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算数の教え方,数学的に考える力

休日に購入した,2冊の本を紹介します.

「算数の教え方」がわかる本

小学校6年間・全学年対応 「算数の教え方」 がわかる本 おうちで完全マスター!! (パパ!ママ!教えて!)

小学校6年間・全学年対応 「算数の教え方」 がわかる本 おうちで完全マスター!! (パパ!ママ!教えて!)

単色刷りの本です.見開きで1件の内容となっており,図や,考え方の白抜きが豊富で,小学生のパパ・ママ向けの算数の本として読みやすいように感じました.
まずじっくりと読んだのは,2年のかけ算のところです.解説では次のとおり(p.34),「単位あたり」という表現を用いています.

4×3の意味は、「4の3つ分」です。パパやママが小学校で習ったときは、4×3=4+4+4と習ったかもしれません。
ところが今は、かけ算の定義はこのようにはおこないません。もちろん4×3=4+4+4ということもその後すぐに習うのですが、かけ算の意味としては、4×3とは「一つにつき4つあるものが、3つある」ということなのです。
たとえば、犬の足の本数を考えると、犬1匹につき、足が4本あって、それが3匹いるということになります。ここでポイントなのは、「〜につき」という単位あたりで考えるという部分です。

「1あたり」ではなく「単位あたり」です.あと,「ずつ」に着目するという記述もありません.解説のすぐ下の例題は「犬が3匹います。足は全部で何本?」となっており,「ずつ」が示されておらず,「1匹あたりの足の本数」が4であることを確認してから,4×3=12という式を導いています.
それと,「何倍」への対応も気になりました.ざっと後ろを見たところ,「何倍」のかけ算は,陽には出てきません…あ,いえ,p.135にありました.「1200円の70%は、何円ですか?」という例題に対して,白抜きで「70%は70%倍と考えると、1200×0.7だね」と書かれた下に,やや小さな文字で「1200に70%をなぜかけるかは、倍という言葉で説明しましょう」が添えられています.
この本の立場としては,かけ算の定義だとか意味だとかを細かく詳しく述べるのではなく,各学年で,知っておくと役に立つ(算数の問題を解くのに使える)考え方を広く浅く網羅した,と思うのがよさそうです.両親など子どものご家族を主な読者対象としているので,これは明示されていませんが,子どもに教える際,学校の教科書や本人が書いたノート,そして学校でどんなふうに教わったかを聞くという対話の時間と合わせて,理解や指導をすればいいわけです.
かけ算の意味あるいは順序については,上の引用に続けて,次のように書かれていました.

また、かけ算を教えるとき、「4×3も3×4も同じ」と教えるおうちもあるかもしれません。答えは同じですが、「4の3つ分」と「3の4つ分」では意味が違いますから、そこのところもしっかりおさえるようにしてください。

これは,"three children each having four candies are luckier than four children each having three candies although the total number of candies is the same."*1,「2×3と3×2は同じ答えですが、考え方が違います。3組のカップルが映画館へ行ったとき「ペアシートが3席」と「3人用シートが2席ある」のでは違いますね。かける数、かけられる数の関係には、ちゃんと意味があるのです。」*2の2014年バージョンといったところでしょうか.
かけ算から離れ,他のページで目についた箇所をいくつか挙げておきます.6つの図形から長方形・正方形を選ぶ問題(p.47)で,「長方形…イ」「正方形…エ*3、オ」としていて,正方形は長方形に入れていない…と思いきや,答えの下に小さな文字で「※正方形も長方形の仲間なので,エとオを長方形に書いてもかまいません。」という注釈がついていました.「はじき」はpp.162-163に入っていますが,解説に「ただこのはじきで考えると、計算式は簡単にできますが、基本的な速さの考え方が分かったことにはならないので、考え方を説明した上で使うようにしてください」ともあります.5章開始の一つ前,p.108にある「小学校の算数は、求めていく数値のそれぞれに意味があります。それに比べると中学校から学ぶ数学は、問題文をいったん方程式や文字式という関係におきかえて、数学の手法を使ってそれを処理します」は,算数と数学の違いについての興味深い記述でした.

「数学的に考える力」を育てる実践事例30

「数学的に考える力」を育てる実践事例30

「数学的に考える力」を育てる実践事例30

各事例は,奇数ページ(見開きの右側)から始まる4ページで構成されています.2・3ページ目の見開きの上部,3分の1ほどが,板書例となっています.そこを除けば図は控えめで,解説や,「授業の流れ」と題した教師・児童らの対話が多くを占めます.この本も単色刷りなのですが,パパママ向けと先生向けとで,こんなにもスタイルが違うのかと感じました.
かけ算の授業例は,p.23から始まります.「とらえ方によってはどちらも1つ分の数として見ることができる絵」を使っています.問題ほかは,撮影したものを(p.24):

授業の流れを見ていくと,ある児童が「5×4=20 答え20個です」と言ったのに対し,すぐに別の児童が「逆だよ」と言い,先生の介入もあって結局,「赤い花が5こ,青い花も5個,紫の花も5個,黄色い花も5個で,どの花も5個ずつで,花の色は4色あるからだよ」という言葉により,5×4も正しい式としています.
ところでこのファンタジーな木の出題には元ネタが思い浮かびます.『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』のp.49で*4,そこには「ふしぎな花のさく木」というキャプションもついています.同じ出版社なので,お咎めなしなのですかね.
さて,授業で,4×5でも5×4でも表せる事例を学習したら,今後は「どちらでもいい」のかというと,そのあとを読む限り,そうでもなさそうです.というのは,p.25で「答えが15になる問題づくり」を行い,「3×5と5×3のどちらの式になってもよいこととした」とあるのですが,板書例は以下のとおり,5×3=15となるものばかりで,そのどれもが,3×5=15も正解とは読めないのです.

この中で,「花たばが3つあります。1つに5本花が入っています。全部の花の数は何本ですか」*5について,p.26では「立式するときに数字が逆になる問題」と指摘していますが,これについても先例があります.「1はこにトイレットペーパーが6ロールはいっています。そのはこが8こあります。トイレットペーパーはなんロールありますか。」*6,それと文章題そのものは書かれていませんでしたが,先生が「12点」と言ったという事例*7です.
この本は巻末に太字が並びます.執筆者一覧,そして関西算数授業研究会の組織表です.そうして見ていくと,かけ算(pp.23-26)の執筆者(宮本真希子)は大阪教育大学附属池田小学校に所属とのこと.この小学校は,10回すべての研究会の会場校であるのが,「あの忌まわしい事件」という表記とともに,p.137に書かれてありました.安全・安心な環境のもとで,教育の充実を図れることの大切さを思いました.

*1:Teaching Mathematics in Grades K-8: Research Based Methods, p.157; Luckier!

*2:オトナのための算数・数学やりなおしドリル』 p.14; 算数教育・資料集

*3:方眼紙上に斜めに引いた4つの辺による正方形です.2年でこれを正方形と判断できるのか? …これもしっかり対策していて,例題のすぐ下に「三角定規を用意してください」とあります.角がみんな直角なのは,三角定規で確認できるのでした.

*4:デカルト積のピクトリアル.木と花の数が入れ替わっていますが,4×5でも5×4でも表せるという点は変わりません.2から5までの段のかけ算を,乗法の意味とともに学習する際に使用できる例題です.

*5:丸囲みの「も」が少々,気になりますが,他の授業例では見当たりません.「求め方」かなと思っています.子どもの答えを先生が黒板に書いた,と思えば一応理解はできます.

*6:さんすうの授業 第1階梯―自主編成研究講座 小学校1・2・3年生』p.176; 「3×5と5×3,答えは同じだけど,意味は違う」とは

*7:向山型算数授業法事典 小学2年』 p.79; 「向山型算数」読み足し