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古くて新しい掛算

古くて新しい掛算 - Togetterの中から,いくつかツイートを取り上げ,思うところを書いていきます.

1. 10人+5人

「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」だったら,式は5+7でしょうか7+5でしょうか,どちらでもいいでしょうか.
これは小学校学習指導要領解説 算数編に載っている出題例で,そこでは7+5の式を採用しています.一方,ある学力調査で,同様の問題についてどちらでもいいとしている(と読める)ものがあります.
出題と正解不正解については足算の順序で,たし算とかけ算の違いについては被加数・加数の順序で書いてきました.
小学校の出題例を観察している限り,

  • たし算については,たされる数とたす数が明確に区別される「増加」よりも,それらが実質的に区別されない「合併」のほうが支配的
  • かけ算については,かけられる数とかける数が明確に区別される「倍」のほうが,それらが実質的に区別されない「積」よりも支配的

という傾向があるように思っています.

2. 4個×3人=12個・人,3人×4個=12人・個

「4個×3人=12個・人」「3人×4個=12人・個」には,賛成できません.
というのも,食料品や生活用品に目をやると,「2枚×2袋」や「1.5kg×4箱」のように,一つ分の数量を×の左,いくつあるかを×の右に書く表記が簡単に見つかるからです.総量の単位は,×の左と同じです(右の単位は,総量に反映されません).
事例の画像集はhttp://f.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/を,事例の分類は学校の外で「×」をご覧ください.食料品・生活用品は意図的な着眼点でして,別のものに目を向けると,レシートでは「単価×数量」も「数量×単価」もあります.しかしそれは,会計の慣例が入っており,別扱いとしたほうがよいと理解しています.

3. サンドイッチ方式

批判する人々の間では,- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキが人気のあるページです.
当ブログでは,「サンドイッチはくだらない・2012年8月バージョン」と題して,数学的な背景や主だった批判など,2回に分けて解説を書きましたので,ご笑覧いただければと思います(1, 2).どんな手法にも,その適用が効果的な状況とそうでない状況がある,というだけの話です.

4. 文章題を数式にする過程,計算する過程,回答の過程

その3つが区別され,1枚の図で表されたものがあります.

「ファンタジーの法則」と呼ばれます.当ブログでの上の図の初出は,こちらです.文章の引用は,こちらで行っています.
ただ残念ながら,記憶が間違っていなければ,『プログラマの数学』の作者・[twitter:@hyuki]さんは「非順序派」です.
上でも書きましたが,個人的には,かけ算は「倍の乗法」と「積の乗法」に大別されるなあという認識があります.小学校では,倍の乗法を優先して学習するので,かけられる数とかける数の区別がなされます.そして,それらを逆にして書くと,「意味が違う」のです.
トランプ配りで考える子は,本から読める授業例では現れませんし(今年出た本からだと,北数教),仮にそういう子がいたとしても,「問題解決型の授業」の比較検討の段階で,その式(期待されるかけ算の式から,かけられる数・かける数を交換したもの)では別の解釈ができてしまうことになり,その考え方はよくないという流れになるように感じています.子どもたちは,問題解決型の授業で,「式」から「考え方」を推定しているの中で,検討しました.1つの場面でa×bかb×aかを問うだけでなく,2つの場面を同時に提示して,一方はa×b,他方はb×aと書くことが期待されるような出題例も見てきています.

5. 助数詞,単位

私は,「人」や「個」は助数詞(無次元)として扱うべきケースも,単位とみなすのがよいケースもあるように感じています.
単位になるのは,小学校で学習する範囲でも出てきて,それは「人口密度」「混み具合」です.混み具合は,単位面積当たり何人いるかだったら[人/m^2],1人がどれだけの面積を占めるかだったら[m^2/人]といった単位で表されます.いずれも,この中の「人」を無次元とすると,値の意味づけに困ります*1
人数は普通,分離量ですが,人口密度もしくは何らかの平均を求めれば,その値は連続量と見なすことができます.人口密度に面積をかけて出る値は,人数の推定値であり,単位は「人」でも連続量として扱うのがよさそう---物理量と同等な取り扱いができます.
ツイートを引用しませんが,「[人^2]」は理解に苦しみました.
なお,数・量・単位については,数学者による「かけ算の順序」でいくつか取り上げ,新たなかけ算のサンドイッチで提案を試みています.

6. 3人×6人,3人/列×6列

発端のツイートが見つかっていないけれど,とりあえず,「子どもたちが1列に3人ずつ6列ならんでいます.子どもたちはみんなで何人いますか」と,問題文を定義しておきます.ちなみにこれは,遠山啓が1972年に書いた「6×4,4×6論争にひそむ意味」の一節の改題です.
遠山の主張は,「3×6でも,6×3でもいいとせざるをえないだろう」となります.それに対し[twitter:@mbnife]さんの主張は「3人/列×6列=18人」です.
そこには2つの論点があるように思います.定義した問題に対して,単位を書かないとすれば,“3×6のみ”か“3×6でも6×3でもいい”か,それと,3×6という式に単位を添えるなら“3人/列×6列”か“3人×6人”か(他にあるか),です.
一つ目の論点については,出題の仕方次第,あるいは挿絵次第で,“3×6のみ”にも“3×6でも6×3でもいい”にもなります.イラストを工夫して,1つだけにしている出題例を,教え方のプロ・向山洋一全集の中で見てきました(イラストを含む該当ページは載せていません).TOSS vs AMIという比較も,やってみたのでした.
論点を単位に移すと,パー書きを使った“3人/列×6列”のほか,乗数の単位を書かない“3人×6”もまた,有力な書き方となります.“3人×6人”と書いた上で,サンドイッチ(乗数の単位を無視する)で計算して18人とすることも,可能です.
以上より,“3人/列×6列”しか考えられないと言うのが,コミュニケーション阻害のもとになっているように思っています.
なお,添える単位の分類については,「かけ算の順序」のダブスタ考で3種類を示しています.Vergnaudの示した2種類の考え方を,量や単位にも注意しながら,自分なりに見直して次のステップの最後に書きました.
連続量と分離量とで,かけられる数量・かける数量・積がどのように違うのかについては,平方個で図を作りました.昔むかしは「古記に言う,田は長三十歩,広十二歩を段とする.段積は三百六十歩」として,長方形の縦も横も面積も,単位が「歩」となる記載例があったそうです(面積の発見).

Q: takehikomは,@mbnifeさんの味方なの敵なの?

味方にも敵にもなりません.「うわあ,ごくろうさんだなあ」と思ったツイートがあったので,Togetterにして,いくつか拾い上げた次第です.
これは書いてもいいかな…いくつかツイートを見たところ,だいたい2年前くらいの自分の言動に似ているなあと思いました.なので本日の記事は,2年前の自分向けの情報整理,という意味合いもあります.

*1:しかし小学校では,次元といった概念を学習しないのに加えて,[人/m^2]ではなく「1m^2当たり○人」「一人当たり○m^2」といった考え方・書き方をするので,特に問題にならないようにも見えます.