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かけ算の順序は,ネットde真実? (2014.09)

「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」*1という文章題で,7×4=28の式が不正解なのはおかしい---ツイートでよく見かける批判を簡潔に書くと,こうなるでしょうか.
『かけ算には順序があるのか』はすでに読んだ方に向けて,あの本が出てから後にどうなったかを書いておくと,冒頭の文章題は「基準量が後に示された問題」*2の一つで,1学級・1学校を超え広い範囲での出題がなされている*3ほか,多彩な授業例も知ることができます*4平成27年度より使用される算数の教科書をひととおり見る機会があり*5,2年にはどの教科書にも複数載っていること,また1年や3年にもその種の文章題が見られることを確認してきました.
かけられる数・かける数の意味を大事にする授業や教育評価に対し,数学*6や日常の使われ方を持ち出したり,「掛算順序強制」といったラベリングのもとであれこれ言ったりしても,算数教育に取り入れられることはなさそうで*7,その種の批判は「ネットde真実」と呼ぶのがよさそうに思っています.


さて今週は,かけ算関連で当ブログに予期せぬアクセスがありました.そのうちの一つは,Towards Order-of-Multiplication Dispute (English Version)に対してです.アクセス元はFacebookからで,数日経ってからGoogleの検索結果に見えてきました.

さらに,ブログ記事も見つかりました.

ページの右上,日の丸をクリックすれば,日本語の翻訳を読むことができます.4+4+4+4+4+4=4×6=24は間違い,6×4にしないといけないよと読めるノートの写真から始まって*8,かけ算の式の順序は「かける数×かけられる数」か「かけられる数×かける数」か,各国比較をしています.
「日本では」(原文では"Di Jepang")として2つのリンクがあり,その一つが,当ブログの記事というわけです.もう一つは,数学教育を専門とするTad Watabane教授の文書です.ところで,この方は,日本の算数(かけられる数×かける数)と地元で教える場合(かける数×かけられる数)とをきちんと区別して,文章にしている作っている人だなあという印象を持っています.Common Core State Standards (CCSS)では,かけられる数とかける数がどうなっているかについて,http://mathgpselaboration.blogspot.jp/2014/07/how-should-we-read-5-7.htmlにて読むことができます.
専門家を差し置いて,なんて考える必要はなく,ブログ主さんが手広く調査して,日本のかけ算で先に引っかかったのが,当ブログの記事だったと想像しています.
Thailandが"multiplier x multiplicand"なのは,少し残念です*9


国内なのですが,日本語版ベネッセの回答に昨日,まとまったアクセスがありました.
ただしツイートでURLが書かれたというわけではなく(もしそうなら,ログを見ればt.coからのアクセスが出てくるのですが,昨日から本日にかけては,見当たりません),「かけ算 順番」や「ベネッセ かけ算」で検索して,やって来たと思われます.
その発端は,以下のツイートでしょうか.*10

文章題は,「あめを8人の子どもにくばります。1人に7こずつくばるには、あめは何こいるでしょう」です.
ラス前のコマに見られる,「式はかけ算の意味を表してるんだよ!」のセリフには,補足をしたいところです.「8×7」という式が,「あめを8個ずつ7人に配る」や「8人を7倍する(答えは56人)」という意味になり*11,いずれも,もとの問題と合わない,という思いが透けて見えます.これらは決してナンセンスではなく,1951年の小学校学習指導要領 算数科編(試案)や,平成に入ってからだと『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』で読むことのできる解釈です.
トランプ配りや長方形配置など*12,異なる解釈の存在も知られていますが,「…と言うが,…と考えることもできるんじゃないか」で終わっているのもまた,ネットde真実の特徴です.そこから脱するには,「さまざまな意見・根拠がある中で,どれを選ぶか」の判断だと思います.
「8×7」と書いたときに,先生から(黒板にその式を書いたときには他の子どもから),どう見られるだろうか,誤解されるのであれば「7×8」を選べるようになろう,というのが,個人的には2010年あたりの見解です*13.書籍や学習指導案を読んでいき,2つの数をひっくりかえした式の比較は,授業においてもなされている*14という認識に至っています.


ここまで読んでいただき,ありがとうございます.さらに関連情報をお望みでしたら,以下のところもご覧ください.

(最終更新:2014-09-30 朝)

*1:小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』p.96, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130214/1360776013#%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%8C%87%E5%B0%8E%E6%B3%95%20%E7%AE%97%E6%95%B0

*2:http://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/103.html

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131229/1388265996

*4:例えば,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#2

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140626/1403730091

*6:著名な数学者による『数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)』pp.45-48に関して,まず歴史的事実として「乗数」と「被乗数」の発明が1950年代というのは間違いで,それより前に「乗数先唱」「被乗数先唱」があったし,緑表紙教科書にも,基準量が後に示された問題が入っています.面積・体積やトラックについては,小学校で学習する「かけ算」の全体像を,批判する人が提示していない点が気になっています.面積を含むさまざまなかけ算・わり算のモデルは,http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdf#page=89, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131226/1387983600で読めます.トラックの件は「倍」と「積」の組み合わせであり,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131116/1384560000#3.3で例示しています.

*7:「かけ算の順序」ではありませんが,指導方法が変わった事例もあります:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120121/1327091414

*8:関連: http://cafe.daum.net/seaugjang/9MER/23?docid=1IFsc9MER2320090705125934, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131007/1381093191

*9:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130126/1359147548#12

*10:http://togetter.com/li/723999も,コメントが伸びそうです.

*11:必ずそれらの意味になる,ではありません.英語で書くなら"may be interpreted as"といった表現にしたいところです.ただし,断定にせよmayをつけるにせよ,「そう解釈されると良くないね(書いた意図と違ってくるね)」と進むのは共通しています.

*12:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111117/1321460871, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111224/1324659582

*13:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20101225/1293224299

*14:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130316/1363388038