「人文情報学概論の授業,第2回を始めます.
前回*1は『meme』という単語を紹介しましたが,本日は『master』を取り上げたいと思います.
マスターを,goo辞書で引くと,こんなふうに意味が書かれています」
[名](スル)
1 師匠。親方。
2 集団の責任者。長。「バンド—」「コンサート—」
3 経営者。主人。特に、バー・喫茶店などの主人、または支配人。
4 学位の一。修士。
5 物事に熟達すること。習得すること。「中国語を—する」
6 「原盤2」に同じ。
7 多く複合語の形で用い、元になるもの、基本となるもの、の意を表す。「—テープ」
8 コンピューターなどで、基本または中心となる装置。主装置。⇔スレーブ。
「大まかには,『主人・トップに立つ者』『学位の一つ』『熟達』『基になるもの』に分けることができます.5番目の意味から,熟達・習得した者,すなわち『達人』の意味にもなります.
みなさんにとっては,『学位の一。修士。』が最も関連することになると思います.博士前期課程あるいは修士課程は,マスターコースと呼ばれます.学年を表す『M1』『M2』のMも,masterの頭文字です.
コンピュータのことについて書かれた8番は,『主人』の転用です.対義語として挙げられている『スレーブ』は,『奴隷』を意味し,『マスター・スレーブ』で(コンピュータ内における)主従関係を表します.
辞書に載っていない,マスターの話として,『MASTERキートン』を,紹介したいと思います.『MASTERキートン』は1988年から1994年にかけて連載された漫画でして,浦沢直樹さんの作画です.この方は1980年代に『YAWARA!』という,柔道少女が主人公の漫画を描いてヒットしています.後のヒット作には『20世紀少年』というのがあります.
『MASTERキートン』の主人公,平賀=キートン・太一は,『考古学者・大学非常勤講師』『元イギリス特殊部隊のサバイバル教官』『保険調査員』の3つの顔を持ちます.ストーリーとしては主に,保険調査員として世界を駆け巡りながら,大学(アカデミア)や,軍隊経験の話も随所に出てきます.
フェンシングをしている回想シーンで,主人公の対戦相手が,こんなセリフを発しています」
「プロフェッサーにはなれないな。戦闘のプロとしては甘すぎる!せいぜい達人(マスター)止まりだ」
「ここのプロフェッサーは,大学教授という職位ではなく,尊称と考えるといいでしょう.『達人』の域に達すれば,人によってはその技能に満足するかもしれませんが,まだまだ上があるんだよ,そしてあなたは(そのままでは)高みには昇れないよと,言っているかのようです.
学術においては,修士(Master)という学位は,あまり重視されません.尊重されない,と言うべきかもしれません.国内外において研究者として認められるスタートラインは,博士(Doctor)の学位を得ることです.その上でさらに教育経験の実績を積むことで教授(Professor)になる方々がいます.私自身の職位は准教授(Accosiate Professor)ですが,教授になるよう研鑚しているところです.
ちなみに国際会議なんかでは,氏名や所属などと合わせて,Titleをチェックする欄があったりします.これは発表論文のタイトルではなく,肩書きを意味します.選択肢として,『Mr.(ミスター)』『Ms.(ミズ)』はそれぞれ,博士でない男性・女性です.ほかに『Dr.(ドクター)』と『Prof.(プロフェッサー)』のチェック欄があり,もし今,自分がそこにチェックするとなると、『Dr.』のみです.Accosiate ProfessorはProfessorではありませんので.
『せんぜい達人(マスター)止まりだ』は,この回想の時点で博士の学位を持たない,主人公コンプレックス(劣等感)を表したものとなっています.
少し悲観的な紹介になりましたが,みなさんはまず,大学院の授業科目の単位をきちんと揃え,修士論文を完成させることを,目指してください.
『その上』で学び修める機会あるいは期間として,ドクターコースがあることを知っておき,M2を終えて引き続きD1になるもよし,いったん社会に出て,経験を積んでから,学び直すもよし,と思うのがいいでしょう.
それでは第2回授業の内容です.前回お話しする予定だったことを話すのから始めます…」