わさっきhb

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もうひとつの乗法構造

この記事をリリースしてから1年間,目にしたこと,読み直したことがいくつかあります.


量の積の出題は,割合のそれらと同等なのではないかという指摘をTwitterにて頂戴しました.たしか国際単位系(SI)を援用されていたと記憶するのですが,wikipedia:国際単位系wikipedia:新しいSIの定義を読んだところ,これは自分の手に負えない話だと判断しました.素朴なアプローチで少し,検討を試みるとします.
量の積も割合も,かけ算・わり算の式で出てくる3つの数は,異なる種類の量です.消費電力が(わり算によって)算出されるからこそ,それをかけ算の式に適用できる,という考え方をとることもできます.
ですが違いもあって,具体的には,何を「既知の量」とするかの認識です.割合の出題では,異種の二つの量の割合という概念を認識し,わり算で算出することを,まず学習します.その後,速さと時間をかけて距離を求めるケースや,距離を速さでわって時間を求めるケースを学習することになります.3つの量が区別されることに配慮して,言い直すと,長さ(距離)と時間を既知として,それらから速さを導出します.
それに対し,量の積で挙げた問題では,「13.9キロワット時」といった電力量,そして時間が既知で,それらから電力という概念を学習しよう,わり算で求めようという展開は,想定されていません.算数の授業に適用しようとしても,無理があります.実際,「キロワット時」という単位から,話を始めるわけにいきません.
またワット時にせよワットにせよ,(速さの計算に先立ち測定可能な)長さや時間よりも,測定が困難という課題もあります*1.実のところ,量の積のパターンを,小学校の算数で,見かけることはありません.数学教育協議会の方の著書ではしばしば,輸送量(トンキロ)が取り上げられていますが,これとて私自身,小学校で学んだ記憶はありません.洋書でも,Greerの表以外に,思い浮かびません.
ではなぜこの例が載っているかというと,推測ですが,これは異種の二つの量の積によって,新たな量が得られるというような,かけ算(そしてわり算)の関係が存在することを,主張したかったのだと思われます.「異種の二つの量の積」ということで,面積とは区別されます.著者らはさらに,電力量を時間でわって電力を求めることと,電力量を電力でわって時間を求めることとが,実質的に同等の演算と見なせると位置づけています.長方形の面積を縦(あるいは横)の長さで横(あるいは縦)の長さを求めるのと,「実質的に」の種類が異なるのにも,留意したいところです.


Greerの表や文献を,外から眺めてみます.その表は,a×bのかけ算の式で表されるざまざまな事例について,その分類を行おうという試みの結果の一つとなっています.
その後の分類は,というと,米国Common Core State StandardsのMathematicsに掲載された表が知られています.

いろいろな人が提案する分類を比較することも,可能です.Greerの文献の中で,そして2007年の台湾の方の博士論文にも,いくつかの分類の比較表が載っています.いずれの比較でも,Greerのものが,分類が最も細かくなっています*2
分類は,算数・数学教育の研究者でなくても,手順を踏めば「お手製」のものを作ることができます.まずは,「4×3」でも,任意のかけ算の式でもいいのですが,その式で表される場面をできるだけたくさん書き出します.人の協力を借りてもいいでしょう.
次に,書き出した場面のあらゆるペア(任意の2つの組み合わせ)について,それらが同じか違うかを数量化します.ここでもまた,人の協力を得るなら,Webフォームを作って「同じ」「違う」の二者選択をしてもらい,回答者数でわれば,群衆知による類似率が得られます.一人で行うなら,二者択一ではなく,完全に一致なら1,完全に異なるなら0とし,その範囲内で一つ一つ,主観的に類似度を割り当てることでしょうか.
ペアごとの類似率(度)をもとに,表あるいは行列を作り,統計処理プログラムに通せば,デンドログラムと呼ばれる,トーナメント表のような表示が得られます.対象となったすべての場面を一列に並べ,関連のより近いものから結びつけられます.適当なところで分割し,各グループに名前をつけたり,共通する特徴を説明したりすることも,容易となります.
分類やらデンドログラムやらについては,今月書いた以下の記事をご覧ください.


他に学んだり,検討したりしたことを,簡潔に:

  • Greerによる分類の話では,著者自身がそこにstructureという用語を用いていません.かけ算における「構造」と言えば,Vergnaud (1983, 1988)の"Multiplicative Structures"が,当時の算数・数学教育の研究者に対し影響力を持っていたと思われます.なのですが,演算が適用される場面(文章題)を分類し,それをstructureと関連づけている記述は,他で目にしています.isbn:012444220Xのp.14 *3に,「Classification of Problem Structure」と題する小節があます*4.たし算・ひき算を「Change」「Combine」「Compare」「Equalize」の4つに大別し,それぞれを「Join」「Separate」で分けた,分類表も載っています.Equalize-Joinの出題例の一つは"Connie has 13 marbles. Jim has 5 marbles. How many marbles does Jim have to win to have as many marbles as Connie?"です.しかし米国Common Coreでも日本の算数でも,2つの数を同じにする際の変化量を求めるという「Equalize」*5が,たし算・ひき算の学習で重要であるという見方に,現在,同意する人はまずいないでしょう.こういった分類づくりにおいて,最後の項目は,レアかもしれないが著者の思いとして挙げておきたいことを挙げる,とすれば,私自身にも経験があります.
  • 「かけ算1つとわり算2つ」については,いくつか記事にしています.
  • 今年後半の検討で,「順列のかけ算」が,直積とは別の,かけ算のタイプであると認識するに至りました.N_n={1,2,...,n}とおいたとき,n人の1位と2位の組み合わせが,{(x,y)|x,y∈N_n}−{(x,x)|x∈N_n}により定められる集合と一対一に対応するので,その場合の数は|{(x,y)|x,y∈N_n}|−|{(x,x)|x∈N_n}|=|N_n×N_n|−|N_n|=|N_n|×|N_n|−|N_n|=n×n−n=n(n−1)となります.そこでnに4を代入すると,4人いるときの1位と2位の組み合わせとなる4×3通りが得られます.関連記事にリンクしておきます.

*1:無理して問題文を作ってみるなら,電気代の請求書の中に,1台の機械の消費電力量が記載されていて,動かす側では請求期間内にちょうど何時間稼働したと分かっているときに,その機械の電力を計算すること,でしょうか.

*2:関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140228/1393537997

*3:Carpenter, T. P. and Moser, J. M. (1983). The Aquisition of Addition and Subtraction Concepts. 前に取り上げたのは:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140422/1398113815

*4:文章の中に,"(Ginbayashi, 1980)"という記載があります.書誌情報は次のとおり:Ginbayashi, H. Theory of quantity. Paper presented at the Fourth International Congress on Mathematics Education, Berkeley, California, 1980.

*5:"to win"がなければ,JimはConnieと別のところからおはじきを8個もらって同数にする,という別解も生じます.

*6:学校図書6年上p.89の「力だめし」は,一昨日付の記事で記した「他の人の発言の断片から,その意図を説明できること」の典型例でもあります.