- 作者:川口 俊明
- 発売日: 2020/09/05
- メディア: 単行本
項目反応理論を用いたテスト事例についてで取り上げたのと別に,読んで気になったのは,第5章(全国学力調査を再建するために)の,pp.142-143に書かれた以下の段落です.
コンピュータを使ったテストには、自動採点ができるという利点もあります。紙のテストでは、答案を回収した後に採点する時間が必要になります。コンピュータであれば、テスト終了直後に採点結果を表示することも可能です。正しい選択肢を選ぶ択一式の設問は当然ですが、近年では、記述式の問題に対する自動採点の研究も進んでいるので、そのうち記述式の試験であっても、テスト終了直後に採点結果がわかるという時代が来るかもしれません。そうなれば、テストの結果を子どもたちの「指導に活かす」ことも可能になります。第4章では、「政策のためのテスト」と「指導のためのテスト」の両立は容易でないという議論をしましたが、コンピュータを使ったテストが十分に発達したならば、この両者を統合することができるようになるかもしれません。
段落の中ほどでは,「記述式の問題に対する自動採点」の実現を楽観視しているように読めます.しかし現実には,昨年,大学入試共通テストで記述式問題の導入見送りという,文科相の発言がありました.
より詳しい解説は,以下にあります.
全国学力テストの記述式問題における問題点は,以下で箇条書きになっています.
箇条書きのうち「カ 全国学力テストでは、学力の把握をするということですが、評価基準がないため、点数の比較に目が行ってしまいます。」は,IRT(項目反応理論)で解決が図れそうに見えますが,それよりも取り上げるべきなのは「エ 共通テスト試行調査では、数学の記述式問題の正答率が3.4%と出たため、本番では中止となりました。ところが、全国学力テストでは、たとえ1.9%とか7%とか極端に低い結果が出ても、記述式の問題を中止とすることはありません。」のほうです.
問題数・解答者数ともに十分な数を得て,「事前にさまざまな難易度の設問が容易に用意されている」(『全国学力テストはなぜ失敗したのか』p.143)ような記述式の問題(項目プール)について,同書からも,Webを通じて知り得る状況*1からも,期待できないのです.
上記は,項目反応理論を用いたテスト事例についてに書いた「これまでの全国学力テストで何を知ることができる(よう出題されている)かについて,著者と自分とで見方が異なるようにも感じました」の件とは異なります.認識はある*2けれど,『全国学力テストはなぜ失敗したのか』を読み込めていない状況です.時間をとって考え直します.
*1:「大規模学力テスト」について,例えばhttps://www.manabinoba.com/edu_watch/017636.htmlで整理されていますが,2つめの表の「記述式」を見ると,「今後期待される採点の効率化」には,自動採点が入っていません.
*2:簡単に書いておくと,各行を解答者,各列を解答した問題として表(Excelなど)を構成したとき,「(子どもたちの)学力」というと,各行を着目することになるのに対し,「指導のためのテスト」という観点では,むしろ各列(問題ごとの正答率や解答類型)を着目しているのではないか,となります.〔追記〕https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/01/28/060343で取りまとめました.