科学研究費を政府の官僚に直接陳情する機会があったとしましょう.
官僚:「国民の税金からなる政府の科学研究費は限られているということをまずご理解した上でお話ください」
研究者:「はい,私の研究は将来的に国民の健康増進につながる重要なものですので,研究費が必要なのです」
…この後,研究者はパワーポイントを使って15分程度研究データと自分の発表論文のリストを官僚に紹介する.
官僚:「そうですか.ところであなたの研究は,その分野では日本一なのですか?」
研究者:「(やや謙遜しつつ)この分野は広いですので,私が1番というわけではないですが…」
官僚:「では,貴重な国民の税金を1番の方でなく,どうしてあなたに使わなくてはならないのですか?」
研究者:「……」
(やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論, p.60)
上の引用は,「あったとしましょう」とあるように,フィクションです.「自分の世界で一番になる」という章の,マクラとなるエピソードです.
スパコンの事業仕分けでは,『1位でなければ駄目なのか』*1,『十分な説得力のない「世界一」という目的だけで、多額の投資をすべきではない』*2というコメントがありました.
一見相反するような2つの事例ですが,合わせて考えると,研究を進め国から補助金を得るにあたり,ナンバーワンであることをどのように位置づけるか,そのアピール(説得力のある説明)の必要性が問われたということです.
私自身,研究費獲得のために,政府に直接プレゼンをするという機会はこれまでなく,当面もなさそうですが,それでもこれについて,対策を考えてみると:
- 使い古された感もありますが,「ナンバーワンよりオンリーワン」でしょうか.すなわち,「なぜその研究が行われないといけない(その問題が解決されないといけない)のか」を明確にした上で,「なぜ自分がその研究を行うのがふさわしいのか」を主張します*3.そしてそれから金額,すなわち「なぜ申請する金額が必要不可欠なのか」の立証です.そういった主張や立証はもちろん,聞き手(審査員)が何を期待するかをよく想定した上で,組み立てないといけませんし,今回の事業仕分けのように,前例がなく準備しにくいときには,リスクをとるというか,ヤマをかけて勝負に挑むということも,必要になるのかもしれません.
- 研究の根本のところを練り上げるのは研究者ですが,予算規模が大きくれば,予算獲得をする*4方々にも協力いただき,その際に,研究者のコントロールの及ばないところで,文書化だとか説明だとかが行われていくことになります.そういったときでも評価に耐えうるよう,揚げ足を取られないよう,研究の目的や実施方法など,根本のところを決めていくべきなのでしょう.
不適切なことは言わず,かつ,想定していないような質問にもきちんと対処できるようにしておく,ということで,命題論理(に限りませんが)の健全性・完全性の概念を思い浮かべました.
*1:「事業仕分け」3日目…スパコン開発予算 、大幅に削減へ < 技術・工学 | 山師ニュース\(^o^)/
*2:次世代スーパーコンピューティング技術の推進 評価者のコメント(PDF).http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/3kekka.htmlより.
*3:そういえば,スパコンの事業仕分けで出た「世界一」は目指すものであり,冒頭のやりとりの「1番」は,陳情の時点で,その研究者が1番であることの検証…1番なのだから,資金を投入して研究してもらうと,計画通りの成果が達成できるだろう,と官僚側が考えてくれれば,研究者側は陳情成功…ということで,そういう点でも違う意味の「1番」ですね.
*4:今回の事業仕分けは「予算が廃止・削減されない」ための交渉とも言えますし,以前,当雑記でもそう書いたことがありますが,今後の予算を決めるという観点で,「予算獲得」に含めることにします.