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研究室広報係のすすめ

ドクターコースの学生のみなさん:自分の研究室のWebページの管理を,手がけてみませんか?
ドクターコースの学生をお持ちの先生方:自分の研究室のWebページの管理を,学生さんに任せてみてはいかがですか?

「誰が」「何を」「誰に」「あと」の順に,説明したいと思います.

誰が

研究室のWebページを,ドクターコースの学生が維持管理することで,次のようなメリットが挙げられます.

  • 維持管理の仕事を通じて,研究室活動の全体像を知ることができます.それは,どんな情報をアピールし,どんな情報は秘密にすべきかへの理解にもなります.
  • 自他の研究を,より深く知ることができます.独自性を分析し,分かりやすくまた誤解されないよう,発信していくことが求められるからです.
  • アウトリーチ活動の一つになります.

そんなこんなで,将来,研究者として独り立ちするときの「研究業績」とは全く別の“武器”になるのではと考えたのでした.
アウトリーチ」については,補足をしておきましょう.wikipedia:アウトリーチの,科学技術分野におけるアウトリーチの中で,『研究者や研究機関が研究成果を国民に周知する活動をさす。』とあります.研究者のアウトリーチ活動と,そこからのリンクで平成15年度 科学技術の振興に関する年次報告も,参考になります.
サイエンス・コミュニケーション」は,研究者にとって,アウトリーチの類義語といっていいでしょう.科学コミュニケーション〜科学を伝える人たちhttp://scienceportal.jp/HotTopics/s_communication/が,Googleで上位に出てきました.
学位を取ったけど仕事がない,昔なら非常勤講師をしながら研究をしてパーマネントの職を求めていた*1けど,非常勤講師の口も厳しくなりがちなので,代わりにサイエンス・コミュニケータの道を…ということを,本日のエントリは,意図しているわけではありません.そもそも,サイエンス・コミュニケータの国内需要がどんなもんか,見積もれていません.
理想は,自分の研究は究めていきながら,研究を同業者だけでなく,少しでも関心のある人に,その関心度と知識に応じて,自分や組織,日本そして世界のアカデミアで進められている科学・技術について,語れるようになることです.
なお,ドクターコースの学生がいない研究室でも,次のような「広報活動」が考えられます.研究室に入ったばかりの学部生に,過去の卒業論文や,研究室のメンバ(卒業・修了生を含む)が書いた学会論文などを読ませて,解説を,一つの研究テーマにつき1人ないしは数人で,「公開を前提として」書くのです.教員が取りまとめて公開すれば,情報を発信していきたい教員と,研究をしていくためのきっかけをつかみたい学生の,双方にメリットがあると思います.

何を

何を公開するのかというと,次の二つです.「研究成果」と「活発に研究していること」です.
研究成果は,さらに二つ分かれます.経年的な,論文その他の業績情報と,主要な成果あるいは研究テーマに関する解説です.論文については,参考文献として記載できる形にしておけば,「過去の学会発表で,別刷り・コピーはあるんだけど,学会名や発行年が書かれていない」というのを新たな原稿の参考文献に入れるのも,楽々です.このように,研究業績を取りまとめておけば,研究室の中の人にも役立つというわけです.
研究の解説は,アブストラクトそのままにしないように.読みにくいし,そういうのだったらCiNiiなどに任せるべきです.アブストラクトや本文の内容をある程度取り入れながら,読みやすく理解しやすく,読んでくれた方々が,研究室の活動に期待を寄せてくれるような内容にしたいものです.図や写真も,貼り付けましょう*2
「活発に研究していること」は,ゼミや行楽・飲み会の風景の写真に,年月日と,ちょっとした説明文を書けばいいでしょう.これは,将来この研究室に入ってもらう人,それと,卒業/修了したけど研究室はどうなっているのかなと(研究室訪問をする余裕はないけれど)知りたい人のための情報です.大型機器がやってきたなら,写真撮影のチャンスです.
他に,公開するといいかもしれない情報を挙げてみます.

  • 研究室の機器
  • どんな人がいるか
  • 日ごとの報告(成果発表,受賞,OB来訪など)
  • 英語版の研究室紹介

学生の氏名を公表するかどうかは,個人情報が絡みますので,あなたの一存で,あるいは研究室ホームページでかつて公表していたからという理由で,安易にリリースしてはいけません.まず研究室の先生に相談し,そこでOKとなっても,各学生にメリットとデメリットを言って,了承を得ておくくらいの慎重さが,必要でしょう*3
教員の氏名・役職と,研究内容は,積極的に公開しましょう.そのうち教員は出世したり,所属などが変わったりします.いわゆる転出についても,その行き先へのリンクを設けたいものです.

誰に

「アクセスする人」(実は,後述のとおり,人に限らないのですが)を箇条書きにして,注意点を列挙します.

  • 外の研究者
    • よく見られるのは,研究成果(業績,解説)です.業績の共著者から,(自分のところに来てほしいと考えたりした)学生がどのくらい発表しているかだとか,研究室外のどんな人と共同で研究をしているのかが,一目瞭然になります.
    • どのような機器やソフトウェアを活用しているかも,チェックされているかもしれません.
    • 業績の各項目に,論文へのリンクをつけておけば,喜ばれるでしょう.
    • Webページの出来がよければ,管理している人を知ろうとします.メンテナである,あなたの氏名とメールアドレスを明記しておきましょう.
  • 研究室に関心のある学部生
    • よく見られるのは,研究成果の解説と,活発さです.いずれも充実させましょう.
    • 学内アクセス限定で,写真集を設置しておくのも,いいかもしれません.
  • 受験生
    • よく見られるのは,研究成果の解説です.機器などにも,関心を持たれるかもしれません.
    • 研究紹介は,受験生だけでなく,受験生の保護者や親類縁者,高校の進路担当の先生が読んで分かるような内容を,心がけましょう.
  • サーチエンジン
    • 直接的にはサーチエンジンへの配慮ですが,これは,サーチエンジン経由で来る人,すなわち将来の(潜在的な)閲覧者に配慮しましょうということです.
    • 使用する単語に注意しましょう.SEOサーチエンジン最適化)やアクセス解析の本を,何冊か読んでおきましょう.ただし,数年前はポピュラーだった技法が,今は使えないといったこともあるので,そういったことはWebで入手すれば,万全です.また必要なら,robot.txtを作りましょう.
    • アクセスログから検索語を知ることを,習慣にしましょう.適切なアクセスログをもらえないサーバ*4とは決別です.生ログがもらえるけど膨大だと感じたら,ツールを探しましょう.
  • 研究室の構成員
    • 上で書誌情報の利用例を挙げましたが,他には,「スケジュール」を書いておくのもいいでしょう(管理に少し手間を要しますが).外からは研究室の活性化を知る情報になる一方で,研究室の中の人からは,いつがゼミでいつはゼミ休みだとか,学会発表で学生や先生がいつ不在だとかが分かって,役に立ちます.

あと

「雑多なこと」です.ここも箇条書きで.

  • 広報は,教員が責任を負うようにしてください.これを大前提として,内容はよく相談しましょう.一つの良さそうな運用形態は「広報係(あなた)が書いて,教員が承認したら,リリース」です.教員からのメッセージや,研究成果の書誌情報を教員が書いたとしても,あなたが誤字などのチェックをしてから,公表するようにしたいものです.
  • 年間スケジュールを立てましょう.ルーチンワークは,研究室メンバの加入と卒業/修了です.最初から全コンテンツを作るのではなく,研究紹介は1〜2か月に1テーマ,追加するというのでもいいでしょう.
  • 数量的目標を立てましょう.アクセスカウント(ページビュー)が分かりやすいといえば分かりやすいですが,内輪だけの喜びになりがちです.個人的に提案したいのは,「はてブ数」です.各ページでブックマーク数を表示させ,もちろんブックマークできるようにしておきます.在籍中に総はてブ数100個を目指すのは,いかがでしょうか.
  • 論文成果を,いつWebで公表するかについては,教員とよく話をしてください.とはいえ,私だとどうか,指針を書いておくと,「いつどこで,どんな題目で発表するかは,学会などの主催者がプログラムを公表してから」「論文成果の解説は,公刊日以降」です.論文原稿を執筆・送付した直後,いわばホットな時期に,どんな研究であり成果なのかを文書化するというのは,魅力的ですが,そうして取りまとめたものを即,公開してはいけません.
  • Webに載せるためのコンテンツ管理法にも,注意を払いましょう.バージョン管理システム,具体的にはSubversionの活用をお勧めします.アップロード用コマンドも用意して,ローカルな環境で動作確認した上で,コマンド一発でリリースしましょう*5.HTMLと画像コンテンツのほか,原図や参考URLといった,公表は必ずしもしないけれど,コンテンツ作成の際に参考にした情報も,別ディレクトリで保存しておきましょう.
  • ブログとの使い分けが必要です.ブログを研究室Webページとするのは,良くありません.ブログは旬の話題を扱い,研究室Webページでは5年後にも役立つコンテンツを整備したいものです.相互連携は是非行いましょう.研究室のトップページか,メンバ紹介のあたりで,ブログへリンクをするのが,良さそうです.
  • 広報活動はWebだけではない点に,注意しましょう.若手研究者のミーティングに足を運んで,世の中はどんな考えで動いているのかを知り,また自分からも話せるようになりましょう.名刺は必需品です.自分の情報だけでなく,研究室名と,研究室Webページへのリンクも記載します.渡す際には「(学年)の(氏名)です.(教員の名前)のところで,(研究内容)と広報活動をしております」と,もし私の前でおっしゃっていただければ,喜んで受け取りたいと思います.
  • さて,ドクターコースの期間中に実施するということで,「後輩と分担する」「後輩に引き継ぐ」の2点についても,維持管理しながら,心の片隅に置いてもらいたいと思います.分担のためには,全体として何をしていて,そのために,あなた(後輩)の何を借りたいのかを明確にします.そのコミュニケーションのノウハウは,研究職についてからも使えます.引き継ぎについては,D論執筆の息抜きとして検討し,D論関係の作業がひととおり終わって後輩(理想的には,そのときM2で,次年度ドクターコースに進学するという人)が修論の最終段階というときに,詳細化して,彼または彼女も一区切りついたところで,話し合うのがいいでしょう.

(同日夜に,イントロを変更しました.)

*1:参考文献:MASTERキートン.うちローカルな話ですが,学生室の本棚にありますよ.

*2:論文などの原稿の図・写真を,著者が研究室の者だからと単純に載せるのは,いけません.学会などに著作権譲渡されている可能性があります.まずは教員に相談です.

*3:「石橋を叩いても渡らない」という,高校3年のとき面談で担任に言われたフレーズを,ふと思い出しました.

*4:一つ,キーワードを挙げておきます:「リファラ」.

*5:私自身,研究室情報や授業コンテンツをSubversionで管理していまして,それと別に,rsyncコマンドを用いた,アップロードのzsh用aliasを定義しています.