わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

1冊の本に3種類の速さ

タイトルからすると,小学校教師向けの本かなと思いたくなりますが,著者は塾講師ですし,本文で使用されている出題は,小学校の算数というよりは,中学受験用です*1.広く,算数に関心のある人を意図して書いたのでしょうか.小学生が読んでも,まずくはないと思います.
クラスにおける子どもたちの相互学習・相互作用について,「活動の主役を交代させる」(p.62),「グループに分かれて班活動をする」(p.63)で確認できるものの,ウエイトは小さめです.
通して読んで,一番気になったのは,「速さ」の扱いです.3箇所に出現していて,それぞれ,考え方が違うように思えてならないのです.
最初はp.57です.簡単にいうと,「公式不要」です.

速さの分野においては速さの3公式を覚えさせることよりも,実体験に基づいてイメージさせると理解が早いです。例えば自分が時速4kmで歩いているのを想像させて,2時間歩いたら何km進むか,10km進むのに何時間かかるのかを質問すると,子どもたちは公式をもとにしなくても,考えて正解を言ってくれます。これがあるべき算数力です。

次の興味深い出現はp.94,「面積図」のところです.ページ中央に,5つの面積図が横並びとなっています.その真ん中に,長方形*2の縦に「速さ」,横に「時間」,面積に「道のり」を書いた,速さの面積図が載っています*3
またページが飛んで,p.142には「はじき」の図が出現します.本文では「「くもわ」「きはじ」「しぜこ」の「3匹のてんとう虫」」として,てんとう虫っぽく見えるような装飾も施されています.「くもわ」とは「く:比べる量,も:もとにする量,わ:割合」,また「しぜこ」とは「し:食塩,ぜ:全体,こ:濃さ」のことです.
こうして取り出してみると,違和感も見えてきます.先に公式不要と書きましたが,面積図や,てんとう虫の図は,公式の図的表現です.それらを描いて当てはめる*4のは,公式を用いるのと本質的に同じとなります.
違和感を解消するには,「教師は,一つの対象(例えば速さの概念)について,多くのことを知っておき,使う際には最も効果的なものを取り出す」と考えればよいでしょうか.直接,そのように書かれているわけではないのですが,p.113の「教えすぎない」とその前後では,教師が教えることと,子どもが学ぶことの違いが,意識されているように見えました.


「かけ算の順序」について,当ブログの今後の予定を書いておきます.いくつか書いたこと*5を整理しながら「量感について」をリリースします.本日の本も取り入れながら,「はじき」の更新版*6を出します.先月,長文を書いて進展できなくなった「『かけ算には順序があるのか』を読んだら」*7は,トピックごとに記事を分割*8できないかと考えています.

*1:第1章のpp.12-21で,算数と数学との違いを,ベン図その他で表現しているのは興味深かったのですが,他書との照合がなされていればとも感じました.

*2:正方形か?

*3:5つとも,縦×横で総量を求められる…と思いきや,速さの面積図の右隣は,縦が「濃度」,横が「食塩水全体の重さ」,面積は「食塩の重さ」です.割合のかけ算の式としては,ここだけ横×縦です.

*4:てんとう虫の適用について,p.142で肯定的な見解が書かれています:「実際にあったことですが,以前中学2年生が速さの問題の解答用紙の解答欄の余白に,連立方程式と合わせて「きはじ」のてんとう虫を書いていました。高得点で正解をしていたのですが,気になったので聞いてみました。すると「小学生みたいですが,これを描かないと不安で…。」小学校のときの学習が活かされているのですね。」

*5:たとえば:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140529/1401313148

*6:前は:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130130/1359490089

*7:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150624/1435093174

*8:Q&Aの分割は:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130430/1367333598