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「文化資源のデジタル化に関する各種ガイドラインの概要とその活用へのアプローチ」を聴く

昨日は大阪へ足を運びました.大阪市役所の近く,中央公会堂にて催された「情報と人をつなぐ じょいんと懇話会」*1に出席しました.
18:30にスタート.はじめ1時間は講演,その後1時間半は懇親会です.
講師は関西大学の研谷紀夫先生です.いつだったか,情報知識学会*2の年次大会発表で同じセッションになったのが縁で,それから親密に,というのは言いすぎですが,学会などで顔を見かけたら挨拶するくらいの間柄になっています.
ご講演のテーマは「文化資源のデジタル化に関する各種ガイドラインの概要とその活用へのアプローチ」です.資料などをデジタル化をする際に,やみくもに独自に行ったのでは,効率が悪かったり,公開後に問題が発生したりしかねません.デジタル化や公開をスムーズに行う方法については,国内外でデジタル化の経験に基づくガイドラインが作られてきました.講演ではその中から国内の4つのガイドラインを取り上げ,ポイントになるところを解説されていました.
ガイドラインは,以下より参照できます.どれもPDFになっていますので,ダウンロードしておいてオフラインで読むことも可能です.

これら4つの違いも,説明されていました.【①国会】は,書籍・活字資料に適したデジタル化のガイドラインです.順序を変えますが【④ハン】は,図像資料のデジタル化を主な対象としています*3
【③震災】は,タイトルから想像できると思いますが,東日本大震災の経験を踏まえた資料・記録のガイドラインです.【②デジ】は,地域振興,そしてMLA連携*4を重視した内容とのこと.
それらから,次のとおり,デジタル化の共通項目が整理されていました.

  • I 基礎知識の取得と準備
    • I-1 基礎調査
    • I-2 資料の選定
    • I-3 資料の補修
    • I-4 計画の策定
    • I-5 権利の確認・処理(1)
  • II デジタル化
    • II-1 デジタル化
    • II-2 評価
    • II-3 保存
    • II-4 保存用メタデータの構成
  • III 公開
    • III-1 権利の確認・処理(2)
    • III-2 公開用メタデータの構成
    • III-3 コンテンツの作成
  • IV 運用

各項目について,4つのガイドラインのどこで,おおよそどのように書かれているかを見ていくのが,講演の後半でした.ざっとメモをとったのですが,その公開は差し控えます.一つだけ挙げておくと,II-1 デジタル化については,【①国会】の9頁と24頁,【②デジ】の49頁,【③震災】の62頁,【④ハン】の28頁そして45頁(カラーマネジメント)を見ておくとよいとのことで,本記事を書くにあたり各ページを参照しました*5.それぞれ,1ページではなく複数ページにわたっていましたが,その起点となるところを知ることができたのは,こういった講演会ならではと思いました.
ガイドラインのページ参照に織り交ぜて,いくつか面白い話も聞きました.II-2の評価のところで,デジタル化(例えば撮影)したものに手が写り込んでいないかなどをチェックする必要があります.III-1を話す際に,クリエイティブ・コモンズや,文化庁の自由使用マークが取り上げられていました.
権利処理に関しては,【①国会】の88頁にある流れ図が講演中に示されたほか,次のページ以降に詳しくまとめられています.それと,配布された冊子を読み感銘を覚えた箇所がありまして,【④ハン】の20頁より引き写しておきます.

デジタルデータを作成するには、デジタル化の対象の文化資源について、自分が「それをデジタル化し、その複製されたデータを保管する権利を有しているか」の確認が必要です。
著作権については、データ化する対象の資料が著作権の保護対象であるかどうかを確認します。
データ化の方法によって、デジタル化のプロジェクト主体者以外(画像の撮影を請け負う者[個人・業者]等)に著作権が生じる可能性があるケースかどうか確認します。
資料の所有権がプロジェクト主体者にない場合、所有権者の財産権を侵害しないか確認します。
上記のいずれも、場合によって適切な権利処理が必要です。
権利契約の際は、利用の範囲を特定し、それに見合った契約をすることが望まれます。ただし、資源の有効な利用のために、利用の範囲を限定しない包括的な契約を結べることがより望ましいと考えられます。

著作権」については,個人的に苦い経験があります.といっても,自分が公開したものが著作権侵害だと,訴えられたのではありません.何かというと,2008年に古典籍の書誌情報を対象とした全文検索システムで論文を投稿した際,1回目そして2回目の査読で,著作権はないのではないかというコメントがついたのでした.著作権の言葉を入れたまま,論文になったのですが,今思うと上記のとおり,「財産権」を書けばよかったのでした.講演に戻りまして…
システム基盤(ハードウェア,ソフトウェア),資料基盤(資料そのもの,メタデータ),社会基盤(権利,ユーザ)という3つについてバランスをとることの必要性などをおっしゃって,1時間を少し過ぎたところで講演終了.質問は1件だけありました.質問者は「そういったガイドラインをもとにしたデジタル化の事例はあるか?」で,それに対する回答が「ガイドラインはそれぞれのデジタル化をもとにしたもの」となっていて,噛み合っていないようにも見えました.
盛大な拍手のあと,会場に食べ物・飲み物が運び込まれ,立食パーティによる懇親会です.研谷先生とも,かくかくしかじか,こちらは今月からなんとかかんとか,で名刺交換しました.
長さ70cmくらいはあろうかというオムライスも,1回2回取って食べましたが,懇親会の開始直後から体調の異変を感じ取り,今日中に和歌山に帰りたいのでと理由をつけて,申し訳ありませんが途中退室させてもらいました.

*1:http://www.infosta.or.jp/posts/joint2014/, http://www.jsik.jp/?kansai20141128

*2:配布冊子「文化資源のデジタル化に関するハンドブック」の参考文献に,情報知識学会誌の論文が何点か入っているのを講演開始前に見て,軽く驚きました.

*3:いただいた冊子には,2Dの象徴として浮世絵,そして3Dの象徴として仏像のイラストが,何度も出てきます.

*4:Museum(博物館・美術館)/Library(図書館)/Archives(文書館).wikipedia:MLA, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110515/1305406700

*5:いずれも各PDFファイルのページ(先頭が1)ではなく,文書の下部もしくは隅に振られた番号を見る必要があります.それと,【④ハン】のカラーマネジメントは「46頁」のほうがより適切と思いましたが,ここでは講演内容を重視しました.