わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

しげしげと・まじまじと・つくづくと・しみじみと

いきなりですが問題です.

以下の4つの語について,その意味の集合を考えて一つだけ異なるものを選んでください.
①しげしげと
②まじまじと
③つくづくと
④しみじみと

いつものように,解答の前に元ネタです.

大学における学習支援への挑戦―リメディアル教育の現状と課題

大学における学習支援への挑戦―リメディアル教育の現状と課題

上記の問題は,p.38に載っています.掲載意図として,「ターゲット語一つの知識では回答*1できない」「それぞれの語の関連性を見る力を測ることができる」などを挙げています.「ターゲット語一つ」の出題例は,p.37にあり,「鷹揚な」の意味を4択で,「由々しい」の適切な使い方を3択で答える問題が掲載されています.
「掲載意図」に関してですが,仲間はずれ問題ほかが載っているChapter 2には,「プレースメントテスト」という章題がついています.「プレースメントテストは,これから入学前・初年次・リメディアル学習をする際に事前に学生の基礎学力を把握することが主目的である」(p.34)が,簡潔な説明となっています.章では概説のあと,日本人のための日本語テスト,英語,数学,理系(物理・化学・生物)の各プレースメントテストについて,事例や注意点が記されています.
“しげしげと・まじまじと・つくづくと・しみじみと”の件に戻りまして,原文の囲みの中に「日本語IRTテスト問題より」とありますので,この中で正解---仲間はずれ---になるのは一つであることが予想できます.IRTについてはwikipedia:項目応答理論,当ブログからだと学力評価の最前線理系数学の5択問題をご覧ください.

本にも,Webで探しても,正解は載っていませんので,自分なりに解答を導くとします.…….しかし,“しげしげと・まじまじと・つくづくと・しみじみと”を何度見ても,目を閉じて思案しても,明らかに仲間はずれだというものは,見当たりません.

自分の知識の外に頼るとします.まずはオンライン辞書です.goo辞書(デジタル大辞泉)で4つを引きました.いずれも,「と」を取り除いたものが見出し語になっており,3または4個の意味が載っています.用例に「見つめる」または「眺める」を含む項目を取り出します.

2 物をよくよく見るさま。じっと。つくづく。「相手の顔を―(と)見つめる」

しげしげ【繁繁】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

1 目を離さないで一心に見つめるさま。じっと。「我が子の寝顔を―と見つめる」

まじまじの意味 - 国語辞書 - goo辞書

1 物事を、静かに深く考えたり、注意深く観察したりするさま。よくよく。じっくり。「寝た子の顔を―(と)眺める」「―(と)将来を考える」

つくづく【熟】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

3 じっと見るさま。「―(と)自分の顔を眺める」

しみじみ【染み染み/沁み沁み】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

こう並べてみても,まだ,仲間はずれは見つかりません.あえて分けるなら,用例で「(と)見つめる」が続く前二者と,「(と)眺める」が続く後二者という,2つどうしでしょうか.
しかしその分け方も,別の見方をすると破綻します.というのも,「しげしげ」の説明に「つくづく」が入っているのです*2.上記引用に限らず,各語を見直すと,「つくづく」の中に「しみじみ」があります.
辞書を離れて,語どうしの関連性,すなわち「類語」に注目し,この4つの語のつながりを検討することにします.連想類語辞典: 日本語シソーラスで,「と」抜きの4つの語をそれぞれ入力して表示される内容から,他の語の出現状況を調べたところ,次のようになりました.

この関係を,Graphvizで可視化してみます.まず,次の内容のテキストファイルを作ります.

// shigeshige.dot
digraph shigeshige {
  "しげしげ" -> "まじまじ";
  "しげしげ" -> "つくづく";
  "まじまじ" -> "しげしげ";
  "まじまじ" -> "つくづく";
  "つくづく" -> "しみじみ";
  "つくづく" -> "しげしげ";
  "つくづく" -> "まじまじ";
  "しみじみ" -> "つくづく";
}

そしてLinux上でdot -Tpng shigeshige.dot -o shigeshige.pngを実行すると,以下の画像ができました*4

ここから,すべて一応はつながっていますが,“しげしげ・まじまじ・つくづく”は相互に行き来できる関係*5なのに対して,“しみじみ”は“つくづく”とだけ,つながっているのが見て取れます.
ということで,「連想類語辞典」を根拠とするなら,“しみじみと”が仲間はずれになります.
ここで辞書の意味に戻ります.1点,気になる説明がありました.

1 物事が、たび重なるさま。たびたび。何度も。「その店へ―(と)足を運ぶ」

しげしげ【繁繁】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

これを第一義として,「しげしげ(繁々)」という言葉の使われ方を思い描いてみると,「しげしげと見る」は,「何度も見る」と言い換えることができます.
対象物をよく見てから,いったん視線を外し,また目をやり,また外し,また,というのを可能にするのが,「しげしげと」です.
そして“まじまじと・つくづくと・しみじみと”のいずれも,「何度も」に置き換えるのは不自然です.
そう考えてみると,意味上の仲間はずれは,“しげしげと”になるのではないかとも思います.
繰り返しますが『大学における学習支援への挑戦』にも,「日本語IRTテスト」のサイト(http://manajin.info/irt/)にも,この仲間はずれ問題の正解は載っていません.
釈然としないけれども,ある方法では“しみじみと”が,他の方法では“しげしげと”が,仲間はずれになりそうだ,というのを本日の結論とします.

(最終更新:2014-12-18 朝)

*1:原文ママ

*2:そういえば入試英語の発音問題で,2つずつ同じのがあるように見えて,そのうち1つは,もう1つのペアに入るべきなのに気づき,それによって他と異なる選択肢を得る,という解き方をしたものでした.このロジックだと,“まじまじと”が仲間はずれになります.

*3:類語の中に「沁沁(しみじみ)」が入っていますが,有向グラフの自己ループに当たるもので,除外しました.

*4:枠線処理は別途行っています.

*5:「3-クリーク」とも言えます.関連:wikipedia:クリーク_(グラフ理論)