いきなりですが問題です.
以下の言葉の式は正しいですか.
- 3の段+2の段=5の段
- 3の段×2の段=6の段
「〜の段」とは,九九のことです.さんいちが〜さん,さんにがろく♪と歌って唱えたりする,アレです.
元ネタです.
- 江橋直治: 2年生「かけ算」“2の段と3の段”の謎, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.107, p.22 (2016).
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2016/11/09
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といったところで解答です.「3の段+2の段=5の段」は,次のようなアレイ図で,成立することが確かめられます.
●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○
見て分かるとおり,●が「3の段」を,○が「2の段」を表します.それぞれの行に9個ずつ,丸を配置しましたが,減らせば,かける数の値を変えることができます.そして●と○を区別しなければ,「5の段」になっています.
次は「3の段×2の段=6の段」です.例えばこうでしょうか.
●● ●● ●●
いえいえ,これは3×2または2×3です.積はもちろん6ですが,6の段ではありません.●をおはじきとみて,積み重ねても,なんだか…
そこで段どうしのかけ算からいったん離れ,次のように丸を並べてみます.
●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○
これは「3の段+3の段=6の段」です.さらに次のようにします.
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これも「3の段+3の段=6の段」ですが,「3の段が2つ」と見ることもできます.
すると「3の段×2=6の段」と表せます.「3の段×2の段=6の段」は,●の並びでうまく表せないので,代わりに「3の段×2=6の段」とすればいい,というのが答えとなります.
そうすると,「2の段×3=6の段」というのも考えることができて,並び方は以下のようになります.
●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●● ●●●●●●●●●
従来からも,アレイを合併した場面に対しさまざまな式を見つけることは,行われてきました(例えばhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/04/page4_08.html).今回は丸などの個数のかけ算ではなく「3の段×2=6の段」と,段のかけ算になっているのが,面白いところです.
教科書に,こんなかけ算の式は掲載されないにしても,この式は『小学校学習指導要領解説算数編』に書かれている「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる」と整合している点を,ここで確認したいと思います.かけられる「段」と積の「段」が,同種の大きさになっています.
なのですがこの話,上記の授業報告がオリジナルとは言えません.以下の文献にも,「6の段の九九は、2の段の九九の3倍」「3の段の九九を2倍すればよい(略)2の段の九九を3倍すればよい」といった考えや,方眼を使った図の例が見られます.
- 小池嘉志: 算数・数学の授業における練り上げの重要性とその在り方に関する一考察,日本科学教育学会研究会研究報告, Vol.29, No.9, pp.59-64 (2015). http://www.jsse.jp/~kenkyu/201429/20152909_59-64.pdf
- 小池嘉志: ヴィゴツキーの発達理論から見た算数・数学の授業における練り上げの重要性-小学校2年生かけ算の単元の実践の考察を通して-, 教科開発学論集, 愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教育学研究科 共同教科開発学専攻, No.4, pp.101-110 (2016). http://hdl.handle.net/10424/6632
Q: 「2×3の段=6の段」は,正しいですか?
A: 左辺は,「(2×3)の段」「2×(3の段)」「2の段×3」のいずれを意味するのか,曖昧ですね.本日取り上げた各文献にも,見かけませんでしたので,実際に授業で書いて(あなたが教師でなければ,やってくれる人を見つけて)みてはいかがでしょうか.
(最終更新:2017-02-11 未明)