「ふーん…」
「パパ,どしたの?」
「すえの子よ,今お前が冷蔵庫から持ってきたの,中身,水よな?」
「そぉやで.ペットボトルに入れて,ひやしててんけど,のむ?」
「いや,ほしいわけではないねん」
「…」
「昔なあ,あっちのおばあちゃんが,ペットボトルに水を入れてたのを,思い出してな」
「いつ? きょ年?」
「いやいや,結婚するより前の話や」
「どんなんどんなん?」
「あっちのおあばちゃんがよく,金剛山へ山登りに行ってたのは,知ってるよな?」
「うん,しってる!」
「んでや.あるときに,500mLのアクエリアスのペットボトルにな,山の水を汲(く)んで,帰ってきたんや」
「テーブルの上にあったから,飲んでええかって聞いたら,ええでって言うから,飲んだらな…」
「ほんのり甘いねん」
ここでテーブルの向こうのママが,軽く笑いまして,遅れて,さきの子とあとの子が大はしゃぎしました.
「『ほんのり甘いなあ』って言うたらな,あっちのおばあちゃんな…」
「…」
「『山の水の味は,ひと味違うやろ!』やで」
さきの子とあとの子は,ふたたび大はしゃぎです.
「はしゃぐんは,ええけど,何がおもろいか,わかってんのか?」
「あっちのおばあちゃんが,山の水って言って,アクエリくれたんでしょ?」
「ちゃうちゃう! アクエリ飲んだあとに,濯(ゆす)がんと,山の水を入れおったんや!」