で見た際には,東書 新編 新しい算数6に時間をとりました.この教科書ではpp.23-27が「円の面積の求め方を考えよう」となっています.まずp.23は,円とそれに内接・外接する正方形をもとに考察し,「2倍より大きく,4倍より小さい」の2と4が穴埋めになっています.
その次のページ(p.24)は半径10cmの四分円を1cmの方眼に描き,内部にある正方形の数と,円周が通る正方形の数*1を数えてから,円の面積を概算*2しています.
さらに次のページ(p.25)は学習指導要領に書かれていない方法で,「円の中に正十六角形をかいて調べました」というアプローチです.半径10cmの四分円に,内接する正十六角形の4分の1の部分を描き(円周付近に隙間ができますが,そこには目をつむり),円の中心から多角形の各頂点に線分をひくと,合同な4つの三角形がつくられます.1つの三角形の底辺と高さはどうやら定規で測定するようで,そのあとその面積を求めます.円の面積は,その16倍です.
それはそれとして,pp.26-27が,円の面積を求める公式を考えるところです.円を細かく等分して並べ替えていきます.自分もたしか,小学校6年のときの教科書が,この方法でした.ただし,「円をどんどん細かく等分していくと,並べかえた形は長方形に近づいていくと考えられます」となっています.前述の通り,学習指導要領解説では「平行四辺形」でしたので,わずかですが気にはなる違いです.
長方形の面積をもとに,円の面積の公式を誘導しています(p.27).すなわち,「長方形の面積=縦×横」から出発し,その前のページから,「円の面積=半径×円周の半分」と当てはめています.ここでいったんこの等式から離れ,「円周の半分」をもとに,式変形を行っています.具体的には,「円周の半分=直径×円周率÷2=半径×円周率」です.ここで「半径」には「直径÷2」という吹き出しがついています.「円周の半分=半径×円周率」を,「円の面積=半径×円周の半分」に代入するという形式的処理により,「円の面積=半径×半径×円周率」という,円の面積の公式を得ます.
「教科書読み比べ」「かけ算の順序」に関連していうと,この極限操作によって「平行四辺形」に近づくとしていた教科書が1社,また長方形だけれど,その面積には「横×縦」を採用していた教科書が1社,ありました.
とはいえそれよりも,「円の面積」「半径」「円周の半分」「直径」「円周率」を用いた言葉の式により,円の面積の公式を求めているところに,大きな驚きを感じたのでした.言葉の式を対象とした代入も,興味深いですし,直径×円周率÷2=半径×円周率 の途中には,半径×2×円周率÷2 が入っているわけで,ここから「×2」と「÷2」を相殺するには,乗法の交換法則・結合法則が,言葉の式においても成立することを仮定しておかないといけません.
もし,言葉の式と文字の式を,同一視あるいは関連づけをしてよいのなら…「文字を用いた式」が,どの教科書でも6年のかなりはじめのところに出現していたのは,文字(言葉)の式の形式的処理をねらったものなのでしょうか.

*1:この個数も面積に加味しますが,教科書には「この面積は半分と考えて…」としています.これは学習指導要領に書かれている「その概形をとらえ,およその面積などを求めることができるようにする」を具体化したものと考えられます.とはいえ「半分にして加える」のは,そのための一手法であり,他には,その境界領域の正方形を加えた場合の面積と,加えなかった場合の面積を求め(円の面積はこの2つの値の間),分割数を大きくすれば円の面積に近づくという「はさみうち」も思い浮かびます.

*2:「概算」という言葉は教科書に出てきませんが,最終的な答え(円の面積)の穴埋めの直前に「約」がついています.計算しておくと,内部にある正方形の数は69個で69平方cm,円周が通る正方形の数は17個で半分だから8.5平方cm.たして77.5平方cm.円の面積は77.5×4=310で,約310平方cmとなります.