わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

他大学からの学生を修士で受け入れ,2年半で修了

 昔語りをしたいと思います.タイトルに書いたとおり,修士(博士前期)課程を2年半で終えた学生を指導した話です.
 当時の研究室は,教授を筆頭に複数の教員と,多数の学生で構成しており,各学生には実質的な指導教員がいました.形式的な,あるいは書類上の指導教員は,教授です*1修士論文卒業論文のいずれも,謝辞は教授の名前を挙げることから始めるようにと,指示していたものです.
 他大学から受験をして合格し,入学してきた学生を,教授が受け入れ,実質的な指導教員を,自分が受け持つことになりました.
 M1の1回目の大ゼミ発表では,卒業研究の紹介をしてもらいましたが,スライドを見ると,落ち着かないものでした.成果を偽造するわけにはいかないけれど,新規性・有用性のアピールはしっかりしておこうと考えながら,指導しました.ともあれ,学部の研究のことはそこまでで,こちらで用意したテーマで,修士にふさわしい活動を,やってもらいました.
 「こちらで用意したテーマ」について,理論や,学会発表の見通しについては,完全に自分が掌握していました.この学生には,提案する理論的な枠組みを,具体的ないくつかに適用しながら,その有用性を検証してもらうことにしました.
 ソフトウェア開発は,させていません.卒業研究の内容や配属時点のプログラミングスキルと(本人の)関心も,さることながら,卒研生が,そのテーマに関する支援システムを作り,実装と評価で,卒業研究にしていったのでした.
 当初から不安を抱えた修士学生ですが,半期に1回の大ゼミ発表で,苦労をすることになりました.発表予定日に大学に来ることができず,別の日時と教室を設定して,先生方を集め,発表してもらったこともありました.
 M2になると,欠席がちでした.記録を見直すと,それまでの研究成果を英語にし(自分が筆頭著者として),国際会議に投稿した際に,この学生も貢献していたと判断して,共著者に入れていました.しかし本人による発表は,海外どころか国内でも,できていませんでした.修士研究の実質的な成果が,本人にとっても,指導する自分から見ても,得られていない状態でした.
 結局,修士論文は提出できませんでした.講義と大ゼミを含め,博士前期課程の修了に必要な単位は,すべて修得済みでした.
 発表会と最終版の提出,修了・卒業する学生の研究室内の撤収が終わった3月のある日,この学生を呼び寄せました.退学・休学せず,次年度に修士論文を出したいという意思を確認したところで,先に書いた,国際会議の予稿を手渡し,これを読んで,半年あるいは1年で何ができるか,考えましょうと伝えました.
 2週間後に顔を合わせて話を聞きました.原稿には単語の意味の鉛筆書きのほか,気になった箇所にマークが施されており,報告してくれた問題意識は,もっともな内容でした---その報告がなく,「はい,何かやります」だったら,指導の仕方も異なっていたかもしれません.
 やる気が出てきました.大ゼミも小ゼミもなし,週1回の個別指導で進捗を確認しながら,一つ,また一つと,形にしていきました.ちょうどいい時期の学会発表のほか,学内で9月修了をする*2ための手続きを把握して,本人に伝えました.修士論文発表会と別に,論文提出の「見極め」としての大ゼミ発表も,支障なく実施することができました.
 9月(前期修了)の学位記授与式のあと,こちらに挨拶に来てから,この学生とは音信不通ですが…
 自分がメンテナンスしている研究業績のページで,その修了生の名前を検索すると,題目や発表した学会を見つけることができ,学会サイトでオープンアクセスになった予稿がダウンロードできました.著者はこの修了生と自分の2名だけ.教授を入れなかったのも,今思えば,自分なりの覚悟だったわけです.
 「修士論文を提出できなかった」ときから,修士の学位を得るまでの間は,本人にとっても,自分にとっても,何物にも代えがたい日々でした.


 冒頭の記事について,以下のとおり,はてブのコメントを記しました.

指導教員は擁護者(審査時)であり仲間(研究実施時)、という文化の中だったら結果が変わっていたかも

 このコメント単体では,他のいくつかのコメントと同様に,修士論文不合格そして留年確定に至るまでの,ご本人や指導体制に対するネガティブ評価の表明と読むことができます.
 修士2年半となった学生を受け入れるより前から,「指導教員は擁護者」という考え方はありました.助手時代に,自分のボスとは異なる教授から---いや,具体的な話を書くのは,差し控えたいと思います.

 解決すべき問題に対して,能力や,費やすことのできる時間などの違いに注意しながらも,共同で実施すればいいのだ,その意味で学生も教員も仲間なのだというのを,自分なりに体感できた機会の一つが,本日紹介した学生を指導したときだったのでした.


 補足です.「大ゼミ」は「おおぜみ」と言い,教員とM1・M2の学生が週1回教室に集まり,学生が順番に研究の進捗を発表して質疑応答をするというものです.「小ゼミ」は「こぜみ」で,研究室での研究指導を言います.学年を問わない,研究室内の集まり(ゼミ)と兼ねるのが基本です.所属の研究科では,大ゼミ・小ゼミに対応した科目があり,合格すれば博士前期課程修了のための単位が得られます.

*1:教授が実質的な指導教員という学生も,いました.

*2:就職について,M2はじめに得た内定は,辞退を本人が会社に伝え,修了の目処が立つまでは活動をしませんでした.