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説得力のある論を構成し,他者の考えを批評する?

  • 高橋昭彦: 算数教育で育てる表現力, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.28-29 (2018).

 タイトルの前に「アメリカにおける表現力育成の考え方」と書かれています.著者の所属がDePaul大学*1ということもあり,アメリカの状況を前半で述べています.後半には「先日,東京で3桁どうしの足し算の授業を参観させて頂いた。」から始まってその授業では「論理的に筋道立った考え」が得られていないと展開し,結語として,算数における表現力を培うための2項目を提案しています.
 アメリカの状況の説明の中で,「算数数学で身に付けさせたい力」として8項目を挙げています.そのうちの3番目,「説得力のある論を構成し,他者の考えを批評する」を見て,少し引っかかりました.
 引っかかったのを,言葉にすると,「他者の考えを批評する」ではなく「他の考え(や論)を批評する」ではないか,となります.自分の頭の中で,1つの問題に対して複数の解き方が思い浮かんだときに,どれを採用する(残りを却下する)かという価値判断も,批評に含まれているのではないかと,思ったのでした.
 記事末尾のURLをもとに,8項目が書かれているページを見つけました.

  • http://www.corestandards.org/Math/Practice/(Standards for Mathematical Practice | Common Core State Standards Initiative,デッドリンク

 3番目の項目(CCSS.Math.Practice.MP3)は,"Construct viable arguments and critique the reasoning of others."となっていました.最後の単語のothersが,他人・他者というわけですが,other argumentsという意味にもなりそうに感じました.
 解説も書かれていたので,文ごとに分け,自分なりに訳してみました.

Mathematically proficient students understand and use stated assumptions, definitions, and previously established results in constructing arguments. (数学ができる生徒は,論を構成するにあたり,述べられた仮定や定義,そしてそれより前に得られた結果を理解し使用する.)
They make conjectures and build a logical progression of statements to explore the truth of their conjectures. (予想を立て,論理的な説明を組み立てて,その予想が正しいかどうかを検証する.)
They are able to analyze situations by breaking them into cases, and can recognize and use counterexamples. (状況をより細かな事例に分けることで,その状況を分析することができ,反例についても認識し使用することができる.)
They justify their conclusions, communicate them to others, and respond to the arguments of others.(自分の出した結論の正当性を述べ,それを他者に伝えるとともに,他者の論に反応する.)
They reason inductively about data, making plausible arguments that take into account the context from which the data arose. (データに対して帰納的に推論し,そのデータより生じるコンテキストを考慮に入れた妥当な論をつくる.)
Mathematically proficient students are also able to compare the effectiveness of two plausible arguments, distinguish correct logic or reasoning from that which is flawed, and—if there is a flaw in an argument—explain what it is. (数学ができる生徒はまた,2つのもっともらしい論を比較しながら,正しい論理と誤った推論とを区別し,論に誤りがある場合には,どのような誤りなのかを説明することができる.)
Elementary students can construct arguments using concrete referents such as objects, drawings, diagrams, and actions.(小学生は,対象物,絵や図を描くこと,そして行動といった,具体的な指示対象を用いて,論を構成することができる.)
Such arguments can make sense and be correct, even though they are not generalized or made formal until later grades.(そういった論は,一般化がなされておらず形式化を行うのは上の学年となることがあっても,筋が通っており正しいようにできる.)
Later, students learn to determine domains to which an argument applies. (のちに,論の適用対象を決定できるようになる.)
Students at all grades can listen or read the arguments of others, decide whether they make sense, and ask useful questions to clarify or improve the arguments.(どの学年の生徒も他者の論を聞き読むことができ,筋が通っているかを判断するとともに,その論を明確にしたり改善したりするのに有益な質問をすることができる.)

 このように訳してみまして,"critique the reasoning of others"のothersが「他者」か「他者の論」かについての答えが出せそうです.解説文に出現するothersにはいずれも前置詞が置かれ,「他者」という意味であることから,結局のところ「他者の論」ではなく「他者」と考えるのが良い,となります.
 個人的に算数・数学教育の文章を追いかけるのは,「かけ算の順序」の件もありますが,それとは別に,読んだ内容,そしてそこから得られるこの分野の知見を,自分の指導(大学教育・情報教育とくにプログラミング教育)に使えるのではないかと考えているからです.今回の文章をプログラミングに転用するなら,できるプログラマ(proficient programmers)は「論理的な(1行1行,なぜそう書いたのかが明確な)コードを書くことができる」「誤ったロジックがある場合にはなぜおかしいのかを説明(書いた人に質問)できる」「図を描いたり,数式を併用したりしながら,コードに内在するアイデアを説明できる」となるのでしょうか.