わさっきhb

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ε-δ

いきなりですが数学の問題です.

数列a_nがαに収束するとき,a_1からa_nまでの平均値b_n=(a_1+…+a_n)/nについて,b_nもαに収束することを証明しなさい.

数列a_n\alphaに収束するとき,a_1からa_nまでの平均b_n=(a_1+\cdots+a_n)/nについて,b_n\alphaに収束することを証明しなさい.

私の1年生向け科目を履修している学生に向けて,ときどきこの日記で,私が大学生だったころの昔話をしていきたいと思います.
成人になる直前の1年間に,自分の行き方の基礎をなす出来事がいろいろありました.
その一つは,「ε-δ」を自習したこと.
ちなみに,「ε-δ」は「イプシロンデルタ」と呼ばれます.間の「-」は読みません.
現在の工学系学部の微積分の授業で,どのくらいε-δを教えているか,データが見つからないのですが,私(が学生だったころ)の上の年代は教わっていて,私のころから過渡期で,現在では取り扱っているところが少ないのではと想像しています.
私のころも,教科書のはじめ(極限だったかな)に少し登場していましたが,数学の先生は,あえて,授業でε-δを解説しないとおっしゃっていました.
大学1年生の年末に,友人の家に泊まりに行って,留守番をしていたときに,友人の本棚にあったのが,確かこの本でした.

ざっと読んで,数学で厳密に論証するには,ε-δの論法が不可欠なのかという程度に考え,まあいい勉強になったと,本棚に戻しました.
教員になってから,何かのきっかけでこの本を思い出し,Amazonで購入して読み直しました.おそろしく感動しました.
何に感動したかというと,

  1. 「限りなく」や「収束」といった概念を,実数の範囲をとる変数,それと論理(一階述語論理の範囲に収まっていると思います)を駆使して表現できるということ.
  2. 実数に関するいくつかの性質の間の関係(論理的帰結)を証明するのに,活用されていること.
  3. ε-δの効果的な例を提示していること.すなわち,ある問題について,ε-δを使わないで証明するのは無理と思われるが,ε-δを用いた明快な証明が与えられていること.
  4. 目標を明確にして,制約の中でどのように証明を構成すればいいかを解説していること.

「ε-δの効果的な例」は,冒頭の証明問題です.関心があれば,ε-δをしっかり説明している本ならどれにでも載っている基本問題と思われますので,自習してみてください.
ただし,工学系の大学1年生の数学の入口で,これを説明するのは,もはやそぐわないようにも感じます*1.教養として学ぶにはいい本です.

*1:一階述語論理までいかなくても,ε-δで書かれるそれぞれの変数の有効範囲,すなわちεを最初に設定するからこそ,それに依存してδの値を設定できるということが分かることが,この論法を理解するための前提知識です.現在の高校数学で,束縛変数の概念,もしくは変数の有効範囲について,きちんと教えているでしょうか?