その1
夕食にて.
「おさかなおいしいなぁ〜」
「おさかなおいしいなぁ」
「ママ,おやさいのこしていい?」
「ままおやさいのこしていい?」
「ダメです! それからさきの子ちゃんは,マネばっかりしない!」
「ダメですそれからさきの(以下略)」
「ふむぅ,さきの子は(…誰かの言うことをマネしとんねんな)」
「ふむうさきのこは…」
「あ,いや」
「あいや」
「マネなあ」
「まねなあ」
「お前アホか」
「おまえあほか」
「あ,ちゃうねん.そこはな」
「あちゃうねんそ」
「(さきの子の口の前に手をやって)聞いてな.有名なギャグがあってやな.2人おって,一人目が言うたんを,もう一人がずっと,マネすんねんけど,最後はな,『お前アホか』『お前よりマシじゃ』ってやりとりすんねん.わかるか?」
「(うーん,笑えやんかったか)」
「お,テーブルの向こうで,うえの子が伏せて激しく笑ろとる」
その2
夕食後のPC部屋に,パパ・うえの子・あとの子.
お絵描きをしていたうえの子が,顔を見上げて…
「パパ,ばんごはんのとき,おも白いこと言ってたやん」
「えっと…『お前アホか』『お前よりマシじゃ』か?」
「(笑いながら)それそれ!」
「あれなあ,吉本新喜劇のギャグやねん.検索で,出るかな…出た」
「学校で,やってみていい?」
「え!? 分かってくれる友達,おるんかなあ」
「パパ,やってみよっ!」
「う〜ん,パパはやめとくゎ」
「じゃあ,あとの子ちゃん,来て!」
「(うわ,けったいな絡みに遭うたなあ.俺,仕事でけへんし)」
「なにおねえちゃん?」
「これ見て,マネするんやで」
「(漢字,読めるか?)」
「『それは言わんでええねん』」
「? …『それはいわんでええねん』」
「『いや,マネすな』」
「 『いや,マネすな』」
「『言うなって』」
「 『いうなって』」
「『お前アホか!』」
「『おまえアホか!』」
「ちゃうんよ,あとの子ちゃん,そこは『お前よりマシや!』やねん」
「…あれ,パパ,なんで顔を下にしてわらってんの!?」
野暮な解説
「お前アホか!」の件,観客・テレビ視聴者としては,オウム返しのやりとりがどこまで続くのかを,聴くことになります.
ずっとマネしている中で,大阪弁としてポピュラーな「お前アホか!」が持ち出されます.「お前は(こっちが言ったのをマネすることしかできない)低能か?」が,直接的な意味ですが,「お前は何を言っているのだ? (What do you mean?)」という意図でも使われます.
それに対して,「お前アホか!」ではなく「お前よりマシや!」と返すことで,「お前よりは物事をよく分かってるんだ」を意味し,1人目が発した「お前アホか!」の持つ,2つの問いの答えになっています.
しかもオウム返しのやりとりが途切れることで,突如,緊張もなくなり,そこで笑いを迎えるわけなのです.
とはいえ,さきの子・あとの子が「おまえよりマシや」を言えず「おまえアホか」を返すのは,低能うんぬんではなく,吉本新喜劇の影響を受けて育った自分としては,真似していって「お前アホか!」に対しては「お前よりマシや!」しかないと思っているところに,そのまま「おまえアホか」と返るのが新鮮だった,という面もあります.