わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

世間一般では

要するに,算数教育の世界では,旧文部省を中心とする主流派側も遠山啓氏に代表されるような非主流派側も「数量×単価」の順序を否定していた。算数教育界におけるこの悪しき伝統は現在も維持されている。
世間一般では「単価×数量」と「数量×単価」の両方の流儀が使われている。レシートを集めてみてもそのことを確認できる。見積書などでも「数量×単価」のスタイルは普通である。「6×5円」もまた「普通」であることも言うまでもないだろう。さらに「4×100mリレー」や4倍速の意味で「4×」と書くことも普通である。
(黒木:かけ算の順序強制問題. asin:B00MBUXKYA p.113)

小さなツッコミから.「4×100m」「4×」に留意した上でのかけ算の指導には『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)*1が思い浮かぶし,「6×5円」では「6×(5円)」か「(6×5)円」か曖昧なので,「5円×6」または「6円×5」と書けば,同じ字数で曖昧さを解消できるのではないか*2とも感じます.
もう少し広い枠組でとらえると,「世間一般」としてなぜ数量・単価を例に挙げるかは,大学生向けのクリティカル・シンキングに良さそうな題材です.個数表記のような,より実用的で,低学年でも探すのが容易なものに関して,どうなっているのか,調査や整理も,あってよいように思っています.「6皿分×4袋」を含む,事例収集をかけ算の指導に組み入れた学術報告は,2007年にも見られます*3
それがない現状では,算数教育の系統性に太刀打ちできない人々が,反例探し*4をしているように見受けられます.


それから,「世間一般では「単価×数量」と「数量×単価」の両方の流儀が使われている」を,事例をもとに了解したところで,次にどんなアクションをとり,何を考えればいいのでしょうか.
算数も,「数量×単価」の形の式を認めろというのは,受け入れられにくそうです.というのも,類例があります.
「外国では,かける数×かけられる数で表される.日本の算数も(かけられる数×かける数とともに)この式を正解とすべきだ」という主張に,賛同できるでしょうか.
是非の前に,この主張の存否を確認しておくと,黒木特別寄稿でも言及のある『算数・数学教育つれづれ草』p.46で読めるのは,この主張です.http://ameblo.jp/metameta7/entry-11137983364.html*5に載っていますが,かけ算の順序論争の経緯として見たとき,2010年刊で,その間に当ブログのhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110419/1303160320と,『かけ算には順序があるのか』の刊行が入っています.批判する人々が『算数・数学教育つれづれ草』に着目したのは,比較的新しいものです.
さて,「外国では…」の主張について,受け入れられている節は見受けられません.思いつく理由は,「外国は外国,日本は日本」です.一つは1968年,中島健三による「乗法の意味についての論争と問題点についての考察」*6でそのスタンスを見ることができます.教師による指摘は,『誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告』p.65にもあり,「そういうふうに考えると、一種の約束事ですね」によって表されています.


「世間一般では「単価×数量」と「数量×単価」の両方の流儀が使われている」についての個人的見解は次のとおりです:日常生活では「単価×数量」と「数量×単価」のいずれの表記も見かけるけれども,算数・数学で総額を求めるため,式に表す際には,単価にあたる数を左に,数量にあたる数を右に置いた,かけ算の式にすれればいいのです.
文字式との関連を,確認しておきます.中学では,「2円の切手をa枚」,購入したときの総額は,2×aと(紙または頭のなかで)書いてから,×を取り除いて2aとします.「a円の切手を2枚」だったら,同様にa×2と書いてから,×を取り除くとともに文字式の慣例に基づき,2aとします.同じ2aでも,aの意味が違います.

*1:指導より前の解説も重要:「被乗数と乗数の位置が教科書の書き方と逆になっていることに気付くであろう。この例から分かるように、乗法では、数の位置ではなく、数が意味する内容に注目して、どの数が1つ分の数であるか、いくつ分はどの数かをしっかりと読み取ることが大切である。」(p.92)

*2:上司や顧客から「6×5円」のように書かれたものを受け取った場合,関連情報を見るか,なければ問い合わせるなどして,どちらが単価でどちらが個数かを把握する必要があります.すぐ前の脚注で,引用した文章は,この把握・配慮にも関わってきます.

*3:http://www.educ.juen.ac.jp/educ/wp-content/uploads/200725.pdf#page=5]

*4:「反例」の存在に注意して記事を書いたのはhttp://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20121219/1355863133です.http://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20121220/1355949533と合わせてどうぞ.

*5:ここに「1960年に「量と比例」」「『教師のための数学入門・数量編』,著作集『量とはなにか』所収」などが記載されています.それで,黒木特別寄稿の,遠山啓の取り上げ方についての疑問が解消しました.となると次に気になるのは,黒木特別寄稿がどのくらいWebの情報に依拠しているかなのですが,その洗い出し作業には,ブログよりも,TwitterやTogetterを活用すべきかもしれません.

*6:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391.現在もCiNiiで出る情報には,標題に誤記があるので,本文にあたることをお勧めします.当ブログでは2011年秋から何度か取り上げ,主要な箇所はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130217/1361035213#%E4%B8%AD%E5%B3%B61968bで参照できるようにしています.ただし表記よりも,乗法の意味の指導に主眼が置かれています.累加と拡張による指導が,現在も学習指導要領解説に載るなど主流であり,米国で当時提案されていた,アレイに基づく乗法の意味づけが,現在では(米国でも)衰退していることは,もちろんそこには書かれていません.