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公開授業の等分除〜12÷4を除算記号なしで表すには

アクセスログから二転三転して,公開授業の見学報告を見つけました.
授業者は,筑波大学附属小学校中博史先生.3年生の算数,割り算の導入授業です.
実施日は,2011年6月4日とのこと*1.『かけ算には順序があるのか』が刊行されて間もないころとなります.
中ごろに,「かけ算の順序」を意識したディベートが出てきます.

ぼくが心を奪われたのは、アメを4人に等分した後のこと。
「では、これを計算でできるかな?」と先生。
生徒たちがノートに書いたものを前面で紹介し、賛否を問います。
ア 4×3
イ 3×4
ウ どっちもいい
エ どっちもだめ
さあ。すると生徒たちはワアワア手を挙げてディベートです。
「アがいい。4人がいて、それで3個ずつ。」「3個のアメを4人に分けるからイ。」「3×4だと最初から3個って解ってるってことじゃん。」「4×3だって最初から3個って解ってるから、どっちもだめ。」「4×1個を3回やるってことだから、ア。」
各陣営が大変な意見の応酬で。すると、後ろに座ってた300人の業界人や先生たちもザワザワと議論を始めました。
なるほど、この授業のヘソは電子黒板やデジタル教材でのわかりやすい視覚効果ではなくて、そこからスタートした、定まらない答えをみんなで考える、この時間なのですね。
授業全体の7割の時間がこのディベートに当てられています。

「4×1個を3回やるってこと」はトランプ配りを思わせます.また引用はしませんが,アリとキリギリスを持ち出した回想については,正解を1つに決めることよりも,複数の候補をしっかりと比較検討することの大切さを思って,授業に入れられた(それを意識しながら報告者も取り上げた)ものと判断しました.
算数のディベートはというと,次のようにして収束させていました.

さて、目の前の公開授業では、アが優勢になり始めました。
が、おさまりがつきません。
すると先生、今度は別の子が書いた式を前で紹介。
□×4=12
なるほど、これで納得。
というところでチャイム。授業終了。
でも、その後に手を挙げた女の子が聞きました。
「先生としては、どれが正解だと思ってるの?」
場内、かなりザワつきました。そうだ、ぼくも尋ねたい。
デジタルは正解ばかり追い求めると言う田原総一朗さんの顔を思い浮かべながら。
先生の答え。
「自分でこれと思ったのがいいと思うよ。」

ページを読んで,公開授業の場に立ち会わなかった自分がその場面を想像してみると,田中先生は,授業を受ける子どもたち,そして参観する人々のことをよく考慮して,授業を展開したのが伝わってきます.みんな田中先生の手のひらの上で踊らされた,と言ってもいいのかもしれません.
面白かったけれども要注意なのは,「□×4=12」という,□を使った式です.
除法の学習について,スタンダードな流れは,次のとおりであると理解しています.まず,×も÷も使わずに,配ることなどを通じて,「(等しく)分ける」操作を確認します(除法の導入でもなされますが,この操作は1年でも実施可能です).そして,÷を使ったわり算の式を教えます.いくつか問題を解いてから,かけ算とわり算の関係として,12÷4=□と□×4=12を結びつけます.なお,12÷4=□と結びつく,かけ算の式には他に,4×□=12もあり,等分除と包含除の違いや,乗法の交換法則とも関連しています.
この流れを念頭に置き,「割り算の導入授業」であったことを踏まえると,□×4=12の式には違和感があります.これを書いた子は,公開授業のときより前に,そういった書き方を学んでいた,という可能性も考えられますが,文章全体のほか,筑波の算数のスタイルから,「別の子が書いた式」として紹介された「□×4=12」は,実はその場で誰も書いておらず,田中先生が切り札として用意していたというのも,選択肢に置いておかないといけません.
技術的な観点で,「□×4=12」を書いた子がいたのかどうかを知るのは,難しくありません.みんなに式を書かせ,スクリーンですべてを表示させればいいのです.
これぞデジタル化…と言いたいところですが,そういった一覧表示をするコストは,決して安くありませんし,子どもたちは自分が書いたのを他の子に見てもらいたいという気持ちばかりでなく,書いてみたけれどみんなには見せたくないことだってあるでしょうから,利用者への配慮も望まれます.
デジタル教材の浸透だとか,インターネットですべてが学べる世の中であっても,何を見せて,何を見せないようにするかの選択は,依然として必要不可欠であり,教室においては教師が,Webにおいては情報発信者が,うまく舵取りをする必要があるなと感じた参観記事でした.


昔書いたこと:

算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集』では,次のような,わり算の問題と授業例が紹介されています(p.85).

12このクッキーを絵のように分けました。
式にあらわすと,どちらが正しいでしょうか。
  ア 12÷4
  イ 12÷3

どちらが正しいか予想させると,「アが正しい」,「イが正しい」,「どちらも正しい」に分かれます.それぞれの考えを説明し合う中で,クッキーの置く手順の違いや,「○人に分ける」や「○個ずつ分ける」など,分け方の違いを確認していきます.そして教科書を用いて「わり算は,同じ絵でも式が違う場合がある」ことをまとめる,としています.
というわけで,問題文は「どちらが正しいでしょうか」ですが,結論は「どちらも正解」という授業でした.
その次のページでは,「リボンの長さを5倍すると30mになります。リボンの長さは□mです。」の式に「ア 30×5=□」「イ 5×□=30」「ウ □×5=30」を提示しています.そしてアとイはおかしく,ウが正しい,と展開します.これも第3学年でして,「□を使ったかけ算」の問題と授業例です.

わり算,包含除・等分除,トランプ配り

*1:ページ内では「6月2〜4日に開催」と幅を持たせていますが,『算数授業研究 VOL.78』p.44の授業者報告では「2011.6.4」と書かれています.