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単位が教えてくれること,どうやら教えてくれないこと

新・単位がわかると物理がわかる (BERET SCIENCE)

新・単位がわかると物理がわかる (BERET SCIENCE)

「新」があるなら,新のつかない本は何だろうと,Amazonで探したところ,Kindle版(asin:B00QKMQ1IM)があったので購入し,これまた年が明けてから入手したNexus 9を使って読みました.
2冊の目次を見比べると,「新」のほうには,第7章(視覚や聴覚に関係する単位)と第10章(プランク定数と新キログラム),そして付録の章(放射線関係の単位)が追加されています.本文については,図が手書きでしかも,2冊で同一のものも多く,追加された章の図がそれまでと違和感のないことと合わせて,驚きました.
以降は「新」を見ていきます.購入した動機の一つは,電力(キロワットなど)と電力量(キロワット時など)を,この本の中でどのように扱っているかを知りたかったからです*1
主要な言葉の式を,取り出すと,まず「仕事=力の大きさ×距離」で仕事を定義し(p.85),仕事率は「仕事率=仕事÷時間」(p.96)で表しています.これらはともに第5章(エネルギーと仕事)です.第9章(電気関係の単位群)に移って,電流の単位と,仕事率が消費電力に結びつけられることを述べたあと,「電力=電流×電圧」という関係で電力は定義される(p.171)としています.
単位から見ると,この流れはなるほど合理的ですが,中学校の授業や,当時本を読んだりして,個人的に学習した流れと異なっています.
教科書も,当時の本も手元にありませんので,学習指導要領を参照します.『中学校学習指導要領解説 理科編』をPDFで読むことができ,p.42には「電力については,電流と電圧の積であり,単位がワット(記号W)で表され,1 Vの電圧を加え1 Aの電流を流したときの電力が1 Wであることを理解させる。」,その次のページには,「水の温度上昇は,電力と時間の積である電力量によることを理解させる。電力量の単位はジュール(記号J)で表されることを扱い,発生する熱量も同じジュールで表されることや日常使われている電力量,熱量の単位にも触れる」と書かれています.これらから,電流,電圧,電力,電力量の順に学習することが想定されています.私の認識にも合います.
中学校と大人の世界とでは違うと,切って捨てるのも可能ですが,この違いは,何を測ることができるかの違いに起因するようにも思います.理科教育では,電圧計と電流計が,電力計や電力量計*2よりも手軽に使われてきたわけです.「電力=電流×電圧」の式をもとに,電力・電流が分かれば電圧が求められるという方針で,電圧計なしで算出するという授業や実験を目にしたこともありません.
本を読み通したところ,多様な物理量を,かけ算とわり算で,言い換えると「乗法的に」学び,関連づける必要があるのを教えてくれます.「長さと時間は足せる!」という節もありますが,それは相対論をもとにした議論です.
そうしてみると,日常生活において,あるいは算数・数学や物理の問題を解くにあたり,そこで「何と何を足せるか,足せないか」について,答えを与えてくれない*3ことが,気になってきました.長さと時間を持ち出さなくても,2つの「速さ」---単位まで同じ---でも,足してよい場合,いけない場合が思い浮かびます.「3m/sで走れるこどもと,5m/sで走れるこどもが手をつないでも,8m/sでは走れない」(『量と数の理論 (1978年)*4』p.9より改変)けれども,そこから「速さを足すことはできない」と言っていいのかどうかです.その場面は,できないと言っていい例ですが,一般にそう言うのは間違いであり,相対速度を考えるときには,足したり引いたりできます.
そうすると,どんなときに速さを足すことができ,どんなときに足せないのかが,気になってきます.以前,「合併」の操作に基づき,考察をしたことがあります*5が,ある程度,実用性のある結論を言うには,新旧の『単位がわかると物理がわかる』で言及のなされなかった,「内包量」を活用するのが良さそうにも思っています.

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141229/1419806614を書いてから,この本を知り購入しました.

*2:Greerが表に載せたかけ算・わり算の文章題は,「電力量を電力と時間の積で定義すべきか」と「電力を(速さを長さと時間の商で定義するのと同じように)電力量と時間の商で定義すべきか」の対比において前者が採用されている---本人がそのような対比をしたかは不明ですが---と見ることができます.

*3:「(測定された,もしくは所与の)2つの量を足して,意味のある(その場面で何らかの意味を表す)足す量が得られるか否か」のほか,「さまざまな数量がある(問題文に書かれている)ときに,どれをどのように用いて演算し,答えとなる数量を求めればよいか」についても,残念ながら示唆が見当たりません.http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA199に書かれている"Each wall contains 12 rows of tiles. The price of each row of tiles is $2.45. How much will it cost to buy the tiles for one wall?"という問題を解く際に,the price of each tileを知らなくてもいいし,テストなど,先生に尋ねられない状況でそれを求めようとするなら,解にたどり着けないのです.算数・数学教育で「次元(dimension)」を言う際には,Schwartz, Vergnaud, Nesherを振り返ることを,自分自身への備忘録とします.

*4:この本では単位長の何倍かについて,「2m または m×2」(p.18)という表記を採用し,「2×m」の書き方は見かけません.『新・単位がわかると物理がわかる』p.15では「2メートル = 2 × メートル」となっているのと対照的です.

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140403/1396450800