いきなりですが問題です.次の図形の面積を表す,かけ算の式を,できるだけたくさん作ってください.なお,Aはaの2倍,Bはbの2倍の長さです.
ちょっとした「縛り」として,「式にたし算・ひき算・わり算は使用しない」「乗算記号は省略しない」を入れることにします.後者の縛りは,2aや2b,3aや3bなどを使用しないことを意味します.
とはいえ式のバリエーションを増やしたいので,長方形の面積を求める式は,縦×横でも横×縦でもよいとしましょう.
そうすると,もっとも素直な発想は,次のように補助線を引くことです.
縦の長さがa,横の長さがbの長方形が3つできますので,そこからa×b×3とb×a×3が得られます.かける順序を明確にすると,カッコを使って(a×b)×3と(b×a)×3と書いてもよいはずです.以下では「の長さ」を省略します.
もう少し,補助線を入れてみます.
縦がA,横がBの長方形から,右上部分の,縦がa,横がbの長方形を取り除けばいいので,式はA×B−a×bだ…ですがこれは,「式にひき算は使用しない」に反します.
代わりに,小学2〜3年で学習する「分数の意味」を考えてみます.そうすると,求めたい図形の大きさは,縦がA,横がBの長方形のだと言えます.となると(立式は6年ですが),A×B×とB×A×が,図形の面積を求めるかけ算の式として成立します.
図形を切って,一部を移動させることにしましょう.こうです.
作り替えた横長の長方形において,縦はaです.横は,B+b=b+b+bとなり,b×3とすれば,かけ算で表せます.ということで面積は,a×(b×3)と(b×3)×aです.カッコを取り除いても答えは変わらないので,a×b×3とb×3×aも認めましょう.
別の移動の仕方も,考えられます.
やや縦長の青塗り長方形において,縦はA+a=a+a+a=a×3です.横はbです.面積を求める式は,(a×3)×bとb×(a×3),そしてa×3×bとb×a×3です.
ここまでで得られた式を整理すると,次のようになります.
- 「a」で始まる式(「(a」で始まる式を含む)
- a×3×b
- a×b×3
- a×(b×3)
- (a×3)×b
- (a×b)×3
- 「b」で始まる式(「(b」で始まる式を含む)
- b×3×a
- b×a×3
- b×(a×3)
- (b×3)×a
- (b×a)×3
- 「A」または「B」で始まる式
- A×B×
- B×A×
式を整理する前では,全部で14個のかけ算の式を作ったのですが,整理すると12個に減っています.「a×b×3」と「b×a×3」が,2度ずつ出現していたからです.
「A」や「B」を含む式は,他に作ることができそうですが,とりあえずa,b,A,Bを使った立式はここまでとします.
本日の出題の元ネタです.
団体名(志の算数教育研究会)の最初の漢字は「し」ではなく「こころざし」と読みます.ただし奥付の直前の執筆者一覧には「志算研」という表記もあり,こちらは「しさんけん」ですね(ホームページはhttps://shisanken.jimdo.com/ですし).
さて,この本のp.106では「L字型の面積を求めよう!」と題して,冒頭と同じような図形を提示しています.ただし,長さは文字ではなく,a=m,b=m,a=m,b=mとなっています.6年の分数のかけ算でも,交換法則・結合法則・分配法則などの計算の決まりが使えるのを学ぶことが意図された授業です.
式にはやが出まして,子どもの発言だと「だって,かけ算は順番を変えても答えは変わらない(交換法則)からです。」,板書画像上では「順番変えても答えは同じ ⇒ かけ算だもん!」が,ともにp.108より読み取れます.
では,「またはa」「またはb」「3」という,3つの数をどの順番で書いてもいいのかというと,そうではなく,具体的には「3×」で始まるような式は,同書の授業展開には(上で整理した12個の式の中にも)出てきません.もとの図形で陽に現れない「3」は,面積または長さを3倍にするという,かける数を意味するから,と言えます.
授業内容や実施学年が異なるところでは,「順番はちがっても かけ算の数が同じなら 答えも同じ」の板書がp.69に見られます.これは,九九の表のたすき掛けで積が等しくなる(12×20=16×15あるいは(3×4)×(4×5)=(4×4)×(3×5))という授業です.
2年のかけ算では順序・順番の語は出てこず,代わりに「かけ算=かけ算九九という偏った認識を脱し,「1つ分の数」と「いくつ分」を意識して,かけ算の意味を押さえることをねらった授業です。」という文が,p.30で,授業の概要を記した最後の段落となっています.