わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

平均気温を求めるときに,温度を足し算していいのはなぜか

やっと衣替えが終わりました.着なくなった長袖衣類は,いくつかを箱にしまい,いくつかを妻に託しました.
梅雨入りして,雨のおかげで一時的に気温が下がったとはいえ,これからどんどんと,温度が上がっていきます.1日における温度の高低差も,無視できません.
ところで大阪の気候を見てみると,1981年〜2010年の30年間の平均値として,6月の最低気温は20.0度,最高気温は27.8度とあります.
日によってはそれより低いとき,また高いとき(6月にもきっと真夏日が!)もあるわけですが,さてここで,「平均」の気温を求めるとき,算数でやってきたように,足し合わせて個数で割るという方法で,問題はないのでしょうか.
これは,温度という量*1にいくつか現実的な仮定を置けば,その計算方法で問題のないことが数学的に説明できます.以下,簡単な計算例を交えながら,見ていくことにします.
なお,温度表記には摂氏を採用していますが,華氏や絶対温度に置き換えても,以下の議論に影響しません.「足し合わせて個数で割る」と書いた通り,相加平均のみを対象とします.これは,温度の加法とスカラー倍を定義し利用することと,深い関係があります.
温度の加法,すなわち「温度どうしの足し算」を定義する前に,「温度どうしの引き算」は,常に可能とみなします.例えば28℃−26℃=2℃,26℃−28℃=-2℃です(例えば,数直線で考えるといいでしょう).これらの等式の左辺,より正確には引き算記号の前後は,ともに「温度」(気温も該当します)なのに対し,右辺,言い換えると引き算の結果は,「温度差」になることにも,注意が必要です.
上記のほか,温度と温度差の演算として,次のことが行えるものとします.

  • 温度に温度差を足すか引くかして,新たな温度を求めることができる.
  • 温度差どうしの足し算,引き算,割り算が行える.
  • 温度差を実数倍したり,温度差を0以外の実数で割ったりできる.

温度差どうしの掛け算は,実用性に乏しい話です.温度差どうしの割り算はというと,「部屋が閉鎖され,冷却装置が稼働した.1分で2℃下がるという.今より30℃下がるのは,30÷2で15分後だ」といったシチュエーションを考えるなら,この中の30÷2は,温度差どうしの割り算をしていることになります*2
道具が揃ったところで,「温度どうしの足し算」を考えます.ある基準値となる温度a℃を用いて,2つの温度x℃とy℃の足し算を次のように定義します.
x+y=a+(x−a)+(y−a)
左辺とイコールは,「xとyを足す(xとyの和)とは」と読むことができます.右辺ですが,x−aもy−aも,温度どうしの引き算によって温度差を求めており,それを,aという温度に足しているので,構文的には,問題ありません.
ただし意味論的(代数的,と言ってもいいでしょう)には,すんなり理解できない式です.まずa,x,yが任意の実数だとすると,この式を満たすのは,aが0のときに限られます.しかし,「ある基準値となる温度a℃」としたとおり,0でなくても,この式を使うことが要請されます.
さしあたりこの式は,次のように理解してください.すなわち,x℃が基準値a℃からどれだけ増減しているかと,y℃が基準値a℃からどれだけ増減しているかを,足し合わせ,その和(基準値a℃からどれだけ増減しているか)を温度にしたものを,x℃とy℃の和と定義しています.
もう一つの注意点は,「基準値となる温度a℃」の存在です.これによって,x℃とy℃の和が一意に定まりません.いくつか値を割り当てて,計算してみましょう.
a=25とすると,26℃+28℃=25℃+(26℃−25℃)+(28℃−25℃)=25℃+1℃+3℃=29℃です.
a=27だったら,26℃+28℃=27℃+(26℃−27℃)+(28℃−27℃)=27℃−1℃+1℃=27℃と,先ほどと異なります.
a=-300(絶対零度を下回りますが,数学的には,こういった値を考えることもできます)にしてやると,26℃+28℃=-300℃+(26℃−(-300℃))+(28℃−(-300℃))=-300℃+326℃+328℃=354℃です.またまた異なります.
とはいえこの違いは,a℃をさまざまに変えようとすることによる不具合です.話を進めましょう.
足し算を繰り返したら掛け算,という素朴な考え方をもとに,温度x℃の実数倍(k倍)を,次の式で定義します.
x×k=a+(x−a)×k
とくにk=2のときは,x×2=x+xが成り立ちます.
この式には,温度を0以外の実数で割ることも含まれています.例えばx÷2=x×\frac12です.
これらを用いて,26℃と28℃という2つの温度の平均を,求めてみましょう.
a=25とすると,(26℃+28℃)÷2=29℃÷2=25℃+(29℃−25℃)÷2=25℃+4℃÷2=25℃+2℃=27℃です.ここで「29℃÷2」は温度を2で割っているのに対し,「4℃÷2」は温度差を2で割っています.
a=27だったら,(26℃+28℃)÷2=27℃÷2=27℃+(27℃−27℃)÷2=27℃+0℃÷2=27℃+0℃=27℃です.
a=-300にしてやると,(26℃+28℃)÷2=354℃÷2=-300℃+(354℃−(-300℃))÷2=-300℃+654℃÷2=-300℃+327℃=27℃です.
足し算だったら,aの値によって結果が変わっていたのが,平均だといずれも同じとなりました!
aをどんな温度にしても,平均は同じなら,a=0℃として,計算するのが簡単です.
そのとき,(26℃+28℃)÷2という式は,2つの温度26℃,28℃の平均であるとともに,0℃を基準として26℃,28℃高いという状況(2つの温度差)の平均が,0℃からどれだけ高いかを表した式にもなっています.
ここまで,26℃,28℃という2つの温度の足し算や平均を見てきましたが,任意個でも同様になります.
というのも,本日の検討は数学における「アフィン空間」と密接な関係があります.温度はアフィン空間,そこからa℃を引き算した値(温度差)は,線形空間となります.温度の足し算・掛け算の定義式で,a℃を引いたのは,アフィン空間から線形空間への写像と見なすことができ,a℃を足しているのはその逆写像です.
このようなアフィン空間上のN個の要素x1, x2, ..., xNに対し,実数c1, c2, ..., cN,ただしc1+c2+…+cN=1を用意すると,c1x1+c2x2+…+cNxN*3という式の結果は,アフィン空間から線形空間への写像(引いたa℃の値に相当)に無関係となります.そしてc1=c2=…=cN=\frac{1}{N}と置いたら,相加平均になるという次第です.


関連:


補足を.a=25℃やa=27℃としたときの平均の計算では,aを「仮の平均」*4と見ることができます.
また単純に足すのは不適切でも,平均を求めるのなら差し支えないという数量には,温度のほか,時刻や日付を挙げることができます.wikipedia:尺度水準の中の「間隔尺度」が該当します.

(最終更新:2015-06-09 晩)

*1:「温度計から読み取ることのできる値」のことです.分子運動のエネルギーが…といったことは使用していません.

*2:ただし,その結果は,温度差と異なる量になります.小学校の算数との兼ね合いで言うと,温度差どうしの割り算は包含除に,温度差を実数で割るのは等分除に,それぞれ対応します.

*3:これは「中学校式」の書き方であり,上記と同様の表記だと,x1×c1+x2×c2+…xN×cNとなります.

*4:https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_18.html