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7.2÷3は?

いきなりですが問題です.

(1) 次の式で答えが求められるような問題を作りましょう.

  • 7.2÷3=2.4

(2) 次の式で答えが求められるような問題を作りましょう.

  • 7.2÷3=2あまり1.2

さっそくですが解答です.

(1) 7.2リットルの液体があります.3つの容器に,同じ量になるよう分けます.1つの容器は何リットルになりますか.(答え 2.4リットル)

(2) 7.2リットルの液体があります.3リットルずつ,容器に入れて製品にします.液体の入った製品はいくつできますか.(答え 2つ)

解説です.それぞれのわる数「3」の意味が,異なります.(1)では「3つの容器」に対応します.そして整数(分離量)となります.2や4に取り替えることは運用上できても,3.1だとか2.4だとかにはできません*1.商となる2.4は,わられる数と同じく小数で,リットルがつくことからも,同じ種類の量(連続量)なのが分かります.なお,「同じ量になるよう分けます」は,わり算の意味のうち等分除に対応します.あまりは発生しません.
それに対し(2)の3は,「3リットル(ずつ)」としています.連続量です.3.1だとか2.4だとかに変えられます.商は2.4ではなく,2すなわち整数(分離量)です.あまりも出ます.わられる数とわる数(とあまり)は同じ種類の量であり,商はそれらと異なる種類の量です.「3リットルずつ,容器に入れて製品にします」は,包含除に位置づけられます.
ここまでを表にまとめてみます.

(1) (2)
7.2÷3=2.4 7.2÷3=2あまり1.2
問題文 7.2Lの液体があります.3つの容器に,同じ量になるよう分けます.1つの容器は何Lになりますか. 7.2Lの液体があります.3Lずつ,容器に入れて製品にします.液体の入った製品はいくつできますか.
答え 2.4L 2つ
わられる数 7.2L…連続量 7.2L…連続量
わる数 3つ…分離量 3L…連続量
2.4L…連続量 2つ…分離量
あまり (生じない) 1.2L…連続量
連続量 わられる数,商 わられる数,わる数,あまり
分離量 わる数
除法の意味 等分除 包含除

2つのわり算の式を,かけ算に変換すれば,もう少し世界が広がります.(1) 7.2÷3=2.4は,2.4×3=7.2,(2) 7.2÷3=2あまり1.2は,3×2+1.2=7.2と書くことにすると,それぞれ「2.4リットルの容器が3つで合計7.2リットル」「3リットルの容器が2つ,それと1.2リットルのあまりで合計7.2リットル」と読むことができます.「3」が,(1)のかけ算の式ではかける数に,(2)ではかけられる数に置かれます.
こういう見方もできます.それぞれのかける数にあたる「3」と「2」が,「3つ」と「2つ」ですので,ともに分離量です.《連続量×分離量》のタイプのかけ算は,《分離量×分離量》と《連続量×連続量》との仲介役となるのです*2

関連

従来のように等分除と包含除をたがいに氷炭相容れないような別物と考えるのは正しくない.少なくとも分離量の段階では同じ過程を別の角度から眺めたものと考える柔軟な見方の方がよい.
たとえば12枚の紙を3人に分けるという問題は,意味の上からは明らかに等分除であるが,1人1枚ずつトランプ配りの方法をとれば包含除とみなすこともできる.
しかし連続量になってくると,この2つは明らかに別物であるとみなければならなくなる.13Lのショウユを3人に分けるのと,3Lずつに分けるのでは明らかに意味が違う.
13L÷3は4\frac{1}{3}Lであって余りのない答えがでてくるが,13L÷3Lは4と余り1Lという答になる.
ましてや第一用法と第三用法になると,その意味のちがいはますます明瞭になってくる.
だから除法をどちらで意味づけするか,という問題は軽くみることのできない重要な問題なのである.(略)
(『遠山啓エッセンス〈2〉水道方式』pp.177-178. 転載元

もうひとつ関連

しかし,数学的には割り算がひとつしかないのは明らかである.40個のみかんを5人で分けるときのひとり分は40÷5=8で求められるし,40個のみかんを5個ずつ分けるときの人数も同じ割り算40÷5=8で求められる.ふたつの割り算の違いはふたつの場面設定の心理的な違いにすぎない.上に引用した指導書のように,掛け算の順序を固定化してふたつの割り算を説明するのは,実は逆に,ふたつの割り算の心理的な非対称性を根拠として,掛け算の順序を固定化することを「擬似数学的に」正当化している文章なのではなかろうか.
(松本幸夫: 3×5 vs. 5×3の問題. 数学セミナー2015年2月号 p.57)

本記事はもとより正当化を目指したものではなく,「40÷5=8」あるいは《分離量÷分離量=分離量》という限定を外せば(そして小学校の範囲内で),ちょっとした面白い違いを見ることができるんですよねというのが真意です.

(最終更新:2015-01-15 晩)

*1:「2.4個の容器に,同じ量になるよう分けます」…変ですね.

*2:《分離量×連続量》のタイプのかけ算を探すのも面白そうですが,算数の問題や日常生活の事例を考えてみると,これに該当するのは,かけられる数が分離量で表現されているとしても,小数・分数などに値を変えても意味が通じるものばかりです.そうすると,《分離量×連続量》は《連続量×連続量》に吸収されます.「3リットル」のような,単位量の整数倍の量を"countable continuous"で表現し,分離量/discrete,連続量/continuousと区別している文献もあります.