いきなりですが問題です.式と答えを書きましょう.
a) ひろしくんはまえから5ばんめです。ひろしくんのうしろには3にんいます。子どもは何人ならんでいますか。
b) ひろしくんのまえには5にん,うしろには3にんいます。子どもは何人ならんでいますか。
c) ひろしくんはまえから5ばんめで,うしろから3ばんめです。子どもは何人ならんでいますか。
解答の前に元ネタです.
- 田中博史: わかりやすい言葉に置き換えて問題解決を前進させる力を育てる, 算数授業研究 Vol.103, pp.64-67 (2016).
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2016/02/22
- メディア: 単行本
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最初のページの左肩には「研究発表」とあります.上記の3問について,これらの問題場面を用いた公開授業が,2015年7月19日のオール筑波算数サマーフェスティバルで,1,000人の前で行われたほか,授業は「映像で見る算数授業シリーズ」として2016年2月に刊行されるとのことです.執筆者のファーストネームと「ひろしくん」は作為的な一致であり,別人とみるべきでしょう.
「子どもの並び方」を考える問題です.そうすると,式と答えはそれぞれ,次のように書けば正解のはずです.
a) 式 5+3=8 答え 8人
b) 式 5+1+3=9 答え 9人
c) 式 5+3−1=7 答え 7人
a)とb)は,図にして,前からたし算をしていくと,それぞれの式になります.
c)は,集合Aの要素数をn(A)と書いたとき,n(A∪B)=n(A)+n(B)−n(A∩B)で表される,和集合の性質を用いています…が,小学生向けではありませんね.授業では(p.67),「ひろしくんは前から5番目と言うことはひろしくんの前には4人いる。後ろから3番目だから後ろには2人いる」という,子どもの発言をもとに,4+1+2の式を得ていました.
本文ではa)からc)までそれぞれ,箱で囲まれていました*1.ここで「子どもの並び方」や,子どもたちとの公開授業といった文脈を取り除いてみると,別解の存在に気づきました.
というのは,それぞれの問題で「ひろしくん」が子どもではないと仮定すると,式も答えも変わってくるのです.
こういうときは場合分けして,次のように書けばいいでしょうか.
1. ひろしくんが子どものとき:
a) 式 5+3=8 答え 8人
b) 式 5+1+3=9 答え 9人
c) 式 5+3−1=7 答え 7人
2. ひろしくんが子どもでないとき:
a) 式 5+3−1=7 答え 7人
b) 式 5+3=8 答え 8人
c) 式 (5−1)+(3−1)=6 答え 6人
「ひろしくんが子どもでないとき」の式に,「ひろしくんが子どものとき」の式が流用できます*2.最後の式は,問題文では「5ばんめ」「3ばんめ」と2つとも,順序数で与えられているところを,1ずつひき,集合数にしてから合併しました.
「ひろしくん2012」は
別方面から
「かけ算の順序」関連ではよく,「a×b」の形の式を間違いとし,そこから「b×a」のみが正解だと読み取れる実例を見かけますが,半径11の円の面積で,有効数字の処理まで行い「380」と書いて,間違いとなっている答案は,見たことないですね….
それはそれとして,「円周率を3.14とする」は,少し面白そうに思えたので,コードを書いてみました.具体的には,正n角形で「3.14」(小数第3位以下はすべて0,すなわち3.140000…)に最も近くなるようなnを,試算したところ,n=57と分かりました.
「正n角形で「3.14」」を,具体的に書いておかないといけませんね.円周率は(πとか,3.14とかではなく)「円周の直径に対する割合」によって定義されていることを起点とします.正n角形(n=3, 4, 5, ...)では,「正n角形の周りの長さの,中心から1つの頂点までの距離の2倍に対する割合」に置き換えて考えます*3.中心から1つの頂点までの距離を1に固定し,円周上にn個の点を等間隔にとって結べば,正n角形ができまして,正n角形の周りの長さ(割合も)は,nに関して単調増加となります.
これらの検討に基づいて,以下の検証コードを書きました.
#include <stdio.h> #include <math.h> int main(void) { double n; for (n = 50; n <= 60; n++) { double v = sin(M_PI / n) * n; printf("%g: %g\n", n, v); } return 0; }
手元の環境では「57: 3.14」と表示されます.ただしそのときのvの値から,3.14を引くと,0でない値が得られまして,厳密に3.14ではないことも分かります.
正n角形(n=3, 4, 5, ...)で円周率に類似した値を求めたとき*4,その割合が誤差なく3.14となる正多角形は,存在しないけれど,正57角形がもっとも近い,というのが結論です.
(最終更新:2016-02-29 朝)
*1:箱囲みの下には順に,「→問題場面の数値をそのまま使えば答えが出せるもの(順序数と集合数)」「→問題場面の中にない数値を読み取って解決するもの(集合数と集合数)」「→問題場面の数値にある重なりを図から読み取って解決するもの(順序数と順序数)」と書かれています.以前,うえの子の算数の教科書を見たとき,「順序数のたし算」はa)のタイプばかりだった,という記憶がよみがえってきました.
*2:もちろん,流用できるように,「ひろしくんが子どものとき」のc)の式で,和集合の性質を持ち出したのが,実際のところです.ただし,「ひろしくんが子どもでないとき」のa)では5−1+3=7という式も立てられますが,「ひろしくんが子どものとき」のc)でその式は不自然,という違いもあります.
*3:「中心から1つの頂点までの距離の2倍」は,円の直径に相当しますが,これを「正n角形の最も離れた2点間の距離」とすると,nが奇数のときに都合が悪くなります.
*4:算出において,「円周率を3.14とする」ことはしていません.もしそうだとすると,プログラムコードで使用した組み込み定数M_PIや,数学関数のsinも,変更する必要が出てきます.