わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

あらためて本質について

プレゼンテーションzen

プレゼンテーションzen

  • 作者: Garr Reynolds,ガー・レイノルズ,熊谷小百合
  • 出版社/メーカー: ピアソン桐原
  • 発売日: 2009/09/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Presentation Zenの書籍化の日本語訳です.巻末プロフィールによると,著者は「関西外大経営学の准教授」「今は大阪に住みながらDesign Matters Japanのディレクターをしている」とのことで,本文中にも,駅弁や柔道の話が出てきます.
内容については,あいにく「学生向けではない」「俺向けでもない」と判断しました.成功例と,明確な(理由付きで説明されている)失敗例はよく分かりました.しかし,研究室の学生に勧めるには,プレゼンテーションの準備は,発表そのものの何十倍から何百倍もの時間をかけるというのを前提として,発表(準備)者の葛藤や,内容の不備にどうやって気づきどうやって改善し,また自分の心持ちがどうなっていったといった,泥臭いところの言及*1が大事で,そこに物足りなさを感じたのでした*2
否定的な感想だけというのもよろしくないので,読者対象を自分なりに考えてみると,「プレゼンテーションを数多くこなし,指南書をそれなりに読んでいるが,技法よりも心がけの観点で,手法よりも感性の観点で,プレゼンテーションの自己改善を望む人」「人の完成物(良い悪いを含めて)を見て学ぶことのできる人*3」といったところでしょうか.
さて今月は,読んだいくつかの書籍で,「本質」という言葉を多数,目にしました.私自身,教育・研究の職にあたって対象の「本質」は避けるわけにいかないことは承知しています.しかしその乱用もいましめたいと考えています.もう2年前になりましたが,ある雑誌記事と,おぼろげな記憶をもとに,考察したことがあります.

「本質」というと,数年前のどこだったかの会議で,ある議題に対して,「この問題の本質はナニナニで」と,2人の論者が別々の「ナニナニ」をおっしゃっていたのを思い出します.
これは,「本質」ではなく「着眼点」と解釈すればいいのでしょう.一つの問題に対して,どんな切り口で迫ればいいかを,他の参加者に伝えるための定番表現が,「この問題の本質は」なのです.
情報の分野でよく,「本質を見抜く」という表現を見かけます.
多くの場合,これは「構造を見抜く」と置き換えられそうです.
構造に気づけば…問題の中に,従来知られた構造と同形のものsomething isomorphicを見つけることができれば…その構造の性質を活用することで,問題を解きやすくする,ということです.

本質と言われても - わさっき

表現し直すと,こうです:「対象」は綿のようにふわふわしたもので,見る角度によって形が違いますし,手を触れると簡単にその形状を変えることができます.その中にパチンコ玉のような,綿から見ると極めて小さく,かっちりしていて,不変なものがあります.それが対象の「本質」です.綿に手を伸ばしてパチンコ玉だけを取り出すのが,「本質を見抜く」です.「この問題の本質はナニナニで」と言うのは,パチンコ玉を抜き出すのではなく,綿をある面で真っ二つにして,パチンコ玉(の一部)をさらけ出す行為に相当します*4
さて冒頭の本で,「本質」はどのように使用されているかを,調べてみました*5.著者による「本質」の本質は,ここでしょう:

シンプルという言葉を使うとき,私はそれを明快さ,率直さ,繊細さ,本質性,ミニマリズムのほぼ同義語と見なしている.
(p.117)

引用直前の『「本質」の本質』はいわば言葉遊びで,後者の本質は「核心」あるいは「真髄」に置き換えるほうがいいでしょうね.Weblio類語辞典本質を引いてみると,「核心」「真髄」を含む,様々な関連語の存在を教えてくれます.パチンコ玉の例えは,「内奥に潜むもの」が最も近そうです.

*1:別の表現でいうと…準備に当たって,難問にぶち当たり,逃げることなく時間をかけ,創意工夫することによって,納得がいき共感の得られるプレゼンテーションができることの大切さを,大学生・大学院生向けに言えればいいのです.ま,自分なりにやってみるかな.

*2:最近読んだ漫画に「ダシマスター」というのがありました.あのストーリー展開で,「プレゼンプロフェッサー」みたいな漫画を作れば,学生もビジネスマンも俺も飛びつくんだけどなあと妄想したりします.そういえば浦沢直樹Masterキートンの何巻だったか,「君は教授(プロフェッサー)になれない」「せいぜい修士(マスター)止まりだ」という発言がありましたなあ.

*3:「プロセスを一つ一つ修得する人」ではなく「結果を見てそこに至るプロセスを理解し学ぶ人」,とも言えます.「デザインする」と「デザインされた」の違いについて,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20080113/1200176143で検討したことがあります.

*4:綿にパチンコ玉が2個以上ある状況は,想定していません.別々の「ナニナニ」は,同じパチンコ玉を別の角度から見ていて,それを別個に,会議の他の人に見せようとしていた,ということです.

*5:見つけたページは,p.29, p.54, p.67, p.78, p.85, p.89, p.109, p.117, p.124, p.126, p.171.「本質的」という出現を含みます.目視なので,漏れがあるかもしれません.