わさっきhb

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3×2=6個が×で2×3=6個が○なのは,なぜ?

一番使える 〔小学算数〕わが子の「なぜ?」にスッキリ答えられる本

一番使える 〔小学算数〕わが子の「なぜ?」にスッキリ答えられる本

ジャケット*1の表紙部分の左下に,次のように書かれています.

3人に2個ずつ
リンゴを配ると……
3×2=6個(行全体に×印)
2×3=6個(行全体に○印)
上の式が×で下の式が○
なのは、なぜ?

書店で見かけ,興味を覚えて購入しました.
「4×3と3×4って、何が違うの?」がタイトル,「かけ算とわり算の本当の意味」がサブタイトルとなっているのは,p.22です.そのページの途中には,「かけ算の本当の意味は」の直後,「(1あたりの大きさ)が(いくつ分)あるのか」に,赤い下線が引かれています.

どうして「1つ分の大きさ」ではなく「1あたりの大きさ」なんだろう,という疑問はさておき((著者の塾のサイトを見つけました.[http://avid.jp/my-profil.htm]には,「文部科学省から指導法の研究をまかされている「国立教育政策研究所」の報告書」を,子どもを伸ばせるヒントとして挙げています.ですが「1あたり」で連想する,水道方式は,サイトにも書籍にも見当たりませんでした.)),例題を書き出しておきます.

3人の子どもに、1人4個ずつリンゴを配ります。全部で何個必要になりますか。

直後に解答です.なお「(ア)」「(イ)」は原文では丸囲みのアとイです.

答えは12個ですが、式は2通りできます。
(ア)4×3=12
(イ)3×4=12

両方OKの解釈をとっています.このページの最後の行には「さて、この2つの式の意味の違いはどのようなものなのでしょうか。」とあり,次のページの上半分で,「(ア)4×3とは……」と「(イ)3×4とは……」が,図になっています.
本記事では図の転載を差し控えますが,(ア)は普通の配り方で,(イ)はトランプ配りです.
そのすぐ下では,2つの図の違いを言葉で解説していて,「このように、(ア)と(イ)は答えは同じでも式の意味、つまり考え方が違うのです。」で終えています.
ジャケットの「なぜ?」について,直接的な答えが書かれておらず,p.23下部の赤の囲みの中に,「(略)なお、小学校の算数では、(ア)の式のみを正解とするところがあるので、(ア)の式と(イ)の式の意味の違いをしっかりと押さえておきましょう。」とありますが,これも,「なぜ?」の答えとなってはいません.
(ア)も(イ)も正解になるんだよという他書を挙げるなら,一つは『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』,もう一つは当ブログでよく[Vergnaud 1988]と書いている文献です.どちらもかけ算と構造で取り上げています.細かいことを言うと,[Vergnaud 1988]ではトランプ配りとは別の方法で,かけられる数とかける数を反対に書いた式も正解となる理由を述べています.
なぜ(イ)が間違いなのかというと,「それは1人3個ずつのリンゴを4人の子どもに配るときの式だから」や「3人を4倍して答えは12人になってしまうから」が知られています.前者は『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード*2に,後者は[Vergnaud 1988]にそれぞれ記載があります.両方を図にしているのは,『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』のpp.46-47,『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』のpp.44-45です.これらについて,当ブログでの取りまとめはかけ算の順序論争 (2013.11)になります.


本日,取り上げた書籍について,他に引っかかったのが2か所あって,まずはp.34です.
はじめに箱囲みで1行の記述があり,1行目は「○×□+△×□=(○+△)×□」という式,2行目は左に「分配法則」,右に「結合法則」を書き,間に左向きと右向きの矢印を置いて結んでいます.直後には,「① 結合法則を使う」として,17×3.14+23×3.14を計算しています.
いやいや,違うでしょう.数学の結合法則とも,小学校の算数でも学習する結合法則とも,式が異なります.(○+△)×□を○×□+△×□として計算するのも,○×□+△×□が与えられたときに(○+△)×□の式にするのも,用いているのは分配法則です.
もう一つは,p.42の「倍数の見分け方」です.2の倍数から9の倍数まで(ただし7の倍数は記載なし),4の倍数は「下2ケタが4の倍数か00」,8の倍数は「下3桁が8の倍数か000」とあります.0は倍数に含まないとなると,「か00」「か000」と,分けて書かないといけない*3とは….

*1:ジャケットを取り除いた表紙のところには,式も,猫の写真も,ありませんでした.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#2

*3:一の位の数を具体的に挙げて判定できる2の倍数と5の倍数を除き,それぞれの見分け方に「〜の倍数」という表記を用いているのは,統一性を重視しすぎているように感じました.個人的には,4の倍数は「下2ケタが4でわり切れる」と教わったものです.