わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

積・倍・積,その後

https://twitter.com/LimgTW/status/578996959765094401より,積・倍・積〜新たなかけ算のサンドイッチへのリンクがなされ,いくらかアクセスがありました.


その後のツイートを見る限り,[twitter:@LimgTW]さんは数学や物理との結びつきを重視されているようですが,私が関心を持っているのは,算数教育です.
量どうしの乗除や,その活用の背景にあるのは,「次元」の概念や,「次元解析」であるのに対し,国内だと数学教育協議会を主とした理論的検討や実践,また洋書による解説*1を通じて,伺い知ることのできるのは,「次元解析の算数・数学への適用」となります.
例えば,http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189より読めるのは,小学校算数のかけ算を主な対象とし,"Dimensional Analysis"をセクションの1つに置いている文献です.
この文献と,そこで取り上げられているSchwartzおよびVergnaudについては,いずれも昨年,記事にしてきました.


ところで「量×量」に関連して---量どうしのかけ算を行い,意味のある1つの量が得られることについて---,ツイートをざっと見たところ「複比例」が出てこないのが,いささか気になります.当ブログでの初出は次の記事です.

その後いくつか記事にしました.

以上はここでも算数教育を念頭に置いた記事でしたが,数学の背景もあります.キーワードは「テンソル積」です.

量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』p.188,『線型代数 (1976年) (現代数学への序章〈3 赤摂也,広瀬健編〉)』p.58にはそれぞれ,以下のとおり,可換図式が載っています.


2つの図が類似しているのは,ブルバキ数学原論』をもとにしているためと思われます.
この図式が意味するのは,「日常的な表現をすると,“複比例とは積に比例すること”である」(『線型代数』p.59)であり,これはさかのぼって,Vergnaudの複比例の場面にも適用が可能です…と書いた上で,記事を読み直したところ,「multiple proportionの例題」として引用したほうは,適しているように見えません.複比例で扱えるのは「scout campでのシリアルの消費量(cerial=persons×weeks)」のほうです.


あとは個々に.


Twitterでちょくちょく見かける「きはじ」についても,ここに書いておきます.
数学セミナー 2014年 09月号 [雑誌]』p.63(浪川幸彦「変化と関係」)に「きはじ」の図が載っており,批判の俎上となっていますが,この三者関係については,海外の文献にも見られ,以前に整理を試みています.

三者関係を説明しているのは,現代化のころに催された座談会の中にあります.

 中島 比の3用法を俎上にあげる方が多いようですが,方程式で解くといっても,その立式がすでに必要なことであるし,その辺,よく理解していただいていないのではないですか。比の用法は複雑だというご意見ですが,乗法・除法の適用の場を構造として捉えると,あのような形にまとめられるということです。

量,比の3用法―1965年の座談会より

座談会では,上の発言は“叩かれて”いますが,3用法という言葉こそないものの,小学校学習指導要領解説算数編で書かれている「小数の乗法,除法の意味」は,実質的に3用法ですので,今も指導されているわけです*3
「構造」について,コンピュータ雑誌に書かれた解説が興味深いです(結城浩「Brute Force」,『ソフトウエアーデザイン 2015年 04 月号 [雑誌]』p.5).

暗号アルゴリズムに限らず,アルゴリズムにおける工夫は,探索空間が持つパターンや冗長性あるいは規則性といった構造を発見するところから生まれます。発見した構造をもとにして探索空間を効率良く狭められるからです。構造が発見できなければ,ブルートフォースで問題解決にあたるしかありません。

かけ算についても「構造」を考えることができ,実際,"Multiplicative Structures"と題するVergnaud (1983, 1988)が,国内外でよく引用されてきました.
かけ算の構造,あるいは,「小学校で学習すべきかけ算には,どんなものがあるか?」という問題意識を考慮すると,『数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)』p.46を中心に読むことのできる批判について,この著者は「構造」は見えているけれど,「構造を確立した人々」のことは見えていないなという印象を持っています.そこで取り上げられている,トラックの例題は,「積(デカルト積,数×数)」と「倍(量×数)」が組み合わさったものであり,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131116/1384560000#3.3http://www.slideshare.net/takehikom/ss-45239765/49で図にしたものが,同じタイプとなっています.

*1:内包量について,1つの段落で国内外の文献を取り上げている文章が『認知心理学からみた数の理解』にあり,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130312/1363031965で引用しています.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140228/1393537997でQ&Aの1つとしてリンクしています.

*3:海外(米国)はというと:http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdf#page=89;中島のその後:http://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/66.html http://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/45.html