わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

おすすめの季節を,英語で書けますか?

 いきなりですが問題です.

ニュージーランド人の友人に,メールで日本のおすすめの季節について尋ねられました。あなたはそのメールに返信します。4つの季節のうち,あなたのおすすめの季節とその理由を25語以上の英語で書きなさい。

という出題に対し,あなたは採点者で,以下のそれぞれが答案だったら,正解にしますか?

I think spring is the best season for you. In Japan, you can see cherry blossoms in the park in April. They are very beautiful. How about going to see them together?

My favorite season is summer. Summer is the best season. I can swim in the sea with my family and I can eat an ice cream then.

How about coming Japan in fall? The color of leafs are very beautiful. Let's see it. My father will take you to the mountain by car.

I like the best season summer. Summer is swimming sea and eat kakigori. I visit sea with you. I like food kakigori. You can very enjoy.

I recomend you is Spring. Because


 元ネタです.

 児童生徒らに解答させるテストです.ただし毎年4月に実施される調査と異なり,数年おきに実施の抽出調査で,重複テスト分冊法を採用し,問題は原則非公開です.ただし,「例として公表した問題については、次回以降の調査においては除外することとする。」と,報告書のp.5に書かれており,冒頭の出題はその一つです.
 採点について,解答類型と反応率が,p.46で表になっています.正答の条件は,①おすすめの季節を1つ選んで書いている,②選んだ理由等について書いている,③25語以上の英語で書いている,で,これらの丸囲み数字を使用して,以下のように類型番号と反応率(その類型に当てはまる解答の割合)を示しています.

  • 解答類型1:条件①,②,③を満たし,正確な英語(語や文法事項等の誤りがない)で解答しているもの.◎の正解で,0.9%
  • 解答類型2:条件①,②,③を満たし,おおむね正確な英語(コミュニケーションに支障をきたすような語や文法事項等の誤りがない)で解答しているもの.○の正解で,33.7%
  • 解答類型3,6,7,9は不正解でそれぞれ1%未満
  • 解答類型4:条件①,②,③を満たして解答しているが,コミュニケーションに支障をきたすような語や文法事項等の誤りがあるもの.不正解で,11.5%
  • 解答類型5:条件①,③を満たし,条件②を満たさないで解答しているもの.不正解で,14.6%
  • 解答類型8:条件③を満たさないで解答しているもの.不正解で,21.9%
  • 解答類型0:無解答.不正解で,16.1%

 冒頭の5つの英文のうち,1番目(I think ...)は解答類型1,3番目(How about ...)は解答類型3の正答例でして,いずれも正解となります.後者では"coming Japan","leafs","it"に下線が引かれていますが,それぞれ"coming to Japan","leaves","them"がより適切な表記と思われます.また下線はありませんが,"are"ではなく"is"ですし*1,"the mountain"について書き手と読み手がともに共有する情報ではないはずなので,"the most scenic mountain"とするのが良いようにも見えます.
 残りの答案ですが…
 "My favorite season is summer."から始まる答案は,報告書の最終ページによると,解答類型5の解答例です.ということで不正解です.英文のあとには,「このように解答した生徒は,選んだ季節について書くことはできているが,理由について自分の好みなどを伝えるのみで,ニュージーランド人の友人におすすめするという目的を踏まえ,客観的に表現することができていないと考えられる。」という分析がなされています.
 「目的を踏まえ,表現することができていない」で,連想する文章があります.2009年に取り上げていました.

"All right, then tomorrow evening, I'd like to take you to a certain restaurant, whether you like it or not."

まず英語表現の語学的問題はwhether you like it or notにある.(略)上掲のA氏の挨拶はB教授夫妻の好みも聞かずに一方的に,強制的にあるレストランへ連れて行くという言い方になっている.(略)A氏は自分で勝手に決めておいたレストランに案内することにし,それが相手の気に入るかどうかを表明すればそれで意が通じると思い(以下略)

 とはいえ,「何もアウトプットできない」よりは,「間違っていてもアウトプットしている」ほうがよいわけですから,"My favorite season is summer."から始まる答案には,部分点をつけたくなります.
 しかしながら今回の採点では,詳細は書かれていませんが,解答類型の10個の番号,あるいは◎○△×の4段階程度に,答案を振り分けて,統計分析しているようには見えません.推測するに,「正解」と「不正解」の2段階です.
 残りについて,"I like"から始まる答案は解答類型4,"Because"で終わっているものは解答類型8の例文で,いずれも誤答扱いです."My favorite ..."と"I like ..."のどちらがより良い答案なのか(部分点を多めに与えられるか)を検討することなく,ともに「不正解」ということです.


 数年おきに実施の「経年変化分析調査」が定着するとなると,毎年の悉皆調査のほうの「全国学力・学習状況調査(本件調査)」で期待されることについて,見直しが必要となるように思いました.本件調査を,抽出調査や重複テスト分冊法や,項目反応理論を採用しないことを方針とした全国的なテストとして位置づければ,テスト理論の研究者・実践家から文句が付けられなくなるのかもしれません.

*1:DeepL翻訳で「葉っぱの色はとても美しい」と打ち込んでみると,「The color of the leaves is very beautiful.」が返ってきました.