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トランプ配りの本質は

http://d.hatena.ne.jp/takehikom/searchdiary?word=*[5×3]」でお越しの方へ:2013年3月より,「かけ算の順序」関連の記事には [OoM] というカテゴリーをつけています.総集編1総集編2も,どうぞご覧ください.

本日は,トランプ配りの等分除への適用について検討します.かけ算の文章題などでトランプ配りを適用しようとする話は,トランプ配りと,うまくやっていく配る(3. 猫にキャンディ,3×2とできるか?)で書いてきました.国内外の本や論文から知り得る限り,かけ算に適用しようとする先生も授業例も,子どもたちの認識というのも,見当たりません.
「トランプ配りの等分除への適用」を問題意識として,昨年末あたりから書籍を見ていくと,妙な共通性に気づきました.分ける対象が,一列に並んでいるのです.
手元の本から,例を挙げます.

Anghileri&Johnson (1988)
(FIGURE 6-1, p.147)

[f:id:takehikom:20130227051639j:image](p.156)

[f:id:takehikom:20130227051640j:image](p.160)

Greer (1992)
(p.281; dealing out

教科調査官が語るこれからの授業 小学校―言語活動を生かし「思考力・判断力・表現力」を育む授業とは
(p.71; 2012年のトランプ配り

アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード
(pp.57-58; 関連:2. どっちの式でもいいのかな - 北数教

ここまでいずれも,配られる対象が一直線になっています.
それらを目にして,「数を大きく見せる手法」(後述)を連想しました.最後の板書例は,「クッキーが□こあります」として,その総数が最初に明示されていませんが,それでも,配る人数が決まっていることと,1個ずつ取り出せることを前提とすれば,配っていくことができるわけです.


等分除を,アレイ図で表現する事例も,あります.

数と計算の指導―小学校算数指導資料

4.1.2 除法の素地
先に述べた乗法の素地となるような経験は,見方を変えれば,いずれも除法の素地にもなっている。例えば,数えることに関しては,「8個のみかんは,2個ずつまとめて数えると4回になる。」などという見方ができるようにする(図1)。これはまた,減法で表すと,8−2−2−2−2で数え終えたことになる。
また,分配を,計算とは別に,実際にそうさせることもある。例えば,「8個のみかんを4人に分けるにはどうしたらよいだろう。」などという場面を考え,各人に1個ずつ配り,まだ余りがあったらまた1個ずつ配るという活動をさせる。
(pp.144-145)

(図1)

算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集
(p.85; 3年のわり算かけ算
アもイも正解です.問題解決学習では,「アが正しい」,「イが正しい」,「どちらも正しい」という反応を出させてから,アは等分除,イは包含除でどちらも正しく,「わり算は,同じ絵でも式が違う場合がある」とまとめることになります.


木村教雄『小学算術教材ノ基礎的研究』には,「包含除の本質は累減にあると見ることが出来る.」と書かれていました.
これと同様に,トランプ配りとは何なのかを,表現することができそうです.すなわちトランプ配りの本質は,等分除に対する累減の操作にあると言えます.
減らすためには,「減らす分(数量)」が定まっていないといけません.
トランプ配りは,減らす分=配る分が「1個」と,明らかです*1
逆に言うと,昨日の記事で例示した,ショウユや糸を等しい量(かさ・長さ)に分けようとすると,累減のための「減らす分(数量)」が自明ではありません.
字数を増やしていいのなら…トランプ配りの本質は,分離量を対象とした,等分除を実現するための累減の操作にある,といったところでしょうか.


「数を大きく見せる手法」について補足します.
以前に30分×10人=300分を書きました.これは,かけ算によって,大きく見せられるというものです.
小学校学習指導要領解説 算数編 p.65にも,見ておくべきものがあります.1年向けですが,8本の鉛筆を2本ずつや4本ずつに分ける話です.これを読む際に,注意しないといけないのが2つあって,一つは,1年生にとって「8つ」という数が必ずしも,具体物・半具体物を見ても瞬時に認識できるとは限らないこと,もう一つは,この分け方は包含除によるものである点です.
同じページに,「具体物を等分することについては,全体を同じ数ずつ幾つかに分けたり,全体を幾つかに同じ数ずつ分けたりする活動を扱う」とあります.表記上は,包含除と等分除を同等に扱っていて,その2種類の分け方が,除法の素地となるわけです.しかしそのあとの例示や,ページ下段の8つの○の分け方,そして添えられている式を見ると,ここもまた,包含除先行・優位であるように見えます.
もし,等分除先行・優位(もしくは,包含除と等分除の同等性)を押し進めていくだとか,トランプ配りの乗法への適用を,算数教育において確立しようとするなら,この段階から,素地となるような工夫が必要なように感じます.

(リリース:2013-02-27 早朝)

(最終更新:2013-02-27 朝)

*1:配る際に,配る分が常に同じである必要は,ありません.360円(百円玉3枚と十円玉6枚)は,3人に120円ずつ渡すことができます.「1回に配る分」が同じであれば十分です.