わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

質問4つ

いきなりですが質問です.

研究室紹介のスライドの動きが気になったのですが,どんなソフトウェアを使ったのですか?

PowerPointのアドオンで,「pptPlex」です.

これを採用する前に,「Prezi」も検討しました.無料でも一応使えますが,どうやら基本的に有料ということで,あきらめました.


その次ですが質問です.

授業の中で,お子さんを含め家族構成のことをお話しなさっているのでしょうか?

ええ,しています.
1年生向けの持ち回り科目で,PowerPointを使って,ハガキの表面(宛名面)が個人情報,裏面(通信面)がプライバシーに当たると説明していて,その通信面に,子どもの写真を入れています.
そして写真を毎年,変更しています.今年はもちろん,すえの子の誕生です.


さらにまたまた質問です.

「決められた形式で書類を書く」という社会的常識と「ある特定の掛算の順序のみを正解としてしまう」という非常識を混同してしまっていませんか?

面白い指摘ですね.
かけ算の表記に関して,次のような問題設定ができるように思います.q1からq3までは,後で参照するためのラベルです.

  • (q1)□×△と△×□は違うのか?
  • (q2)□×△と△×□は違うと子どもたちが理解することを,小学校の教育は期待しているのか?
  • (q3)□×△と△×□は違うことを,社会は期待しているのか?

こうしてみたとき,q1は論証が難しいのです.たぶんケースバイケースなのだろうなあと思います.
q2が,3つの中でもっとも論証しやすく,答えはもちろんYESです.ここで挙げた4つの本からはいずれも,子どもたちが「□×△と△×□は違う」ことを理解しています.
対話を通じた気づきと別に,「□×△と△×□は違う」のを含め,かけ算の式で表せるか問う事例を,教科書や学力調査などから拾い上げ,かけ算・資料集3(その他)に集約しています.
なお,q2の先頭を「□×△と△×□の積は」に変えると,直後の「違う」は「同じ」にする必要があります.そのことも,小学校学習指導要領解説 算数編をはじめ多くの出版物で確認できます*1
q3もまた,ケースバイケースだと思います.とはいえ,違う事例をいくつか,挙げることができます.まず,科研申請の乗算で書いた式は,科研に関わる人の間とはいえ,まさに「違う」例です.情報検索の観点では,「grep 5×3 ファイル名」によって,ファイルの中に「5×3」を含む行を出力してくれますが,「grep 5×3 ファイル名」によって,ファイルの中に「5×3」または「3×5」を含む行を出力するには,bashまたはzshでfunctionを定義することになり,簡単にはいきません.単位を入れた数量表記では,15ピース×600円であって600円×15ピースとはしなかった心情にも,理解をしたいところです.
q1からq3までは,こちらにとって答えやすくなるよう選んだというのもありますが,これらは信念論理と深い関係があります."K is a secret key of Alice and Bob."と"Bob believes Alice believes K is a secret key of Alice and Bob."と"Alice believes Bob believes K is a secret key of Alice and Bob."は異なる命題です.そしてBAN logicで安全性検証のために論証する命題は,"K is ..."のタイプではなく,"誰か believes ..."のタイプなのです.信念論理やAlice,Bobについては,Alice loves Bob.をどうぞ.「答えやすくする」問題設定は,なぜ教材研究(4. 解くべき問題は何か?)でも試みています.
もとの質問の「社会的常識」「非常識」「ある特定の掛算の順序」といったところは目をつぶって,手短に答えるなら,多くの事例を知ることで,混同を防ぐことができますよ,といったところでしょうか.


最後にですが質問です.

順序にこだわらない,かけ算の教え方は,ダメなのでしょうか?

ダメとは思いません.挑戦のしがいがあるテーマだと思います.
ただ,思うに2つの関門があります.一つは,かけ算の式にできるかどうかの判断が,容易でないように見える点です.例題を示します.

  • 1ふくろに,3こずつ りんごが はいっています。そのような りんごを 5ふくろ かいます。ぜんぶで 何円に なりますか。
  • 1本136円で,280mL入りのジュースを4本買います。代金はいくらですか。

それぞれ,「情報過少」「情報過多」の文章題です.前者では,1ふくろの値段(または,りんご1この値段)が分からないと,金額を求められません.後者は,代金を求めるにあたり280mLは不要な情報であることに,気づく必要があります.
念のため書いておきますが,アレイなど,「順序にこだわらない,かけ算の教え方」で,これらが対処できないと主張しているわけではありません.手がかりを得にくいのです.それに対し,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める」や「累加」(の,小学生が理解できる表現)に基づけば,一つ分の大きさがないことに気づくのも,280mLは要らないのに気づくのも,より容易だろうとなります.
このことを,情報の分野の言葉を使って表すと,次のようになります.「順序にこだわらない,かけ算」は,正常系ばかりを見ていて,異常系への対応が見当たらないように感じるのです.
ともあれ,それらの種類の文章題は,運用でカバーするとしましょう.そして,「順序にこだわらない」ことのメリットも,きちんとアピールできるものとします.その上で,2番目の関門になるのは,実際に教える学校の先生方が,その考え方や指導法に納得でき,授業の中で使ってみようという気になれるかです.
別の言い方をすると,教える側が活用できるような配慮が,どのくらいあるのだろうかとなります.
「順序にこだわらない」解き方や考え方を提案している,Web上の言動を見ていると,この配慮がほぼ欠落しているなあというのが,これまで見てきた限りの実感です.
よし,自分がそれを手がけてやろうと,もし思った方がいらっしゃいましたら,2つ,気に留めておいてほしいことがあります.「順序にこだわらない」方法に切り替えたときに,小学校の上の学年のかけ算,具体的には小数や分数が絡む乗法のところまで,どのように対処すべきかを決める必要が出てきます*2.もう一つは,海外の「順序にこだわらない」指導法もよく調査いただきたいと,お願いしておきます.
ところで,今回の質問に対して「うん,ダメだよ.というのは…」と答える先生は,おそらくいないんじゃないかと思っています.これは,かけ算の意味といった話とはまったく別で,小学校の先生は総じて,質問に対してまずは共感的である点が大きいのです.その態度は,ここでまたWebの観察ですが,「□×△と△×□は違う」ことを含む学校教育への,批判のしかたと,対照的であるようにも思います.
(最終更新日時:Thu Oct 18 06:09:39 2012ごろ)

*1:「積」の字なしで,同じとしているものとして,『算数の探険1 たす ひく かける わる(加減乗除)』p.135の「3×4は4×3」があります.関連:HTHT

*2:お節介ながら,高学年では「順序」よりも,かけ算かわり算かの判断が重視されています.「演算決定」は,そのことを理解するためのキーワードになります.