…ああ.
パソコンの前で,眠ってしまったようだ.
そうだ,年賀状を印刷してたんだった.
画面が見にくいなあ.
あれ? 鼻がでかいぞ,俺.
いや,俺,イノシシになってもた!
洗面台へ行ってみる…たしかに姿はイノシシだ.
部屋に戻ろう…おい,俺! 四本足で歩いとるぞ.
寝室の妻に,この姿は見せられんなあ.
肌を触ってみると…つるつるしている.どうやらリアルのイノシシじゃなくて,張り子っぽい.
幸いにもパソコンの操作はできる.器用な指先だ.
そうこうしていると,夜が明けてきた.
…がちゃ.
寝室のドアが開いた.妻が来るぞ.
「あなた〜」
「お,お前…」
「そうよ,あなたもイノシシ,あたしもイノシシ」
「けどおかしいやろ!?」
「ええやん.だって夫婦だもん」
「…」
「あなた,キバが凛々しいわよ」
口元を触ってみる.たしかに,キバだ.
妻の顔を見てみる….キバないのか….じゃなかった,何か言わないと.
「お前も,イノシシになっても,可愛いよ」
「うん,ありがと」
「って言うとかな,場がもたん」
「それは余計!」
「へいへい…」
…がさがさ.
「ん? お前今何やった?」
「背中のヒモを結んでみてんけど」
「お前と俺と?」
「うん」
「なんやそれ」
「だって夫婦だもん」
「いやそう言われても」
「あなた,出てったらあかんで.年末年始やねんから」
「けどおかしいやん,俺らイノシシやで,猪突猛進やで」
「おかしいこと言わない!」
「俺らの存在自体がおかしいって.…ちょっと外に出てくる」
と,部屋を出ようとしたものの,数歩で,すってんころりん.
「あなたは出ていけないのよ〜」
「う,ヒモのせいか…」
「まあけど,出かけてみたいね.行くよ〜」
「うごご〜,引っ張られる〜!!」
「ついておいでや〜」
「なんでお前がこんなけ引っ張れるんや〜!?」
「あなた〜」
「ん? おあ?」
「パソコンの前で寝てたらあかんやん」
「ああそやな.寝間,行こか…」
二本足で歩いてるよ.人間に戻ったようだ.ていうか夢オチだよな.
妻に感謝し,家庭に感謝し,幸せな生活をかみ締めて,毎日を過ごすか….
…ぶひっ.
Inspired by:
- 年賀状選べるイラスト5800 CDーROM 2007年(亥(いのしし)年編―Windows版 (Gakken Mook) 5800DISC1\FORMAL\FOR101_150\FOR_121.jpg