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10段のピラミッドで200kg超〜組体操荷重計算やり直し


組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化▽組体操リスク(3)(内田良) - 個人 - Yahoo!ニュースの計算は「嘘」とのこと.
開始10秒あたりからの「私は,10段ピラミッド・7mの一番しんどい所に,何回も,入ったことがあります.私の体格が,良いとは言え,200キロも掛かってたら,潰れます.ましてや中学生,本当に200キロ掛かってたら潰れます」が興味深いところです.
本題の試算に入る前に,この発言と自分の経験を照合しておきます.小学校低学年のときに,たくさんの人が乗って,おそらく200kgを超えたことがあります.自宅で遊んでいて,上に乗った人数ははっきり覚えており,7人です.もちろん,体重を測ったわけではありませんが,私が最年少,ですので他の人は自分より年上で,標準または大柄でしたので,ざっと見積もって*1,200kgオーバーだったという次第です.
でも私は,一時的に苦しくなったけれども,骨折したとか,体がおかしくなったとかは特にありませんでした.自分が畳の上で腹ばいになり,上に腹ばいで乗ってきたのに加えて,みんなが乗ったのが,せいぜい数秒で,すぐ離れてくれたからです.
さて人間ピラミッド---本日は,三角錐型に限定します---ですが,10段・11段になると,おそらく「一番しんどい所」の人には,200kgを超えるときもあれば,超えないときもあるのではないかと想像します.
各人の呼吸や,崩れかけた体勢を戻そうといった動きなどにより,ピラミッド全体の重心*2,そしてそれぞれの人に掛かる荷重が,時間の経過に伴い,緩やかに変化しているわけです.
それと別に,wikipedia:人間ピラミッドに書かれている「クリープ」,言い換えると「外に逃げようとする力」によって,「一番しんどい所」の人への荷重が減ることも,200kgより下がる要素となり得ます.
動画のうち57秒あたりからの「計算の仕方が間違っています」は,当たりとも外れとも言えるように思っています.内田氏の試算も,西山氏の負荷量計算*3も,そして当ブログで公表しているRubyExcelによるアウトプットも,「誰が誰にどれだけの割合の負荷を掛けているか」の積み重ねのみに基づいていています.上に記した時間的変化や外に逃げること,もっと言うと左右の人どうしの影響(良いも悪いも)を,考慮していません.
1分06秒あたりからの「腕のほうに半分,足のほうに半分という計算になっているんじゃないでしょうか.私は,腕に2〜3,足に7〜8掛けるように,足のほうにどんどんどんどん体重を逃がしていくような,指導の仕方をしています」については,チェック漏れですよね.上でリンクした内田氏の記事には「注1 各自が腕に3、足に7の力をかけるものとして計算した。」と明記しており*4,西山氏と当方もこの配分を採用していて,みな同じ試算結果を得ているわけだし…
と思ったところで,腕と足にかける割合が変わると,「一番しんどい所」の荷重がどうなるのかが気になり,Rubyのコードに手を加えました.https://github.com/takehiko/gfに反映しています.*5
計算やり直しにあたっては,動画に合わせるため,10段の三角錐型ピラミッドでの最大荷重を求めました.体重については「一律」と「最適化」の2種類で計算しました.「一律」では,全員1として最大荷重を求め,体重の平均値53.23にその値を掛けてキログラムを算出します.「最適化」というのは,正規分布で体重を生成してから,重い者が下段に来るように配置したもので,実行結果にキログラムと割合が含まれています.
実行結果です.腕に3,足に7で,「一律」は以下のとおり.

$ ruby lib/gf.rb -p 10
151 persons, total_weight=151, max_load=3.85408, max_rate=3.85408 (name=1.4.4, weight=1, load=3.85408)

53.23×3.85408は---ここは別途計算です---205.1526784と出ました.200kgを超えています.
腕に3,足に7で,「最適化」にすると,次のとおりです.

$ ruby lib/gf.rb -p 10 -m 4 -s 12345
151 persons, total_weight=8021.56, max_load=200.378, max_rate=2.90001 (name=1.4.4, weight=69.0956, load=200.378)

こちらもわずかながら,200kgを超えています.乱数の種(12345)を変えれば,総重量や最大荷重も変わります.12340から12349まで種を変えてみたところ,206kgを超えるケースも出ました*6が,その場合でも,自重で割った割合は,3を超えたくらいです.
「腕のほうに半分,足のほうに半分という計算」を,「一律」と「最適化」で行ってみました.

$ ruby lib/gf.rb -p 10 -h 1:1
151 persons, total_weight=151, max_load=4.078, max_rate=4.078 (name=1.3.5, weight=1, load=4.078)
$ ruby lib/gf.rb -p 10 -h 1:1 -m 4 -s 12345
151 persons, total_weight=8021.56, max_load=212.769, max_rate=3.32714 (name=2.3.4, weight=57.0838, load=189.926)

53.23×4.078は,217.07194です.従来試算よりも,荷重が大きくなっていますが,せいぜい数パーセントです.最適化のほうも,荷重(kg),割合(自重の何倍か)ともに,腕に3・足に7のときより,大きく出ました.なお,最適化のほうでは,割合は最下段ではなく「name=2.3.4」,すなわち2段目の者が最大となっています.
「-h 実数値」の形式で実行し,腕にかける割合を下げてみたところ,「一律」では,腕に6.6%(足に残り,以下同じ)のとき,最大荷重が最小となり,その値は172kgでした.「最適化」では,腕に0のときが最小…でもこれは三角錐型ピラミッドじゃないですね.


動画の終わりのほう(2分14秒あたり),「それから,『巨大化』,この言葉をよく,使われていますけども,最近巨大化したのではなくて,もう30年前から,10段ピラミッドも,行われております」の発言については,http://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/6919/1/YW40202022.pdfに書かれている,「たくさんの観衆の前で、初の10段ピラミッドを成功することができた」との整合性が問われるように思います.

(リリース:2016-03-25 未明)

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151018/1445094000で言及した「学校段階別体格測定の結果」によると,9歳(4年)男子の体重の平均が29.97kgとのことです.

*2:安定する人間ピラミッドは,もしかしたら五重塔http://pedpa.co.jp/library/tower.html)のような振動モデルなっているのではないか,あるいは五重塔の制振機構を取り入れたらもっと安定するのではないか,と考えてみたことがあります.

*3:http://www.geocities.jp/ma85003/math/human_pyramid.pdf

*4:ところでこの配分の初出はhttp://www.asahi.com/special/plus/OSK201010220045.htmlで合っていますでしょうか.

*5:具体的な変更箇所は,まず,これまで片手であれば「0.15」,片足であれば「0.35」という定数で,負荷割合を指定していたところを,@default_hand_rate,@default_foot_rateというインスタンス変数に置き換えました.それぞれの変数のデフォルト値は0.15,0.35で,実行時の-hオプションや,GF::Formation.newの引数で,値を設定できます.「-h 3:7」のように,手足の比を指定するか,「-h 0.3」のように,両手の割合(残りは両足)を指定します.引数に応じて@default_hand_rate,@default_foot_rateに割り当てるのは,root.rbで新たに定義したメソッドGF::Formation#setup_hand_footで行います.それと,GF::Helper.sampleの中に,「中学校14男子」の体重の平均値と標準偏差を,コメントとして加えました.

*6:151人で行う10段ピラミッドにおいて最下段は41人であり,残り110人は半分以上なので,平均よりも重い者が2段目以上にも存在します.なお,「最適化」と書いたものの,配置には改善の余地があると考えています.