わさっきhb

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大規模サービス運営における階層モデル

先日,10年以上にわたって,外部に公開されているサービスを運営している方の講演を,学内で聞く機会がありました.
個々の出来事や,数年おきのハードウェア更改,またクラウドへの移行なども,興味深かったのですが,メモしていないのでほとんど覚えていません.
ただ,1枚のスライドだけは,これはと思って,開いていたノートPCに殴り書きしました.おおよそ以下のとおりです.

ソーシャル SNS,口コミ
UI/UX  
フロントエンド アプリ
ミドルウェア DBMS検索エンジン
バックエンド OS,ハイパーバイザ
ハードウェア サーバ,ストレージ
ネットワーク スイッチ
ファシリティ 空調,建屋
電力 発電所,送電路

言ってみれば「大規模サービス運営における階層モデル」です.
階層モデルというと,OSI参照モデルや,インターネット通信の階層構造(wikipedia:DARPAモデル)が思い浮かびますが,それらの階層ではまず出てこない要素も,上と下に伸びています.
まず上から見ていくと,よく知られた階層モデルの「てっぺん」は,アプリケーション層です.ですが上記の階層図では,アプリの上に,UI/UX (ユーザインタフェース・ユーザエクスペリエンス)がある,というのです.ちなみにこれも,開発者がより良い方向へと,制御・修正が可能な要素です.
さらに上には,「ソーシャル」の層があります.これはもはや,開発者・運営者のコントロールの及ばないところであり,SNSや,オフラインの口コミなどが,サービスの修正に反映され得ることを意味しています.思いもよらなかった使い道をする,というのも,ここに含まれると思っていいでしょう.
視点を下の層に切り替えます.OSIでは物理層DARPAではリンク層が最下段ですが,それらは「ネットワーク」の層が担います.
その下にはまず,「ファシリティ」というのがあります.クラウドではなくオンプレミス(自社運用)の場合には,サーバをどこに置くか,そもそも建屋をどこにするのか,また暑さや湿気などにどのように対策するのか,などについても,よく検討しないといけないのです.
最下層は「電力」層です.「コンピュータ 電気なければ ただの箱」というのは,私は大学生になってから聞いたものです.この層は,2011年の東日本大震災で,計画停電にどのように対応したか(講演中には,ホワイトボードによる計画停電のスケジュールの写真も出ていました)を反映させたものとなっています.


OSI参照モデルを揶揄したものとして,上や下に層を設けるのもまた,学生時代に見聞きしました.金銭層とか宗教層とか政治層とか…と思ったら,wikipedia:OSI参照モデルに書かれていました.「土建層」が,第0層になっていました.
講演を聞いて思ったのは,そういったサービスを管理するとなったとき,「上司」はどこの層に位置づけられるのかです.複数の層にまたがって,管理・運営の中核を担う人に指示をしたり,予算その他の承認を与えたりするような存在です.
そもそも「自分」もしくは「運営者」も,この階層図には現れません.
それで気づいたのですが,運営に直接携わる人というのは,この階層モデルの「外」から,全体像を眺めるべき存在なのでしょう.
もちろん,ディレクターからの指示で(いわば手駒となって),もしくは明確な問題意識を持って,特定の層にだけ介入し,それによって周辺の層に影響を与え,サービスの維持と発展に貢献することも,あっていいと思います.
ともあれ緻密な設計図ではない全体像(モデル)をどのように描き,それを学生・教員にどのように提示すればよいかについて,示唆に富んだ1枚のスライドだったのでした.