わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

塾と学校

まとめを見た最初の印象は,「え,現状を知るための統計なんかなしで,そこまで語れるの?」でした.児童・生徒による,塾の関わりについては,全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)の質問紙調査をあとで取り上げることにして,まとめから思い浮かんだ,自分の経験を,少し書くことにします.
私は1984年,中学入学の1か月前に,堺市内の小規模塾に入り,そこで英語・数学を学習しました.中学になると,自分の校区やそうでない校区からの,同じ学年の生徒と机をともにしました.毎年夏に,兵庫県のハチ高原へ,3泊4日の塾合宿というのがあったのですが,中2のときのみ参加しました(バス1台で生徒も先生も乗りました).
英語のアルファベットから始まり,中学の英語は先取りでした.中1の三単現や命令文,中2の比較級・最上級に感嘆文,中3の関係代名詞など,文法用語と使用文例を学んだのは,塾でした.数学はあまり記憶がないのですが,対数の定義は,高2のとき,塾長先生より教わりました.
塾ではなく学校で先に知った事項も,いくつかあります.英語の接触*1がその1つです.中3の話です.同じく中3で,6x^2+7x-3のような,たすきがけで因数分解ができるような式は,数学の授業中に先生が「(因数分解する方法を)塾で教わっているかもしれないが」と言っていて,その後(中学の因数分解の出題には)現れませんでした.
1990年から1998年までは,同じ塾でアルバイト講師を務めました.塾長先生が全学年の算数・数学を担当していたこともあり,はじめは高3の英語を受け持ち,のちに生徒のニーズに応じて何でもありの個別指導(例えば,塾の生徒)に変わっていきました.
ただ,塾講師として,先取りで内容を教えた記憶はありません.中3英語を受け持った際には,塾長よりもらったプリントを解かせていました.塾合宿には講師のときは毎年,参加しました.そこでも主な担当は中3と高校生でしたが,プリントばかりでした*2
「生徒に応じて何でもあり」は,先取りをしていたし,復習にも時間をとっていた,と言えます.予習型でも復習型でもあった,ということです.1980〜90年代の,自分が関わった範囲においては.


あいにく今は,直接,塾に通う子の実情を知ることはできませんが,全国的な状況がまとめられた統計情報を,Webからアクセスすることができます.具体的には以下の調査結果です.

全体版のPDFファイルをダウンロードし,先頭から読んでいくと,p.42に,塾関連の質問がありました*3

質問事項は「学習塾(家庭教師を含む)で勉強をしていますか」で,帯グラフに現れている選択肢は(説明の都合上,番号を振っておきます)「①:学習塾に通っていない」「②:学校の勉強より進んだ内容や,難しい内容を勉強している」「③:学校の勉強でよく分からなかった内容を勉強している」「④:②,③の両方の内容を勉強している」「⑤:②,③の内容のどちらともいえない」の5つです*4
塾・家庭教師なしの(①を選択した)子は,小学生で半数強,中学生では4割程度です.予習型に対応する②は,小学生の方が少し高くて20%台前半,中学生が20%足らずですが,ここは小学生に「中学受験」が含まれているからと推測します.復習型の③では,小中間の差は,大きくありません.
最も大きな差が見られるのは,④すなわち予習型&復習型のところです.小学生は9%前後なのに対し,中学生は約27%です.塾が先取り(予習型)や復習重視などを標榜しているわけではありませんから,この数値が,生徒らのニーズを反映しているのではないでしょうか.
②と④を合わせて,「予習型を取り入れている」と解釈すれば,中学では,通塾なしを超えています.そんな状況下から,「「これは塾ですでに習っただろうから」と説明を省いてしまう」(Togetterまとめの説明文より)ようなケースが起こり得るのかな,と共感できるものの,まとめに見られる一連のツイートは,公立中学の実態を踏まえたものとは思えません.
上記の質問紙調査とは別に,1990年代,中学数学の授業が,ビデオ録画そして分析されています.その方法や結果などは,"The Teaching Gap: Best Ideas from the World's Teachers for Improving Education in the Classroom"や『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu』により読むことができます.当ブログではドイツは100,日本は50,米国は81で取り上げてきました.なお,アメリカ DePaul 大学 高橋 昭彦 (Akihiko Takahashi)のインタビューの中にも,興味深い内容が含まれています.
まとめに見られる,「もう一度、学校の授業と、家庭での予習復習だけで事足りるという本来のスタイルを、公立中学校に取り戻そうではないか」は,親が子に言う「勉強しなさい」と同様に,説得力の乏しい一方的な指示のように感じました.
講義・演習や研究室を通じて大学生を指導するとともに,家庭では小学生・未就学の子らの将来を期待しつつ案じる者としては,できる限りで現状を把握し,自分の世代と子の世代,聞いた話と統計情報,などの違いに留意しつつ,漸進的改善(『日本の算数・数学教育に学べ』p.106)をキーワードに関わっていくとします.

(最終更新:2016-01-14 晩)

*1:NEW HORIZONの東京書籍が,Q&Aを設けています:https://www.tokyo-shoseki.co.jp/e-mail/qanda/q-js-english/q02-07.htm

*2:同じ方がまとめたhttp://togetter.com/li/924886も読みました.「子供たちを山に連れて行った」のくだりについて,引率者の一人(かといって全責任を負うわけではない)という立場では,「冷たく放り出す」わけにいかないんだよなあという思いを持ちました.

*3:国学力テストと合わせての質問紙調査なので,小6・中3の4月下旬の実施です.日付を含め,詳細はp.2に書かれています.

*4:選択肢別平均正答率がp.146に載っていて,どの科目のテストも「②:学校の勉強より進んだ内容や,難しい内容を勉強している」の値が最も高くなっています.だからといって,予習型が優れていると読むわけにはいきません.できる子たちを集めて,先の(あるいはより高度な)内容を学ばせている可能性もあります.