「さっき何騒いでたん?」
「ああ,あんときお前,洗濯もん取り入れてたんやな」
「せやってんけど」
「またなあ.大事なもんを,あの子が,ばしゃあんって落としおってやな」
「そっか」
「んでそれで終われへんねん.おじいちゃんとおばちゃんが,『あかんやろ』って厳しくいうねん.お手々をぴしっと叩いたりして」
「うん」
「部屋の中に,ちょうどT字の配置になってな…おじいちゃんとおばあちゃんが,T字の横棒の端と端.パパが,縦棒の端っこで…」
「あの子は縦棒と横棒の交わるところ?」
「そうや.んで三方から睨まれる状態にあってな.パパは,落としたいうても壊したわけではないし,2歳までは叱っても覚えてへんていうから,そんなに目くじらは立てへんねんけど,まあ緊迫した状況になってやな」
「そいで子供は,どないしたん?」
「娘の前に,おばあちゃんがやな,『みんなの顔を,見てみい』って,厳しめに,言うたんやな…」
「へえ」
「そんならな,うちの子,おばあちゃんに向かって,目ぇを細めて,“にまぁ”っちゅう,満面の笑みを作りおってんで!」
「すごいなあ.この子なりの打開策?」
「ちゅうかな,『顔』という言葉に反応しおったような気がすんねんけんど.ともあれその表情を見てもたパパの負けやな.緊張感も途切れて,大笑いしたんや」