車内で.
「あとの子よ」
「…なに,パパ?」
「あっちのお山,見えるか?」
「うん」
「山のそばにな,雲みたいな白いの,見えるやろ」
「みえるよ」
「あれ,何ちゅうか,知ってるか?」
「くも!」
「くも! くも!」
「さきの子も入ってきたか.あれなあ,雲とちゃうねん」
「…」
「ああいうのは,『もや』やな」
「もや,なん?」
「せやな.上のほお〜〜にあるんが,雲.山のそばで見えるんは,もやや」
「そんなんなんやあ」
「素直やなお前」
「パパぁ」
「あいよ」
「くもって,おふろにあるんやろ?」
「雲は,お風呂にはないなあ.あれは湯気や」
「おふろの,なかよお!」
「えっと…もしかしてアレか,昨日のお風呂の浴槽に入ってた,蜘蛛さんか?」
「おったやろ!」
「な!」
「あれなあ…お空の『雲』と,八本足の『蜘蛛』とは,おんなじ『くも』でも,ちょっと言い方が違うんやが…」
「…」
「…くも! きも!!」
「きもはまた違うなあ」
「ごろうくんがゆーてるねん!」
「ごろうくん…保育所のお友達かな? きもっちゅうたら,あとの子よ,お前の体にもあるんやで」
「なにそれ?」
「さきの子にも,パパにもあるんや…(お腹を指しながら)肝臓のことを,『きも』とも言うんや」
「へえ」
「へえ」
「せやけど,そのごろうくんが言うたんはたぶん,気持ち悪いの意味の『きも』やろな.肝臓の『きも』とこれまた,イントネーションが違うんやが」
「そんなんとちゃうでえ」
「ほなどんなんやったんやあ」