原稿への自分なりの「赤入れ」の仕方について,整理してみました.
- 赤入れの5W1H
- 追加の1W1H
- 記法
- 置換(書き換え)
- 挿入
- 削除
- 順序交換
- 語句の移動
- 改段落
- 段落の結合
- 字下げ
- 空ける
- 詰める
- 揃える
- 長文の流し込み
- 字形の変更
- 赤入れ3形態
- 他の人の原稿に赤入れ
- セルフ赤入れ
- 赤入れしてもらう
赤入れの5W1H
- Why
- 原稿の内容をよりよくするために,行います.噛み砕いて言うと,原稿が「論文」として公表され,他の人に読まれていくことを想定し,そのときに「これ,おかしいんじゃないの」と言われる可能性を減らすためです.画面で見ているだけでは見つけにくい表記ミス(フォントの不統一など)を発見しやすくすることを,理由の一つに挙げてもいいでしょう.
- Who
- 執筆者よりも上位の者(指導教員や先輩)が行うのが一般的です.執筆者自身がすることもあり,「セルフ赤入れ」と呼んでいます.
- What
- 印刷した原稿ですね.書き込むスペースがほしいので,等倍・片面が原則です*1.まあ,赤入れする人の状況に応じて変えてもいいでしょう.私自身は「紙をケチる派」でして,今年度の卒論の原稿は,等倍・両面で刷ってもらいました.
- Where
- 計算機の誘惑のないところで,赤入れしたいものです.下の人や上の人が来ることも,電話がかかることもない状況で,できるといいのですが.
- When
- 1件の赤入れ作業には集中的に取り組みたいものです.原稿を受け取ったら,翌日には返すのが理想です.日数がほしいなら,例えば,金曜の午後に受け取って,月曜の同じ時間に返すのが,いいかもしれませんね*2.
- How
- 赤入れするための道具としては,赤のボールペンが理想です.赤ペン先生のペンは太いので,おすすめしません.必要に応じて,他の文献,辞書,Web上の情報も参照します*3.
追加の1W1H
- Whenその2
- いつ赤入れするか,言い換えると,原稿がどんな状態になったら,赤入れすればいいのかは,上の「When」とは異なる意味ですが,要検討事項です.私は,「卒論・修論は中間チェック日を設けて強制的に提出させる」「セルフ赤入れは,印刷のたびに実施する」としています.
- Howその2
- 「どんな書き方で赤入れするか」については,校正記号を使用するのがいいでしょう.それにより,修正すべき箇所と内容を,複数人で共有できます.原稿完成までに「書くべき内容」と「直すべきこと」のうち,赤入れによって後者を網羅的に認識することができ,効率良く修正できることにつながります.そして,「完成までに書くべき内容」を考え,充実させることに,集中できるのです.
記法
赤入れ例を書いていきます.それぞれの図は,PowerPointで作ってJPEGで保存しました.
記法はいずれも,私が使っているものです.校正記号をもとにしつつ,いくつか自分なりにアレンジしています.
置換(書き換え)
原稿に書かれているアレをコレに変更した方がいいよというときの指示です.
1文字のときは,該当文字にチェックマークをつけて,線(曲線)を引き,その線の先に,コレすなわち置き換えて欲しい文字を書きます.
挿入
原稿のココとココの間にコレを入れてほしいというときの指示です.
書き順ですが,まず挿入したい文字列を書きます.次に,挿入したい箇所に縦線を引きます.そしてY字になるよう,ちょんちょんとします*4.そしてY字の根っこから線(曲線)を引いて,挿入したい文字列とリンクします.
「{」を90度回転させた記号は,使いません.
削除
原稿のコレは取り除きましょうというときの指示です.
1文字のときは,該当文字にチェックして,そばに「トル」と書きます.
2文字以上のときは,チェックマークではなく,2本線にします.
1本線を引いて「トル」を添えるのは,百メーターが百メートルではなく百メーになってしまう*5ので,避けます.
順序交換
原稿で,連続しているアレコレを入れ替えて,コレアレにしてくださいというときの指示です.
記号は,「∽」です.“無限大”ではありません.中学の数学で教わった,“相似”を言うときの記号*6です.これで,交換したい文字または文字列を囲みます.
ここでのアレとコレは,2文字までです.3文字以上のときは,後述の「語句の移動」を使います.また,「アレなになにコレ」を入れ替えて「コレなになにアレ」にするときは,面倒でも,原稿の中のアレとコレに書き換えの指示を入れます.
語句の移動
原稿の中のコレを,そこじゃなくて別のところに移動しましょうというときの指示です.別のところは,コレの出現位置から見て前でも後ろでも,かまいません.
コレの範囲を,「[」と「]」でくくります.そして同一ページなら,挿入と同じようにY字を描いて,線(曲線)で結びます*7.
段落の結合
改段落の反対です.段落がアレで終わって,次の行がコレから始まっているけれど,コレをアレの直後にしましょうというときの指示です.
字下げ
ここから段落の開始なんだけど,字下げをしないといけませんねってときの指示です.
シルクハットみたいな形を90度回転させた記号で,1文字分,右に行けという指示になります.
英語論文で,章や節の始まりの段落は字下げしない*8んですよ(でも原稿は字下げしちゃってるよ),というときの指示は,後述のツメを使います.
空ける
本文や図表の中で,スペースをとったほうがいいなあというときの指示です.
どことどこの間を空けたいかの両端に,縦線を引きます.そして,どれだけ空けたいかを,横方向の両向き矢印で指示し,「トル」と同様に「アケ」を添えます.
上の図では2重線に見えますが,別々の縦線です.
詰める
アケの反対で,スペースを取り除いたほうがいいですよというときの指示ですよ.
「アケ」ではなく「ツメ」と書きます.
図ではスペースをなくす(取り除く)例です.減らすのなら,アケとどうように,どれだけにしたいかを,横方向の両向き矢印で指示します.
揃える
図表などで,複数の行を,左端だったり右端だったり中心だったりに揃えたいときの指示です.
上の図は左揃えの例です.左端を縦線,その間を斜め線でつなぎ,バラバラ感を見せます.そして「そろえる」というひらがなを添えます.中央揃えのときは,代わりに「センタリング」と書きます.
全くどうでもいい個人的な話ですが,ひらがなの字が汚いとき,「そ」「ろ」「え」「る」の区別のつかない,謎の指示になることがあります.そういうときは,赤ペンをいったん手から離し,冷静になります.
赤入れ3形態
他の人の原稿に赤入れ
他の人が書いた原稿を読み,赤入れして返却し,内容の改善に役立ててもらおうというときの心得を書きます.
まずは1回,通し読みをします.これをせずに,読みながら赤入れをしていくと,「コレ,ココに書く必要ないんのでは?」と思って赤入れした箇所が,後で効いてくることに,気づくこともよくあります.
他の人が読んで,理解してもらえるような赤入れをしなければなりません.字が汚ければ,線を引いて番号をつけ,どう変更するかなどの指示はメールで伝えるのも,一つの手です.字の大きさにも配慮です.赤入れする人と執筆者がともに見て,分かるようにしたいものです.
赤入れの書き間違いが不安なときは,鉛筆で別途書き込みます.私自身,鉛筆書きでも赤と同じ指示をしていることがあります.直接的な修正ではなく,内容改善のヒントを書いたりもします*9.
枚数が多くなければ,返却前に,コピーをとっておきたいものです.自分の知的財産とするのです.ただし,(本文の)著作権は執筆者にあるので,公開してはいけません.それから,次回提出時に「ここ,直ってないよ」と指示するのに使うのも,してはいけません.修正忘れも考えられますが,執筆者なりの考えで,直さないのが妥当と結論づけたからかもしれないのです.
返却時に修正箇所を確認します.1つの文で2箇所以上修正したら,修正語の文がどうなるかを赤入れした人が読みながら,ペン類の反対側を指示棒がわりにして追いかけていくことを,おすすめします.
セルフ赤入れ
自分の書いた原稿を他人の視点で読み,赤入れして,恥ずかしいところを少しでも減らそうというときの心得を書きます.
あれこれ考えながら書いたわけですから,上述の「1回,通し読み」は不要です.頭から読んで,おかしなところを赤入れしていきます.かつて指導を受けた先生や先輩をイメージし,あの人ならこの原稿を見て,どう指導するだろうかというのを考えてみるのも,いいかもしれません.
説明不足な箇所については,原稿の余白に鉛筆で書きます.一通り終えてから,メモ用紙を用意してリストを作り,書きやすいところから書いて,はめ込んでいきましょう.
そしてセルフ赤入れの要修正箇所を一通り直したら,赤入れ原稿はゴミ箱に捨てます.新たな気持ちで,磨き上げを図りたいものです.
赤入れしてもらう
自分の書いた原稿を他の人に読んでもらい,赤入れをお願いするというときの心得を書きます.
まず事前に,添削してもらうこと*10をお願いし,了承を得ておきます.加えて,「いつまでに返してもらえそうか」と「原稿はどんなスタイルにすればいいか」を尋ね,答えをもらっておきましょう.
期限(デッドライン)というのを,こちらから設定するわけにはいきません.相手は目上の人でお忙しいのです.だから,「いつまでに返してもらえるか」ではなく「いつまでに返してもらえそうか」です.学会への投稿などで,締め切りが決まっているものは,もちろん伝える必要があります.それでも,赤入れいつまでというのを決めるのは,相手さんです.
スタイルについては,冒頭の5W1Hの中で説明した「等倍・片面」が一つの例です.他には,「ダブルスペースにしてほしい」という指示があるかもしれません.ダブルスペースは,赤入れをしやすくするためのスタイルとしてよく知られています.http://d.hatena.ne.jp/dancing_infobio/20070806/p2を見て,対応してください.ダブルスペースの指示がなければ,刷り上がりと同じ形態でいいでしょう.
返却時に修正箇所を確認します*11.1点1点,その赤入れに対する指示内容を見ていきます.
「他の人の原稿に赤入れ」で書いた心得と異なり,原則としてそこで書かれた指示にはすべて従います.それで,よりよい表現を見つけたら,それを採用することをためらってはいけません.
赤入れされたけど,そこは元の原稿のままにしようと思った箇所は…別のメモで,該当位置と,その理由を書いておきますか.それで再度見てもらったときに,小競り合いが起こるかもしれませんが,押すか引くかしてください.
*1:両面にしないのは,連続するページでも同時に見えるようにしたほうがいいからです.関連:「紙」の対義語は? - わさっき
*2:休日の何時間かを,読んで赤入れするのに使うことになりますが.
*3:「計算機の誘惑」は? 赤入れをしながら,返却前に要調査となる語句などを別途メモして,一通り読んでから,アクセスするのはいかがでしょうか.
*4:ちょんちょんを下につけて,逆Y字にするときもあります.意味に違いはありません.
*6:大学では,全く使わない記号ですねえ.
*7:違うページなら,長文の流し込み(後述)を使って指示します.
*8:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20070217#20070217f1
*9:表記の統一に関する指示,例えば「句読点は.,」「表見出しは表の上」「大学教員の役職は,教授・准教授・講師・助教」などもよく書きます.
*10:語句の修正ではなく,全体を読み,不足している箇所や矛盾している記述を見つけてもらうのは,添削といいません.「校閲」または「閲読」といいます.
*11:赤入れの結果が帰ってくるまで,何もしないというのは,時間がもったいないので,その間にできる仕事を考えておきたいものです.原稿に手を加えるのは,なるべく避けます.どうしてもというときは,コピーして,「赤入れ原稿」と「手を加える原稿」を作って,前者は変えないようにしましょう.この種のコピーを「分岐」といいます.