「検索は,こうやってすることを言うんですよと,今さら説明する必要はありませんよね.ブラウザの右上の検索窓に打ち込んで,Enterキーを押せば,欲しい情報が簡単に手に入ります.スマートフォンの,音声を使った検索も,製品やテレビコマーシャルを通じて,ずいぶん普及しました.
ともあれ,大学の授業だからこそ,ちょっと考えてもらいたいこと,知っておいてほしいことがあります.スライドの中央の図をご覧ください」
「我々が普段している『検索』という行為を,検索する人の後ろから見て,モデル化すると,このような図で表せます.
左から見ます.まず,これこれこんな情報が欲しいと思いながら,問い合わせをします.
それで,結果が表示されます.上から下へと並んだ中で,タイトルや,ページの一部などを見まして,一つを選びます.
そうすると,そのページに移って,詳細を知ることができます.
ですが,それでおしまいとは限りません.一つのページを見て,不満に感じたら,前に戻ります.結果表示のページです.そこから,他のページを見ることもありますし,言葉を変えて,問い合わせをやり直すこともあります.
そうして行きつ戻りつして,一つの欲しい情報にたどり着くか,いくつか情報を知ったので,まあいいだろうとなれば,検索は終了です.
この図を使って,一つ,質問をします.『検索』とは,この中の,どこなのでしょうか?」
「行きつ戻りつするという,この図,全体を,『検索』ととらえることができます.」
「別のとらえ方もできます.『問い合わせ』こそが検索だ,とする立場です.」
「その場合,結果表示や詳細閲覧は,一つの検索を終えた後の行動となります.
また別の解釈もあります.ここまでは,人間の行為として,『検索』とはどこにあたるのかを見てきましたが,コンピュータが行うこと,すなわち情報処理としての『検索』は,どこだというと,この部分なのです.」
「言葉にすると,こうです.問い合わせのための情報を受け取って,処理を行うコンピュータの側で持っている情報と照合したり,計算したりして,結果表示のための情報を作ること,これこそが『検索』だというわけです.残りの要素は,利用者の行動であったり,インターネットの通信や,ブラウザでの表示や動作が担うべきだとして,実際戻るのはブラウザの機能ですからね,『検索』の範囲外とします.
3種類,『検索』の対象をお見せしましたが,このうちの一つだけが正解,残りは間違いと,いうものではありません.試験で問うわけにもいきません.『検索』を広くとらえるか狭くとらえるか,人間の行為で考えるか計算機処理として考えるかで,さまざまに解釈できるのです.
合わせて,いくつか用語を知っておいてください.『検索』を表す英単語はsearchで,名詞でも動詞でも使えます.ですが『情報検索』となると,information searchではなく,information retrievalと書くのが一般的です.retrievalは名詞で,その動詞形はretrieveと綴りまして,『取り戻す』というのが基本的な意味です.『あの情報,どこかにあったはずなんだけどな…検索して…あったあったこれだ』とするのがまさに,情報のretrievalとなるのです.
問い合わせの際に与える語句を,『検索語』と言います.これも,英語を知っておきましょう…search termと書きます.termは『用語』を意味し,technical termと書けばこれは『専門用語』のことです.
図の真ん中,結果表示についてですが,ブラウザやスマートフォンで表示を見る際には,ページのタイトルやURLに続けて,中身の一部を見ることも多いと思います.検索語が強調表示されていたりします.あれのことを『スニペット』(snippet)と言います.
情報処理としての検索を,きわめて狭い範囲としましたが,範囲の左と右の端に,着目します.すなわち,どんな風に問い合わせ画面を表示させ,検索語の入力だけでなく,検索語以外の条件なんかも指定できるようにして,それから結果をどのように提示するか…といったことを引っくるめて,『ユーザインタフェース』と言い,user interfaceの頭文字をとって『UI』とよく書かれます.
行きつ戻りつの操作について,利用者の行為の観点で,全体を囲みましたが,その行為を,システムの側からサポートすることも,大事になってきます.効率よく,欲しい情報が手に入れられるような検索システムを作ろう(または作った)というのなら,それは利用者の体験を支援するものとなります.
利用者の体験,というのを英語にしたuser experienceをもとに,『UX』という略語,そしてユーザインタフェースと合わせた『UI/UX』というのは,情報検索に限らず,良いサービスを提供するためのどうすればいいのかを考える際のキーワードとなります.
検索にまつわる用語として,知ってもらいたいのは,あともう少しです.行きつ戻りつと言ってきましたが,1回問い合わせて情報をもらってそれで検索は終了,というのではなく,結果表示や詳細閲覧で得た情報を見て,元のステップに戻りながら,利用者が検索を行うというのは,『インタラクション』と呼ばれます.英語ではinteractionと綴ります.これをinterとactionに分けてみると,利用者のアクションと計算機のアクション,それらが相互(inter-)に機能するというわけです.形容詞形はinteractiveで,『インタラクティブ情報検索』に関する研究も,盛んに行われています」
なにこれ
昨日,「災害情報学」という冬休み集中講義が始まりました.学部の3年後期,どのメジャーにも属さない,専門選択科目です.
オムニバス形式の授業です.私も1コマを担当することになりまして,15回中の第2回,「ネット上の情報収集技術」をテーマに,スライドを用意し,しゃべってきました.
上記は「検索の第一歩」と題するスライドの一部です.「スニペット」を含む段落以降は,話そうと用意していましたが,あいにく時間がとれませんでした.
以前に書いたこと
(略)インタラクティブ情報検索システムの評価: ユーザの視点を取り入れる手法
- 作者: 上保秀夫,神門典子,阿部明典,加藤恒昭
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2013/04/18
- メディア: 単行本
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インタラクティブ情報検索とは,(古典的な)情報検索に,人間の行動を加えたものと言えます.序章(p.2)には,「古典的なIR評価はこのシステムは適合文書を検索できるか,という問いを投げかけるが,IIR評価は人々はこのシステムを使って適合文書を見つけることができるか,という問いを投げかける.」とあります.ここで,IR = Information Retrieval = 情報検索,IIR = Interactive Information Retrieval = インタラクティブ情報検索,です. 被験者ではなく実験参加者と書こう