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かけ算の順序は,ネットde真実(2014.12)

以下「その1」「その2」「その3」は,上記ページ内のキャプション(からあとのツイート)を指します.

[twitter:@taifu21]さんの一連のツイートを見て,違和感を覚えたのは,その語彙です.その3に入れた《なるほど、だからtakehikomさんは掛算順序強制を推奨されていたのですね。》には,それがお立場なのですねと,読み流すのがよさそうですが((実際の出題や指導,国内外の研究や実践に対し「かけ算の順序」「掛算順序強制」といったラベリングを行い,分かったつもりになっている,という事例が一つ追加されたなあという思いもあります.)),何度か使用されている《自然数の掛算》については,好きではないけれど,上から目線で書かざるを得ません…算数教育では「整数の乗法」という用語が確立されています.そしてこう書いたとき,高学年で学習する,小数・分数の計算と区別され,主に低学年で何を学習すべきかが意図されます.例えば順列のかけ算(([http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141126/1416947717]))は,式は4×3のように表せるとしても,その扱いは「整数の乗法」の範囲外となります.

学習指導要領から読める,2年の《掛算》には,「1位数と1位数との乗法の計算」があります.平成20年告示の学習指導要領では,数量関係の領域が第1学年・第2学年にも設定され,かけ算の式で表したり,式をよんだりする活動は,従来の数と計算の領域から,数量関係の領域に移動しています.かけ算から離れますが,英語圏の算数では,自然数ではなくwhole numberがよく使われます.
整数の乗法と,高学年の計算との違いは,例えば,乗数が1より小さいときに現れます.ある文章題で,正解となる式は「16×0.85」のところ,「16÷0.85」とする子どもが多いというのです.これは,「かけ算をすると,もとの数よりも大きくなる」というミスコンセプションに基づきます.このミスコンセプションの存在を実証した論文・紀要が,まずは国外,そして国内*1に見られ,我々は,ロケットを例とした解説*2で読めるという次第です.
各文献を読み,概況を思い描いてみると,交換法則は文章題を解く際に必ずしも有効に働いていない*3のが想像できますし,《自然数の掛算》をいくら引き延ばしても,上に挙げた実験による知見とは結びつかないことになります.
《文章題》にも執着しない方がいいと思われます.代わりの語句を,学習指導要領より見つけるなら,「乗法の意味について理解し,それを用いることができるようにする」ですが,「乗法の意味の理解」と簡潔にできます*4.文章題以外に,理解を促し状況を確認できる方法には,絵を示す,場面に合った絵を選ばせる,式から文章題を作る(作問法),などがあります.前二者はhttp://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=6の大問4と大問3が該当します.作問法については,「4×8=32となるお話をつくってください」が,採点基準とともに『教育評価 (岩波テキストブックス)』p.158にて例示されています.


以下では,もう一つのブログで昨日の朝に掲載した内容*5を加筆し,配置しています.
@taifu21さんは,表現は悪いが新手の「粘着さん」と認識しています.かけ算の順序論争に関して一面的な認識でツイートしており,その認識を改めようとしても徒労に終わりそうです.
とはいえ「エビデンス」を持ち出しているのは,こちらサイド*6なので,ご本人に伝わるかどうかはさておき,もう少し丁寧に書いたほうがよいとも感じました.
いろいろな論文や実践例を読んできた結果は,以下の文に凝縮できます.

  • 算数教育において,ある指導法が教育的に良いという統計的な結果により,「国」レベルの教育内容が設定されたという事例は見当たらない.

日本だと学習指導要領(の変革)を参照し,差分を丹念に辿れば,確認がしやすいと思います.ある指導法が教育的に良いという話は,1950年代,九九のどの段から順に学習すればよいかというのが,報告されています.また統計的な結果はなさそうだけれども,「わり算のきまりを使った,わり算の計算の指導」が提案され,教科書に採用されていくという過程を,算数ものづくりで見てきています.
国際比較には『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu*7が有用です.そこに書かれた日本の教育を礼賛・盲従するのではなく,学校週5日制や先生方の負担増などにも考慮して,算数に限らない教育をどう見守り,親そして社会の一員として関わっていくべきかを考え,行動する必要も自覚しています.
それらを踏まえ,「エビデンス」に対して何を期待すればよいかについては,以前に書いた記事の結語を転載します.

エビデンスがあるのは,それに基づく教育・指導をするための必要条件にも十分条件にもならないと思うのが良さそうです.とはいえ,ある指導法を支えるものにはなるでしょう.限界には注意をしつつ,より良い学びとは何なのだろうという問題意識を常に持って,エビデンスを見ていかなければならないように思います.

エビデンスに基づいた「かけ算の順序」研究

それはそれとして,「かけ算の順序が教育上良いというエビデンス」を追求するのなら,「かけ算の順序なしが教育上良いというエビデンス」や,「かけ算の順序が教育上良い」「かけ算の順序なしが教育上良い」が書かれた文献の調査も,あっていいように思うのですが,収集・整理はコストも手間もかかり,誰にでもできるものではありませんね.
「かけ算の順序が教育上良いというエビデンス」を繰り返し尋ねることで,そのエビデンスがないことを印象づけたいのは,十分に承知できますが,かえって,より広範な,国内外の算数・数学教育の状況に対し,当該ツイート主さんは見て見ぬ振りをする姿が,浮かび上がってくるようにも思っています.
なお,「かけ算の順序なしが教育上良い」には否定的な文章をかけ算には本来,順序がないで集約してきました.「かけ算の順序が教育上良い」については,http://ci.nii.ac.jp/naid/110007994852の学会解説がもっとも明快です.


その2のきっかけとなった,当ブログの記事を書き出します.

2点,補足しておきます.「かけ算の順序が教育上良いというエビデンスがない」といった主張に賛同するのは,教祖の教えを無批判に受け入れているのと同じです.実状はというと,授業や指導の工夫,教科書や出題などの配慮によって,2年生の導入時において,被乗数と乗数を明確に区別して扱うのが確立していますので,言ってみればこの通説に反する側に,それは不適切であることをエビデンスとして示す責任があります.「順序のないかけ算」に対しては教育上の問題点が複数,指摘されていることも,踏まえておきたいところです.

手がける,手を広げる

ああ,情報不足でした.好きではないけれど,釈明せざるを得ません.
第2文の「かけ算の順序が教育上良いというエビデンスがない」については,それ以降と語彙が異なっています.こういう言葉の使い方に,賛同する人々がいるだろうなという意図のもと,書いたのでした.こういう言葉の使い方に,ぴったり当てはまるツイートを,虫取り網に入れておりませんが,良いものが掛かればここで追記する予定です.
「実状はというと」以降は,以下の記事にあるスイッチングレーンを想定しています.

しかし語彙の違いのほか,スイッチングレーンを「改宗」に置き換えてみると,上の段落は,不特定多数に向けて書いたとはいえ,私自身も何らかの「宗教」に染まっていることを示唆し,恥ずかしく思いました.布教ではなく,「協働」に注力するとします.


これまでの「かけ算の順序は,ネットde真実」記事リスト:

(最終更新:2014-12-18 朝)

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141120/1416430248#1, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131116/1384560000#3.2

*2:最初に訳出したのは:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111205/1323022926

*3:「かけ算をすると,もとの数よりも大きくなる」の反例は,低学年,具体的には1や0をかけるようなかけ算にも現れますが,小原の実験では,「I×1,D×1やI×0,D×0を正答する児童が各学年において多数みられた」とあり,乗数効果のミスコンセプションに影響しないことがうかがえます.

*4:「「かけ算の意味を理解していない」はかけ算の順序強制における最重要の要注意定番キーフレーズである。」(黒木, 2014, p.113)を紙媒体で目にしたとき,教祖ならではと思ったものでした.

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20141208/1417988156.Togetterまとめで書いたとおり,その3の各ツイートよりも前です.

*6:2013年に見かけた「エビデンス」:http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/796.そして記事にした「エビデンス」:[http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130324/1364071092

*7:原著は"The Teaching Gap: Best Ideas from the World's Teachers for Improving Education in the Classroom",概要の紹介はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111110/1320871493