わさっきhb

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3の段×2の段は,6の段?

いきなりですが問題です.

以下の言葉の式は正しいですか.

  • 3の段+2の段=5の段
  • 3の段×2の段=6の段

「〜の段」とは,九九のことです.さんいちが〜さん,さんにがろく♪と歌って唱えたりする,アレです.

元ネタです.

  • 江橋直治: 2年生「かけ算」“2の段と3の段”の謎, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.107, p.22 (2016).

算数授業研究 Vol. 107

算数授業研究 Vol. 107

問題に至るまでの主な要素を書き出します.2の段と3の段の色塗りをしていると,「2の段と3の段の色が重なる数は,6の段になっている」ことに気づきます.そこから「2の段と3の段を合わせる」ことへと展開していき,「2の段と3の段があわさると,5の段になるの? それとも6の段になるの?」としています.なお,箇条書きにした2つの言葉の式は,原文では2と3の位置が逆になっています.
といったところで解答です.「3の段+2の段=5の段」は,次のようなアレイ図で,成立することが確かめられます.

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○○○○○○○○○
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見て分かるとおり,●が「3の段」を,○が「2の段」を表します.それぞれの行に9個ずつ,丸を配置しましたが,減らせば,かける数の値を変えることができます.そして●と○を区別しなければ,「5の段」になっています.
次は「3の段×2の段=6の段」です.例えばこうでしょうか.

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●●

いえいえ,これは3×2または2×3です.積はもちろん6ですが,6の段ではありません.●をおはじきとみて,積み重ねても,なんだか…
そこで段どうしのかけ算からいったん離れ,次のように丸を並べてみます.

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○○○○○○○○○
○○○○○○○○○
○○○○○○○○○

これは「3の段+3の段=6の段」です.さらに次のようにします.

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これも「3の段+3の段=6の段」ですが,「3の段が2つ」と見ることもできます.
すると「3の段×2=6の段」と表せます.「3の段×2の段=6の段」は,●の並びでうまく表せないので,代わりに「3の段×2=6の段」とすればいい,というのが答えとなります.
そうすると,「2の段×3=6の段」というのも考えることができて,並び方は以下のようになります.

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従来からも,アレイを合併した場面に対しさまざまな式を見つけることは,行われてきました(例えばhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/04/page4_08.html).今回は丸などの個数のかけ算ではなく「3の段×2=6の段」と,段のかけ算になっているのが,面白いところです.
教科書に,こんなかけ算の式は掲載されないにしても,この式は『小学校学習指導要領解説算数編』に書かれている「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる」と整合している点を,ここで確認したいと思います.かけられる「段」と積の「段」が,同種の大きさになっています.
なのですがこの話,上記の授業報告がオリジナルとは言えません.以下の文献にも,「6の段の九九は、2の段の九九の3倍」「3の段の九九を2倍すればよい(略)2の段の九九を3倍すればよい」といった考えや,方眼を使った図の例が見られます.


Q: 「2×3の段=6の段」は,正しいですか?
A: 左辺は,「(2×3)の段」「2×(3の段)」「2の段×3」のいずれを意味するのか,曖昧ですね.本日取り上げた各文献にも,見かけませんでしたので,実際に授業で書いて(あなたが教師でなければ,やってくれる人を見つけて)みてはいかがでしょうか.

(最終更新:2017-02-11 未明)