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「はした」は「端」

大日本図書の教科書『たのしい算数3』の,分数に関する単元で,「はした」ということばを目にし,批判的に取り上げています.画像から,この語が出てくる問題文を書き出しておきます.

1mとあと少しはしたのあるテープがあります。
はしたの長さは,1mのテープを4等分した1つ分の長さと同じです。はしたの長さは何mといえるか,次の図を使ってせつめいしましょう。

記事を通して読んだあと,「はした」は漢字で「端」と書くんだよなと思い浮かび,google:はしたの上位に次のページを見つけて,確認ができました.

もっと古い情報で,はした=端をチェックすることができないかなと考え,高校のときに使用した古語辞典を思い出しました.

全訳古語例解辞典

全訳古語例解辞典

「はした【端】」が,ばっちり載っていました.p.647です.

黒丸2の「数がそろわないこと。はんぱ。」が,分数の話の元になってきそうです.
この辞書をもう少し,見ておきます.「はした」の次の見出し語は「はしたなし【端なし】」でした.その次は「はしたなむ」で漢字なし.「はした」で始まるのは,この辞書では上記3語でした.「端金(はしたがね)」は,出てきませんでした.また「は【端】」はp.638,「はた【端】」はp.649にありましたが,「はした」に関連する語義・用例は見当たりませんでした.
他の情報源というと…広辞苑でしょうか.CASIOの電子辞書XD-N8500に収録の「広辞苑第六版」で,「はした」を検索したら,ここでも「はした【端】」となっていました.用例を除いて取り出すと,「①中途半端であるさま.どちらともつかないさま②引っ込みがつかないさま.どちらにすることもできなくて困るさま③数のそろわないこと.不足なこと.また,あまっていること.はんぱ④雑役に使われる身分の卑しい女中.はしため⑤はしたがね」となっていて,分数の件はこの中の③が関連します.「はした【端】」から始まる見出し語には「はしたいろ【半色・端色】」「はしたがね【端金】」「はしたじょろう【端女郎】」「はしたぜに【端銭】」「はしたせん【端銭】」「はしため【端女】」「はしたもの【端者】」「はしたもの【端物】」「はしたわらわ【端童】」がありました.
漢字辞典だとどうでしょう.『常用字解』を開いたところ,「端」はpp.429-430です.読みは「タン」「はし・は・はた・ただしい・いとぐち」で,「はした」は出てきません.解説を見ると,「耑は頭髪をなびかせている巫祝(神に仕える人)の形」「議場における巫祝の位置は上位の左端に位置している。それで端は「はし、はた」の意味となり、そこから数え始めるので「はじめ、いとぐち」の意味となる。国語では「は」とよみ、端数(はんぱの数)・半端(以下略)」と,字義や現代の使用例が書かれていました.
また先日,書店で小学生向けの辞書を調べる機会があり,いずれにも「はした」「はしたがね」「はしたない」が載っていました.ただし,「はした」に「端」の漢字を割り当てていたのは1社だけだったと記憶します.また小学生向けの漢字辞典は…いえいえ,「端」の字は,小学校の配当外でした.実際,別表 学年別漢字配当表:文部科学省を開いて,この文字を検索しても,見つかりません*1
とりあえず,ネットの情報だけでなく,古語辞典を含む何種類かの辞書にも,算数で使われるという「はした」の意味は,それらに含まれていると思って,よさそうです.
さて,算数での使用(冒頭のページの画像)なのですが,自分が親として,子どもに教えることを想定したとき,真っ先に思い浮かんだ疑問が,「“1mとあと少しはしたのあるテープがあります。”の文から“はした”を単語として認識できるか?」でした.一時的に親から,計算機従事者にチェンジして,この文をmecabコマンドに通し,形態素解析を試みましたが,デフォルトの出力でも,また-N 5オプションで上位5番目までの解析結果を出力させても,「は」「し」「た」と分割されていました.
この文を,「1mと / あと / 少し / はしたの / ある / テープが / あります」と文節に分ける*2には,「はした」という言葉を知っていなければ困難です.これについては,教師や親が噛み砕いて説明するか,辞書を引いて「はした」という言葉があることを学ばせたりするのが,良さそうです.
ここまでは,国語的な話です.算数としては,それまでの量と測定に基づく活動では,測る対象は,そのときに使用する「単位」(例えば鉛筆1本分の長さを基準とした「任意単位」や,1mなどを使った「普遍単位」)のちょうどいくつ分(整数倍)であり,それに満たない量は無視されたり,切り捨てられたりしていました.
しかしそういった「はんぱ」も,数としてきちんと扱えるようにしよう,数量をもっと精密化していこう,ということで導入される概念の1つが,「分数」となります.その中でも,「○等分した1つ分」のような形が導入にはよく,その種の分数は単位分数とも呼ばれたりします.「4等分」は「4で割る」ことにも関連づけられます.
数学的な発展を見ることも可能です.実際,「量」を公理的に定義し,n倍(整数倍)を,ある量からその量への写像に対応づけた上で,逆写像が「n分の1」となり,合成写像を使って,「n分のm」すなわち有理数を構成することができます*3写像を小学校で学ばせる必要性は,もちろん,ありませんが,「×4」や「÷4」,また「×\frac14」といった表記は,小学校の算数でも見られ,その元になってくる話なのでした.
国語の辞書ばかり見てきましたが,「算数の辞典」にも当たっておきます.『算数教育指導用語辞典』に「はした」は,索引になく,小数や分数の解説にも,見つかりませんでした.『算数・数学用語辞典』はp.168に「はした・はんぱ」が載っていて,反物や数の事例を挙げたのち,「1にかぎらず,ある基準を設けたとき,その基準に達しない数は,はんぱ,はしたといいます」で終えていました.

(最終更新:2016-02-29 朝)

*1:あと,鉄道の運賃では,「端数」ではなく「は数」をよく見かけます.google:運賃+は数

*2:小学校1〜2年の教科書では分かち書きされており,3年からは空白が入らなくなることからも,当該教科書では意図的に「はした」を取り入れたと考えられます.

*3:http://projecteuclid.org/DPubS?verb=Display&version=1.0&service=UI&handle=euclid.ojm/1200770204&page=record http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111007/1317923023.実数を得るには,デデキントの切断を用いています.