わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

領域,固定

本日のタイトルはあとで引用するツイートから取り出したものです.それはそれとして,発端となるツイートがあります.

これを経由した,当ブログへのアクセスもログに残っていまして,昨日の昼間に,当ブログの過去記事を入れて返信しました.
丁寧に読んでくださったようですが,[twitter:@yuki_nish]さん,[twitter:@hagat]さんよりいただいたツイートの「領域」「固定」の言葉を目にして,算数の学習を経てきた者が見る算数は,何なのだろうかと,いくらか思い巡らせました.

前者のうち「小学校に於ける算数の領域がどうか」について,真っ先に思い浮かぶのは,「A 数と計算」「B 量と測定」「C 図形」「D 数量関係」の4領域です.『小学校学習指導要領解説 算数編』のPDFだとp.10に詳しく書かれていますが,4領域の名称そのものは,解説でないほうの学習指導要領の算数(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm)にも記載されています.
戦後に,学習指導要領の改訂にともない少しずつ変化しながら,この4領域が確立しています.解説でないほうは,学習指導要領データベースインデックスで電子化されています.2008年(平成20年)の改訂で,算数に関しては,第1学年・第2学年にも「D 数量関係」の領域が設けられ,第2学年の乗法はAとDの領域で取り上げられています*1
それで,各学年で何を学習するのかを調査していくと,『小学校学習指導要領解説 算数編』で,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」という文章題にぶつかりました.
2年ではなく3年です.該当箇所と,過去の解説ではどうなっているのかについては,はじめのひもの長さは〜指導書・解説よりにまとめてあります.
解説には,その文章題の式も答えも載っていませんが,「乗法が用いられる場面」であることは,同じ段落に書かれています*2.それで式は,4×9なのか9×4なのか,どちらでもいいのかというと,2年で学習した乗法の意味に基づいて,9×4となります.9×4=9+9+9+9とすると,ひもが4本あって,どれも9cmであることがイメージできるのに対し,4×9ではどうしようかとなります.*3
このような文章題(基準量が後に示された問題)が,教科書の執筆の際,取り入れられています.また3年にも見られますが,2年での採用が多く,今年度から使用される2年の算数教科書では,6つの出版社のいずれにも,複数の文章題に出現するのを,前年度の教科書展示会で見てきました(平成27年度算数教科書読み比べ).学習指導要領解説に載っているから,取り入れたようには,見えません.かけ算の順序を問う問題にて整理してあるとおり,昭和初期の緑表紙教科書や,明治時代の高木貞治の本にも,出題例があります.
少なくとも国内の算数・算術では,かけ算の学習に際しては,かけられる数とかける数の違いを大事にし,式に表したり,授業にしたりしてきたことが,刊行物に残されているわけです.国内に限った事情ではなく,つまみ食いになりますが,"They(「4・5」と「5・4」という,2つのかけ算の式) are not conceptually the same, although because of the commutativity of multiplication they may be mathematically equivalent."や"And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?や"three children each having four candies are luckier than four children each having three candies although the total number of candies is the same."などとも符合します.
もう一つのツイートの「固定」に関してですが,その言葉を使うなら,低学年では固定,高学年では解除でしょうか.実際のところ,低学年では被乗数×乗数のみを正解とし,高学年では,同型に見える文章題に対し,2つの数を交換した式も正解になる,という指導を複数の本で確認しています.
読み取り表す力を育てる「足場」のある算数授業―すぐに使える!読解問題付き』では,2年の「ベンチが4つあります。1つのベンチに子どもが3人ずつ座りました。(略)」において「3が基準量であり,4がいくつ分であることを理解させる」と指示しているのに対し,6年の比に関する授業例では,「さとうと小麦粉の重さの比を2:5にしてケーキをつくります」「小麦粉を150gにすると、さとうは何gいりますか」に対し,ある児童は30×2=60,別の児童は2×30=60により,60gという答えを得ています.詳細は2×30gをご覧ください.
児童心理選書〈第8巻〉算数科の教育心理 (1957年)』は,1950年代の本で,当時,かけ算は3年で学習していました.「おかあさんが,びわをおぼんにのせて,ぼくたち7人に下さいました。1人が6つずつたべたら,ちょうどなくなりました。はじめに,びわはいくつあったのでしょう。」を42名に解かせたところ,「6×7=42としたものが22名で7×6=42と被乗数と乗数とを逆に書いたものは18名の多きに達した」と報告しています.「乗数と被乗数とを正確に理解させるため」の指導を行い,改善をしたともあります.次いで4年では,「4年1組45名で,こう堂にいすをはこんでいます。1人が1こずつ4かい運ぶと,みんなでいすは,なんこ運ぶことになるか。」という文章題に対し,「4こ×45=180こ」は正解でいいとして,「45×4=180」はいいのかと,討論になり,そこで教師のヒントをもとに,子どもたちが「45こ×4=180こ」に対し,45こを「全体が1回に運ぶ数」,4を「回数」そして180こを「全体で運んだ数」に対応づければ,「45×4=180」も正しいのだとして,適用題に移っています.詳しくはかけ算の順序・1957-2013を.
「筑波の算数」に関わった人も,同様のロジックをもとに,かけられる数とかける数を逆にした式も正解になり得る一方で,それを言う2年生の子どもがいないことも指摘しています.ロジックとか2年生の子どもとかについては,これまた国内に限ったものではなく,かけ算と構造で取り上げたVergnaudの解説の中に,きちんと書かれています.ロジックは,一言でいうとSCHEMA 5.3です.子どもたちの認識は"Young students apparently are aware of this and never user procedure d."が特徴的です.
5×3が正解という場面(文章題)に対して,いま,学校の子どもが理由を挙げて3×5も正しいと主張したとしても,かけ算の順序論争について(日本語版)で列挙したA-1からA-6(A-5を除く*4のいずれかになって,B-1からB-6のうち1つまたは複数を根拠に,それはダメとなりそうに思っています.
「固定」を含むツイートの中に,「一つ当たりの量」とあります.1あたり量を持ち出す(教育的な)意図としては,2年のうちから「1あたり×いくつ分」でかけ算を指導していこう,そうすればかける数が0でも,分数でも小数でも大丈夫だよ,と言えます.ですが,1つの意味(少ないルール)で,上の学年まで使おうというのは,『小学校学習指導要領解説 算数編』から読み取れる,算数教育の系統性と,合わないようにも思います.
解説では,2年では1つ分の大きさ×幾つ分で乗法の意味づけを行い,アレイや長方形・正方形の面積,また小数×整数などにも適用するけれども,5年で,乗法が小数になったときには,その式では説明ができず,基準にする大きさ×割合に拡張することが書かれています.この展開については,1968年の中島健三の論文*5が源流にあり,今年復刻された『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』でも一部を読むことができます.

*1:個人的な理解では,藤井斉亮氏の提唱する「式に表す」「式を読む」「式の形式的処理」のうち,Aの領域では「式に表す」と「式の形式的処理」が,Dの領域では「式に表す」「式を読む」が,それぞれ重視されています.

*2:「逆思考」「除法逆の乗法」とも呼ばれます.□÷4=9とも表せるけれど,場面と,たし算・ひき算・かけ算・わり算でこれまで学んだことをもとにすると,9×4=36の式になるね,というのが意図されています.「4等分」だからといって9÷4としてはいけないよ,というのも含まれています.

*3:4×9=9+9+9+9でもいいじゃないかとなると,1970年代の遠山啓とその賛同者でしょうか.この等式の根拠に,アレイが活用されましたが,なくなる半年ほど前に,「いままでの「タイル×タイル」というのは,子どもにはなかなかわからない」を含む講演をしていたことに触れる人は,賛同者には見当たりません.なお,いまの算数教科書で,アレイやそれと同型の図をもとに,9×4でも4×9でも表せるというのを学習していますが,4×9=9+9+9+9という書き方にはしませんし,アレイに基づくかけ算の意味づけは1960年代にSMSGが提唱し,数学教育の現代化運動とともに1970年代に衰退したことも,押さえておく必要があります.

*4:A-5について,「5×3個」や「5枚×3個/枚」は(構文的に)認められていないと思われます.昔の算術からいまの算数までみて,それらの式を認める書籍は,思い浮かびません.数どうしではなく,プログラミングにおける文字列のかけ算だと,Rubyでは"5"*3は可,3*"5"は不可です.http://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20120603/1338674855をご覧ください.

*5:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391なのですが,http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849500も当時の状況や,子どもたちの認識を知る上で重要となっています.